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75 世界はどこまでも私に厳しくて

今日で完結できるかは微妙ですが頑張ります。

この話の最初は22話の主人公の親友が出て来るので、誰?と思った方は22話を読んでみてください。そこまで22話も多くは書いてませんが、かなり重要な事ですので、よろしくおねがいします!


 一瞬で視界は暗転し、心臓は動かず、ゆっくりと、まるで何が起こったのか分からぬうちに私は死んでしまった。

 

 次に気が付けば、今度は真っ白な世界にいて、さっきまで真っ暗だったから少し目が痛い。


 「あれ、私、楓乃の所に行って、でも……」


 最後の記憶は確か、帰り道を歩いていて、そこで急に背中にドスッという衝撃を感じたのだ。


 「そしたら真っ暗になって……私、死んじゃったの?」


 辺りを見渡そうにも、自分の体が動かない。いや、まず自分の体があるのかすら分からない。

 まるで白いキャンバスの中に自分という意識だけが溶け込んでしまったように、自分を示すものがどこにもない。


 「どうなっちゃったの?それに、ここは?」

 「ごめんなさい」

 

 不死に、謝る声が聞こえてきた。

 ごめんなさい?なんで謝るのだろうか?少し不思議に思いながらもまるで頭に響くような声だったため困惑していると、いつの間にか、世界が切り替わっていた。


 「あ、え!?なにこれ!?」


 そこは喉かな森の中、少し開けたその場所の中心に大きくそびえる一本の木がある。

 葉の隙間からは木漏れ日が降り注ぎ、その下で木の幹に寄りかかる人物の顔を照らしている。

 目は閉じ、安らかな微笑を浮かべているその女性には酷く見覚えがあって、気が付けばそこに向かって走っていた。

 どうしてかは分からないが、なぜかさっきまで無かったはずの私の体があり、それはいつも通りなんの問題も無く動かせる。

 

 「か、楓乃?」


 たど着いたその場所で、親友に似た、その女性に問いかける。

 自分のよく知る親友の髪色を緑にして、もう少し成長したらこんな感じになるのだろうと、そんな事を考えていると、その女性が瞼を持ち上げて、口を開く。


 「ごめんなさい。私はあなたの親友ではないの」

 「あ、そうですか。なんか、すみません」


 思わず謝ってしまう。親友とは似ても似つかないその気品の感じられる喋り方、瞼の開き方からちょっとした首の動かし方。そんなところにすら親友には絶対にない気品を感じて、これは親友ではないと確信する。


 「あの、ここって、どこですか?」

 「あなたは、死んじゃったの」

 「死んじゃった……つまりあれですか?最近流行りの異世界転生みたいな?」

 「ふふっ、やっぱり親友なのね」

 「え?」


 笑い方すら上品で、つい見惚れて……って、そうではない。

 親友?この人は私と楓乃の事を知っているのだろうか?


 「少し、私とお話してみない?」


 疑問を感じていると、女性はそんな提案をしてきて、私はそれを快く受け入れる。

 色々と聞きたいこともあるので、話すことにしたのだ。

 私は死んでしまったらしいので時間に関してはたっぷりあるだろうし、どうせやることもないので別にいいだろう。



 ―――



 「ねえ、エイン。私は、どうすればよかったのかな?」


 ふと、仲良くなったその人物に問いかけてみる。

 死んでここに来てからかなり長い時間が経ったと思う。

 色々と語らって、時には木漏れ日の下で日向ぼっこをしてみたり、夜には星空を見てみたり、かなり満足な時間を送っていた。


 でも、そこでふと考える。

 自分はこれでよかったのだろうか、と。


 親友の支えになりたかったのに、それどころか、まず死んでしまった自分が、果たしてこれで楓乃の親友なのだと言えるのか、と。

 

