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74 絶望は淡く儚く私を壊す

さっき76話まで投稿すると言いましたが、少し難しそうなので明日投稿することにします。

 テティとヴァルパの魔法がぶつかり合い、激しい爆発を起こす。

 もはや地上は二人の戦いに耐えられず、草木が生い茂った以前の森など見る影もなくむき出しの大地だけが二人の戦いの激しさを物語っている。


 「くっ、はぁはぁ」


 先ほどから魔法を打ちまくるテティ。

 そしてそのテティに対抗するヴァルパ。

 二人の戦いは一見拮抗しているように見えるが、未だ力が増大し続けるヴァルパは疲労など無縁の様に魔法を放ってくる。

 それに比べテティはさっきから全開で、レインの時に見せたあの魔法を、スキルなどによってもはや巨大なハリケーンのようなものを作り出している。


 だが、それすらもヴァルパは意に返さない。まるで問題ないとばかりに余裕の表情を浮かべている。

 それに比べ、テティの表情は険しい。

  

 「どう?私の新しい力は?以前と違って、今のあなたじゃもう手も足も出ないんじゃない?」


 レインを取り込んだヴァルパはさっきから得意げにそんなことを言い始める。

 だが、悲しい事にその通りで、テティの魔法はどれほど高威力の物にしようともヴァルパへは届かなかった。

 しかし、そこでおかしくも思う。流石にあれほどの高威力の魔法であれば迎撃しようとも少なからず攻撃を受ける筈なのだ。事実テティはさっきから攻撃を受けっぱなしだ。

 だが、ヴァルパは今のところ無傷。

 

 考えられることは、いくつかあるが、それでも今考え着いた中ではこれが一番近いと思う。

 と言う訳で、私は『万能者』さんに鑑定をしてもらう。

 相手の無敵のからくりを掴むために。


 私が鑑定をしている間にも、テティは戦い続ける。

 だが、流石にテティも限界に近いのか魔法の威力が再程より下がってきている。


 「この日をどれだけ待ち望んだことか!!神樹を切り倒せればそれでよかったのだけど、頼まれてしまったし、何より前からあなたは殺しておきたかったのよ!!」

 「テティを殺して、どうする気?」

 「どうする?そんなの決まっているわ!あなたの魂も私が奪う!この森が、あの人が私を認めないのなら、私が絶対者になれば良い!!そして、神樹とあなたさえ消えれば、この森は私の物よ!!」

 「テティに勝てると?」

 「ええ。だって、あなたはもう、魔力が残っていないでしょう?精霊魔法を使うのにも魔力が必要だものね?しかも、あれほどの魔法を何度も何度も、ただの精霊でよくそこまでの力があるわね?これで進化なんてしていたら本当に勝てなかったわ」

 

 精霊魔法を使うにも魔力が必要。それはその通り。ただ、通常の魔法に比べて使用魔力が九割以上も削減される。だからこそ私は精霊魔法には制限なんて無いと思っていた。

 でも、どれほど消費魔力が少なくなっても、素の消費魔力があり得ないほど大きいテティの魔法は、知らず知らずのうちにテティの魔力をほとんど持って行ってしまっていた。


 「確かに、あなたは余程愛されているんでしょう?でも、死んだ者の愛が、いつまでもあなたに力を与えるわけがないでしょう?」

 「……さい。うるさいうるさいうるさい!!……ヴァルパ、お前は、お前だけは、エインの、ルアの森を汚すお前だけは、必ず殺す!!」


 今まで見た事が無いような、そんな怒りと殺意に満ち満ちたその瞳が射殺さんばかりにヴァルパを睨む。

 

 「汚す?当たり前でしょう?この森が嫌いなんだもの。私の生きやすいように変えて何が悪いの?」

 「ここは、エインの、ルアの森だ!!」

 

 魔力はほとんど残っていないのに、さっきまでの魔法よりもさらに強力な、それこそあまりの力で重力すらおかしくなっていそうな嵐をヴァルパへと放つ。


 ただ、それはすぐにヴァルパによってかき消されてしまう。

 

 「もう、今からここは、私の森よ!」

 「駄目だ、そんなの、認めない!!」


 テティが狼狽え、必死にヴァルパを否定する。

 と同時にヴァルパの鑑定が完了する。


 見受けられた無敵の原因。それは……


 『魔素分散?』

 「魔素分散……だからテティの攻撃が?」

 「あら?ようやく気付いたのね。そうよ。私には魔素分散のスキルがあるの。つまり、私には魔法による攻撃はほとんど意味が無いのよ。これで分かったでしょう?あなたでは私に勝てない理由が」


