77 終末の勧奨者1
一週間ぶりの投稿です。
明日も更新出来たらします!三章が終わった後をどうするか迷ってます……
「私はやり直せるの?」
大きな木の下で、何日経ったか分からないその場所で、エインと向かい合いながらコップに注がれた紅茶を飲みながら改めて問いかける。
「やり直す……まあ、結果的にはそうなるね」
「そっか。でも、なら良かった……」
エインの願いを聞いて、それが自分の後悔をやり直せるものだと知って、安堵する。
こんなの、安堵するのはおかしい事で、やり直せるなんて思ってることがそもそもおかしくて、そんなのはただの自己満足でしかないのだと、自分に言い聞かせる。
「自己満足。自分の考えは傲慢だ。そう思ってる?」
突然自分の考えをエインに言い当てられて、居心地の悪さを感じる。
「だから、私の心を覗くのは止めてって言ってるのにー!」
「覗いてないよ。レナの顔が分かりやすいだけ。顔に浮かんでるよ?私の考えは浅ましくて、とても醜いんだって、自分で自分を責めてる感情が」
「……はぁー。私の顔ってそんなに分かりやすいかな?ポーカーフェイスには自信があったんだけど?」
「いつもババ抜きで彼女に負けてたのに?」
「なんで知ってるの!?」
なんでもお見通しのエインに図星を付かれながら、いつもと変わらないそんな他愛のない会話を繰り広げる。
「彼女はそんな細かい事気にするタイプ?」
「うーん。自分の事はうるさいけど、人にはあんまりかな?結構マイペースだったし。言い換えれば自己中?」
「うん。だから、たぶんレナのそんな葛藤も彼女からすればどうでもいい事だと思うよ?」
「うげっ!?た、確かに言われてみれば……楓乃はそういう人間だった」
そんな親友の性格を考えて、エインの言った通りである事を思い出す。
マイペースで、基本自分以外の人間には興味が無いから、人の気持ちもあんまり察せない。
言い換えれば自己中で、そのうえ空気が読めない。
周りに溶け込めないのに、それをなんとも思わないような、周りからすればかなりの変人。
「でも、その分、楓乃って心を開いた相手には優しいんだよね!」
「人の優しさを知ってるから。彼女はかなり堅物だけど、誰より人想い」
親友の人柄はかなり難しい。難しいのだが、それでも決して冷酷でサイコパスなわけじゃない。
こうして彼女と深いかかわりを持ってみれば分かるが、親しい相手にはとことん優しいのが彼女だ。
「そっか……そういえばそうだったよね」
「そう。だから、思い悩む必要はないよ。彼女はきっと、あなたの心なんて関係なく、あなたがいるだけで良い人だから。自分の事で悩んでるなんて知ったら、それこそ彼女は気を使って来るよ」
「ふふっ、それもそうね」
エインの言葉はその通り。私の心配なんてきっとわからなくて、それを知ったら、今度はきっと気を使って来る。
彼女の為に、なんて考えて塞ぎ込んでは逆効果。
だからこそ、私も前を向こうと決意する。
「でも、それで楓乃は塞ぎ込んだままなんだよね?」
「それはね。だからこそ、これが私のお願い」
そう言ってエインが私に手を伸ばす。
日本ではよくある握手の構え。彼女は右手を私に差し出してくる。
「いつか来る彼女の為に、レナに力を貸して欲しい」
「そんな、握手なんて。水臭いよ。やるに決まってるじゃん。もう私たちだって友達でしょ?」
「……うん。友達。私たちは……友達!」
嬉しそうにはにかむエイン。その容貌は女性の魅力に溢れているのに、時々こうして無邪気な幼さが垣間見えて、それがとても羨ましい。
できる事なら私ももう少し成長してみたい。なんて思いながら彼女からこれからの話を聞いて肩を落とす。
「そっか。私の夢は叶わない、か」
「それはごめん。でも、どうしてもレナに引き受けてもらいたいから……だめ?」
猫なで声で大きくつぶらな瞳を私に向けるエイン。
もし、私が男だったらきっとすぐに恋に落ちていただろうと考える。というか、何なら今でさえ私は新たな扉を開きそうなのだ。