 「彼女は、あなたの死を知って、とっても悲しんでる」

 「そっか……嬉しいけど、でも、なんか悲しいね」

 「心は、もう少しで元通りだったけど、あなたが死んでしまったから、ほとんど壊れてしまってる」

 「……私は、楓乃を苦しめてばっかりだった。あの日だって、連れ出すんじゃなくて、何も言わず、こうやってエインの傍にいるみたいに、ただ寄り添っていれば良かったのかもって、今じゃそんな事を思っちゃって……楓乃は、立ち直れるの?」


 それが一番心配だった。楓乃の心に、さらに新しくて深い傷を付けてしまったから、それが果たして癒えるのか、父親の事でかなり塞ぎこんでいた彼女が、果たして私の追い打ちにまで耐えられるのか、それが心配で気が気じゃない。


 「立ち直りは、出来ない」

 「……」

 「ただ、ただただ諦めて、生きているだけ。心はずっと、ひび割れたままで、いつまで経っても、自分を責め続けてる」

 「……一生?」

 「彼女はいろんなものを拒んでる。寄り付く人も、いろんなものも。失うのが嫌だから、そうやって……」


 聞いた状況は思った以上に最悪で、それが自分が引き起こしたことだと知って、死んでいるはずなのに涙が止まらない。


 死んでしまったから、自分ではもう、彼女の傷を癒すことは出来ないのだと、そう考えるだけで自分がとても醜い存在に思えて来る。

 親友の心に傷を残し、死んだことで、それはまるで呪いの様に彼女を苦しめることになっているのだと、どうにもできないその状況に、自分がとても忌まわしく思える。


 あそこでもし、私が死んでいなかったのなら、もしかしたら彼女も前を向けたはずなのに、それはもう出来なくなってしまった。


 「ねえ、なんでエインは私を此処に呼んだの?」

 

 それは初めからの疑問だった。

 どうして自分がここに呼ばれたのか。それが不思議で不思議で仕方が無かった。

 

 「彼女は、もうあの世界じゃ、生きていけない。きっと、いつか壊れてしまう」

 「それは……うん。私のせい、で」

 「だから、あなたを呼んだ」


 意味が分からない。何を言っているのか理解ができない。それとこれとになんの意味があるというのだろうか?


 「レナ、私は、人間はとても素晴らしい生き物だって、そう思ってる」

 「急に、何を……?」

 「私の世界の、私の友達は、人間は要らないって、醜い生き物だって、そう言ってたの。でもね、そういう醜さも、全部含めて、私はやっぱり綺麗だって、そう思った。あなた達を見てて、それが感じられた。誰かの幸を祝福できて、誰かの不幸を悲しめて、誰もが誰もを想い合って、それは人間だからできる事で」


 いつもに比べて、今日はよく喋るエインを見つめる。

 

 「だから、彼女が、あなたの死を悲しんでいたのを見て、私はやっぱり人間が好きだって思えた」

 「それが、わたしの話にどう関係が……」


 あまりにも情熱的に話すエインを見ていたらいつの間にか自分の涙も失せていて、人の熱意が自分よりも凄いと引いてしまうという現象は本当なのだと、今更ながらに実感している。


 「関係ならある。だからこそ、あなたを呼んだの」

  

 それはどうやら私を呼んだ理由らしくて、


 「レナ、あなたに頼みたいことがあるの」

 「……まあ、エインの頼みだし。聞くけど?」

  

 今更だ。わざわざそんな頼みこまなくても、普通に言ってくれれば、頼み事くらい一つでも二つでも聞いてあげるのに、わざわざエインは私に了承を得てから話す。本当にそう言うところは律儀だ。


 「それで、頼みって?」

 

