08 冒険者の後悔
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森への侵入者。人間でありながらこの森へと入るその冒険者たちは、何も知らないまま森を進んでいく。まさか、この森が世にも恐ろしい、精霊たちの巣窟だとは彼らはまだ、知る由もない。
森へと足を踏み入れた冒険者一行は、そのあまりに静かな森に不気味さを感じている。この約20名からなる巨大な臨時パーティのリーダー、ガイス・リートンもその一人だ。
「ガイスさん、こりゃどういう事っすかね?全く魔物の気配もないんですが?」
「そりゃこっちが聞きたいね。さっきから小さな動物は見かけるが、それしかいない」
最初、この依頼をギルドで見た時は何の冗談かと疑ったものだ。
Bランク依頼でありながら木を一本切り倒すだけ。報酬は一人につき金貨3枚。明らかに破格過ぎて、何か裏があるのではないか?とギルドに探りを入れたのだ。
案の定わけがあったらしいが、ギルドマスターから聞いた話によればこの森の木があり得ないほどの強度を誇るとかで、国に対して売ったところ金貨100枚で買い取ってもらえたそうだ。
だが、あまりに胡散臭い。そう思って見せてもらった木の欠片は確かに凄まじいまでの強度を秘めていた。
しかし、そこで思ってもしまう。どうやったらここまでの強度になり得るのか?
通常のそこらに生えている木にはこれほどの魔力はどうあっても宿らない。それどころか、ほとんどが人間よりも遥かに微弱な魔力しか持っていないはずなのだ。
それでも、確かにギルドで見た木の欠片は本物だった。
本当に木の一部であり、そしてその内包された魔力は欠片だけですらあの精霊鋼に匹敵するかもしれないのだ。無論、実物はそこまでじっくり見たことがあるわけではないので何とも言えない。それでも、あの精霊鋼と比べることが出来るほどの強度を誇るのは間違いない。
「これはもしかしたらとんでも無い事に巻き込まれたのかもな」
ギルドではAランクの冒険者として、ギルドマスターの弟子でもあるガイスはそう呟く。
この冒険者たちのランクはG~Sまで存在する。最も、Sランクはギルドマスターや他数名にしか与えられないランクであり、そこらの貴族よりも権限は高かったりする。
が、Aランク冒険者もはっきり言ってかなり凄いものだ。才能だけでも、逆に努力だけでも絶対にたどり着くことは敵わない。それがAランクの壁だ。そんなAの壁を越えたガイスの勘。まだ若いはずだが、その経験はギルドマスターも認めるほど。その上才能にだって恵まれている。
だから誰もが安心している。こんな簡単な仕事だと。万が一があってもガイスがいるから、と。
「全く、不気味過ぎるな」
「ガイスさん、少し心配し過ぎじゃないですか?」
「バカ野郎。ここはつい数年前に発見されたばかりの未開の森だぞ?何があるかも分からない。その上あのおかしいまでの強度の木の欠片。完全な木は今も周りにある通りだ。どれほどの硬さかはまだやってないから分からないが、こんなものまで渡されてんだ。とんでもない物なのは間違いない」
そう言ってガイスが取り出したのは綺麗な斧だ。それは通常の斧の何倍も重く、そして切れ味は彼の持つ魔剣よりも断然良い物だった。
「なんでも、この森の木を丸々一本使って加工したらしい。俺の持ってる剣よりも断然切れ味が鋭い」
「ガイスさんの魔剣よりも!?」
ガイスの後ろを歩く青年はそう大きく声を上げる。
ガイスの魔剣は冒険者の間でも結構有名だった。名のある冒険者が魔力付与武器を使うのはよくあることだが天然物で、しかもここまでの一品は冒険者でも中々手に入らないと、ガイスの名前にさらに箔付けをしていたほどだ。
その魔剣を軽く上回ると豪語するガイスにその青年はあり得ないといった顔をしながらも、その斧をジッと見つめる。
用意されたのは全部で三本。それを20人が交代でやっていく。そこまでか?と思うかもしれないが、それほどまでに硬かったのだと、以前この木を切り倒した冒険者は語る。
「森だっていうのに魔物は出ない。魔素濃度は魔法をかけないと入れないくらい高い。しかも中に行けば行くほど濃くなっていく」
「おまけに馬鹿みたいに硬い木ですもんね。なんかこの森凄いですね。大自然の神秘みたいな感じで」
大自然の神秘。その言葉にガイスはしっくりと来る。 大自然の神秘。未開の森。
この世界には神秘的なものが多数存在する。勇者や精霊がいい例だ。その他にも悪魔や魔王。神や魔法。スキルや魔道具。など、あまりに人間の知らないものが多すぎるのだ。
勇者や魔王についてもそこまで詳細なことは分かっていない。それこそ魔王を倒すのが勇者で、聖剣を持って戦うとか、その程度だ。
精霊などについてはほとんど何も記録が無い。半ばおとぎ話と化してる。それでも年に数件程度は精霊の目撃情報などを聞く。
ガイスは今回の件も、その神秘の一部なのだと位置づけて考える。自分たち人間では理解できない超常の大自然。それを解き明かそうなど、馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
「いいか?今日は切り倒したらすぐ帰るからな?この森は多分ヤバい」
「ガイスさん?」
「よし、この辺で良いだろう。これから作業を行う。こんな如何にも危ない匂いがする場所は、すぐに帰るぞ」
何も分からない故の最善策。出来ることをしたらすぐに帰る。
こんな入ってすぐの場所ですら魔素が濃すぎるのだ。普通の生物は決して生きていけないだろう。あの動物たちも考えてみれば魔物に近いのかもしれない。
こんな場所で魔物が生まれたら、そう思うと物凄い悪寒に襲われる。
魔素が濃ければ濃いほど、魔物もまた強くなる。入り口付近ですらこの濃度。中心付近で生まれた魔物は、それこそギルドが特別指定するような“壊滅級”の魔物が生まれてもおかしくないだろう。
そして、作業を進め、半分ほどまで進んだ頃だった。
その小さく、それでいながら彼らでも分かるほどの圧倒的な脅威がやって来る。
「ここはテティ達の森。家族を傷つけるなら、出ていけ」
それは曰く伝承に出て来る存在に酷似していた。
その姿を見て、ガイスは理解した。
その存在の放つ物が怒りであると。
精霊の逆鱗に触れてしまったのだ、と。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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