「ま、駄目じゃないよ。ただ、少し残念だなって」
「成長はすぐには出来ないけど、いつかは出来るようになると思うよ」
「だから私の心を読まないでって。それで、具体的には何年くらい?」
「……数万年?」
「長いわ!!」
数万年の間も私はどうやら成長を出来ないようになってしまうのだとか。
魂の老化を防ぐためらしい。私の場合は元が人間だから自我が強いのだとか。そのため普通に数万年も私の魂で生きていると魂が老化する恐れがあるのだとか。
「時間を掛ければ世界にも馴染むだろうし、そうすれば魂の老化についても問題は無くなるから」
「そうなんだ。もう、いいよ。分かった。どうせ私もここからどうすることも出来ないわけだし、数万年でやり直せるなら望むところだよ」
色々と言いたいこともあれば聞きたいこともある。
でも、どうやら今のこの私としての記憶は無くなってしまうらしいので聞いても意味はなさそうだ。
「あ、それじゃあ最後に名前を決めない?」
「名前?私の新しい方の?」
「そう。レナの記憶には私が蓋をしなければいけないから。そしたら新しい名前が必要でしょ?」
「それもそうね。よしっ!じゃあ、どんな名前もばっち来いだよ!!」
今の記憶に蓋をされ、ある意味今の私はいなくなる。
それを少し怖く思うと共に、楽しみにも感じる。
やり直し、後悔の清算の時までの日々を生きるための名前。それはきっと大切なものだからこそ、私はエインにそれを任せる。
そして、エインはしばらくして納得したように一度頷いて、そして私に提案する。
「それじゃあ、“テティ”なんてどうかな?」
「テティ……うん。薄々気づいていたけど、やっぱりそういう名前になるんだね」
「嫌だった?」
「ううん。ただ、少しむず痒いというか、慣れない響きだからさ」
横文字の、しかも響きからしてこういう名前は少しなれていないのでむず痒い。
それでも、なんだか温かい印象が合って、不思議と言葉にすると声に良く馴染む。
「じゃあ、そろそろ時間かな」
「時間?そんなの決まってたの?」
「決まってはいないよ。ただ、レナの中で決心がついたから、この世界はもう終わり。次に会う時はレナの意識は無くなって、テティとしてまた一から始まる」
「数万年後までのクールタイムね。ま、こことそこまで変わらなさそうだし、のびのび暮らしていければいいよ」
エインに聞いている次の私の生きる世界も、ここと大きくは変わらないらしい。というか、この世界はエインの記憶を再現しているもので、言ってしまえばここと同じ場所に私は転生すると言う訳だ。
「代り映えのない来世ね。まあ、記憶がないなら新鮮だろうし良いけど」
「怖くない?」
エインの言葉に深く頷く。
「怖くないよ。寧ろ、楽しみだし、早く行きたい。ここから出れば、あとは私は全てをやり直せるんだから」
「そっか。あ、言い忘れてた。最後に一つだけ言っておくね」
「なに?」
そこでエインは私を思いきり抱き締めて、そして呟く。
「ありがとう。やっぱり、怜奈は私にとって最高の友達だったよ!」
私から離れた彼女の顔が親友の物と重なって見えて、思わず、また涙が零れて行く。
「それじゃあ、レナ……いいや、テティ。いつか、いつか現れる彼女を、必ず助けてあげてね」
エインの優しい微笑みが暖かな光に飲み込まれる。
私の意識も真っ白な世界に取り込まれて、最後のエインの言葉を胸の奥深くに刻み込む。
たとえ、記憶を失くしても、この願いは……約束は違えぬように。
そこで、白石怜奈の意識が光に熔けて消えていく。
次に目覚めた時には、きっと私は違う存在になっている。
「でも、テティって名前も、悪くないよね」
――――――
目の前に現れたのは、この場所を、精霊たちを守っていた筈の精霊王、ユフェリスだった。
「ユフェリス。一つ聞くけど。今まで、何をしてた?」
テティが倒せなかったことからも、魔王がやばすぎる存在なのはよくわかる。