 それは、今から遥か未来、数万年後に現れる、とある一本の木の話。






 ――――――


 真っ暗だ。何も見えない。いや、見たくない、の間違いだろう。


 《外部からの斬撃を確認……魔法障壁を展開します》


 さっきからそんな文字が私の頭に次々と流れ込んでくる。

 たぶん、ヴァルパが私を殺しに来たのだと思う。

 でも、もうどうにかしようなんて気力は湧かなくて、あの日、引き籠っていたあの頃にまるで逆戻りしたかのような、そんな底なしの喪失感に襲われる。


 森で目覚めて、初めて出会ったあのテティが、

 今までずっと一緒だったテティが、

 あり得ないぐらい強くて、いなくなるなんて微塵も思っていなかったあのテティが、


 気が付けば、私はまた、あの頃の自分に逆戻りしていた。


 《損傷率七十パーセント。敵個体の攻撃速度から推測……身体損傷の完全回復は困難と断定》


 もう私の体は治らないらしい。

 敵の攻撃速度が私の回復速度よりも早いから、回復する前に死んでしまうらしい。

 でも、正直、それでよかった。テティが死んでしまったのだから、ここで死んだって、何も問題は無くて、


 《損傷率九十パーセント。回復は困難。マスターの意思表示は困難と推定。緊急進化における確認プロセスを破棄……緊急進化を開始します》


 突然そんな文字が頭に流れてきて、思わず笑ってしまう。

 こんなとこに来てまで私を殺したくは無いらしい。これ以上この生き地獄を味わい続けろというのだろうか?

 家族だと、そう思っていたテティを殺されて?


 《………………進化が完了しました。種族:聖大樹から、種族:聖霊樹へと進化しました》

 《敵個体による攻撃は継続中。魔力を防御障壁に消費します》


 どうやらひたすら固まって耐えきろうという事らしい。

 でも、そのあとは?ヴァルパはきっと私が死ぬまで攻撃を辞めることは無い。

 私は果たして、そんなヴァルパの猛攻を凌げるか?答えは否だろう。

 初めは防げる。でも、いつかはぼろが出る。無効だって馬鹿じゃない。何か策を思いついて、きっとすぐに私を殺す算段を付ける。


 どんなに硬くしようと意味がない。

 物理対策をしようと、魔法で攻撃されたら意味を為さないように。

 どんなに防御を固めても、きっと何かを思いついて、すぐに私は殺される。


 だったら、いちいち進化してまで固まる必要はないのではないだろうか?


 《警告、敵個体の攻撃力の上昇を確認……障壁の崩壊を予測》

 《身体への直接ダメージを再確認。対抗手段……該当なし。再度検索……該当なし》


 まるで意思を持っているかのように、焦っているかのように『万能者』が打開策を検索する。

 だが、そんなものが都合よくあるはずがないのだ。この世は全て必然で、偶然と言われるものですら、それは運命に仕組まれたものでしかない。


 偶然なんて、そんな幻想はありはしないのだから。


 だが、だからこそ、今頭の中に流れ込んでくる情報に私は目を疑う。


 《進化に必要な規定の魔素量の確保に成功しました》

  

 初めは意味が分からなくて、でも、私の中に魔素が注ぎ込まれていくのがよくわかる。

 いや、注ぎこまれる、というよりかは、何かが内側で溶けだしているような感覚があって、


 《進化規定を全て満たすことが出来ておりません》


 だが、現実はやはり無情で……


 《緊急措置として、聖霊樹からの緊急進化を申請……承認を確認しました》

 《これより、緊急進化を開始します》


 やっぱり、世界は無情だ。ここまで私を痛めつけておいても、まだ、私が死ぬことは許してもらえないらしい。


 私はゆっくりとその瞳を閉じる。

 

 もう諦めよう。 

 諦めて、またあの時と同じように生きよう。

 仕方が無い。だって、死ねないのだから。何故か知らないが、死ぬことが許されないのだから。


 


 だから、せめて目覚めたのなら、ヴァルパを殺そう。

 魔王ヴァルパの死を以て、テティへの、手向けの華としよう。

 

これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。

面白い、続きが気になる、などなど色々思われた方はページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えるとありがたいです。

皆さんのその評価が執筆意欲に繋がりますのでどうかよろしくお願いします!

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