逆にあんな化け物になり果てた魔王を相手に、精霊のままであそこまで戦えていたのが不思議なのだ。
だからこそ、ここで大精霊たちが為す術もなくやられていたのも理解は出来る。
だが、納得ができない。
なぜなら、ここには彼が、ユフェリスがいたはずだからだ。
彼ならばあの魔王にだって勝てたかもしれない。勝てないにしても、時間稼ぎは十分に可能だろう。
みんなを逃がすために尽力する。そのくらいの事は出来る筈なのだ。
だけど、結果はこの通り。
テティを失い、精霊たちはほとんどが死に、森は多大な被害を被った。
「……私は、世界が憎くて仕方がありません」
唐突に開かれたその口から発せられたのは、世界への憎悪に満ちた呪詛。
驚きはしない。もう、驚き疲れてしまった。これ以上感情を一定以上に動かすのは疲れるだけ。
だからただ淡々と、機械的な口調で問いかける。
「世界が憎い?」
そんな、前世であれば頭がおかしい人として白い目で見られるであろう発言を、真顔でし始めるユフェリスに、そう問いかける。
「世界は創造主すらその手に掛ける。傲慢で、強欲で、なんとも罪深い」
「……」
「神は世界を愛した。海を、空を、大地を、命を、そして人間ですらも愛した。慈しんだ。人間たちの成長をとても笑顔で見守っていた」
かつてを懐かしむその表情に後悔と怒りが滲みだしている。
「それでも、人間たちは愚かだった。世界は、彼女に与えられた愛を、罪で以て否定した」
全く話が掴めない。今この状況と、神の話になんの関係があるのか分からない。
だというのに、その話になぜか深く聞き入ってしまう私がいる。
「長い、とても長い日々でした。星に巣くう害虫が、その表層を食い荒らしていく。彼女の存在を否定した人間たち、世界を我が物顔で汚し歩く。見ていてこれほど不快なものはありませんでした」
「……」
「彼女が創ったものだから、彼女が愛したものだから。怒りも、憎しみも、悲嘆も、全てを呑込んで私は森で生きようと、そう決めました。テティと二人、まずは森の安全を保った。彼女が蘇るその日まで、私は世界への関心を無理やり捨てて、この場所を守る事だけに全てを注いできた」
「……」
「でも、やはり私は耐えられなかった。こともあろうに人間たちは、この場所にまで目を付けた。自分たちの私欲を肥やすためにこの森の土を踏んだ。その時の人間たちの顔を見て、思ってしまったんです」
「何を?」
「これは、やはり彼女の愛したものではないのだと。あの時の人間たちの獣のような顔は、とても彼女に愛されるべきものじゃなかった。醜い、地べたをはい回る蟲の方が、余程愛を注ぐに値する。そんな風に思わせるほど、人間たちは汚らわしい」
私はそれを見たわけじゃない。だから分かった風な口は聞けないが、まあ、人間なんてそんなものだと知っているから、醜いものだというその意見には頷ける。
だが、今はそんな事を話してる場合ではない。
この状況をどうするのか。というか、根本的な問題として、ユフェリスの立ち位置をはっきりさせる必要があると考えるのだが、どうやら話はまだ終わらないらしい。
「それで、あなたは何が言いたいの?」
「つまり、世界はもうどうしようもないほどに腐敗しているという事です。人間如きに世界が壊される。そんな心配をしているわけじゃありません」
ユフェリスはそう言って私を見据える。その目はまっすぐで、でも、ほの暗い光を灯している。
「私の……僕の望みはただ一つ。この星を、表層を焼き払う。世界を土台に還すこと、それが私の出した答え。それが、私の導き出した願いです」
そんな現実離れした考えを、私はすぐには理解することは出来なかった。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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