 その事実に驚愕し、打つ手がなくなるテティ。

 攻撃を再開してきたヴァルパに必死で対抗するが、それももう既に拮抗できなくなっている。


 そして、次の瞬間。


 「さて、これで終わりにするわ。さようなら、テティ!!」

 

 テティに向かって闇色の光が放たれる。

 それは恐ろしい事に魂をも砕き得る死の一撃であり、テティはそれを全力を以て迎え撃つ。

 闇属性には光属性であり、テティは光の風で対抗した。


 「フフッ、お馬鹿さん」

 「え?」


 テティが全力を注いだ魔法を放ったその時だった。


 「『妖精の檻』!!」

 「まさか、始めからこれを!?」

 

 テティがとても焦りながらその場から離れようとするが、


 「逃がすわけないでしょう?」

 「うぐっ!」


 『妖精の檻』、それは精霊から堕ちた妖精たちの呪いにも近い魔法。

 精霊への恨み、憎しみなどから生まれ、それは精霊の動きを止める結界へと変わる。

 原理としては精霊が得意とする精霊魔法を使えなくするために、結界内の魔素を外へと逃がすもの。

 そして、結界内には妖精の呪いによるデバフ効果も見込める、まさに精霊殺しの為だけの魔法。


 魔力もほとんど使い切り、魔素がなくなったことからも何も出着なくなったテティ。

 

 これはもう流石にマズイ。

 これは良いだろう。テティだって答えられるような状況じゃない。

 少し強引だが、テティの命には代えられない。


 『テティ、体を、』

 「それは駄目!!」

 

 テティがそう叫ぶと、次の瞬間にヴァルパがテティを掴み上げる。

  

 『テティ!!もうこれ以上は待てない!!早く、体を!!』

 「駄目!!今ここで、やったら、ルアが……ぐっ!」

 「アハハハハハ!!どう?ねえ?今どんな気持ち?ねえ、テティ?」


 どうする?どうすればいい?

 突然の大ピンチ。そして、それによって生じる焦り。

 テティが対精霊特化の結界に囚われた。それを『万能者』で察知したものの、気づいた時にはもう遅く、既にテティはヴァルパの文字通り、手の中だ。


 それでも私に体の共有権を許さないテティ。

 焦りと、それから恐怖が段々と頭を真っ白に染めていく。

 

 テティが死んでしまう。

 そんな唐突に感じる恐怖に頭が支配される。

 

 怖い、とても怖い。見ているだけしか出来なくて、テティが今も苦しんでいるのに、私はここでテティを助けることも出来ない。

 ここから下の木々へ『支配者権限』を使ってみたのだが、なぜか木々がピクリとも動かない。

 

 『な、なんで!?』

 「あら?確か、ルアとか言ったかしら?驚いたわ。まさか本当にそのスキルを持ってるなんてね?」

 『は?』

 「『森林支配』だったかしら?嘘だと思っていたのだけど、危なかったわ。少し遅ければ邪魔される所だったものね?」

 『な、何を言って?』

 「私も持ってるのよ?権限を」


 雷に撃たれたような、そんな衝撃に完全に頭が真っ白になる。

 今、ヴァルパは権限を持っていると、そう言ったのだ。つまり、私が権限を使ったのに何も起きなかったのはヴァルパが自分の権限で私の能力を上書きしたからだ。

 

 完全に詰み。ここから私にできる事はもう何一つだってない。

 完全に距離が離れすぎている。

 私の本体から、あまりにも遠すぎる。


 どうしようもない。今、目の前に刻一刻とテティの死が迫っていて、私がそこで呆然としているそのとき、テティが叫ぶ。


 「ルア!!ユフェリスを呼んで!!テティじゃ、無理だから!!ユフェリスを!!」

 『ぁ、ぁ……』

 「お願い、ルアッ!!」

 

 あまりの恐怖で声が震える。

 別に声帯から声を出しているわけではないのに、テティへの返事が震えている。


 『ユフェリス!!聞こえてる?ユフェリス!!……』

 

 必死に、とても必死に呼びかける。しかし、ユフェリスからの応答は無くて、そこでレリスに呼びかけることにする。

 そして、レリスからはすぐに応答があり、


 『ルア様?どうか、』

 『レリス!今すぐにユフェリスを連れてきて!!テティじゃ、もう……早く!!』


 それだけ、ただそれだけをとても必死に訴える。

 

 『早く!!お願い、早く!!テティが、テティが死んじゃうから!!』

 

 ここまで叫んだのは、もしかしたら前世でも無かったかもしれない。

 ただ、そんな叫びがレリスに届き、レリスからの承諾が聞こえたその瞬間――


 「さようなら、テティ」


 ヴァルパのテティへのその言葉の後、黒い光がテティを呑込む。

 

 淡く輝くテティの魔力の残滓が、やがて消え去り、私とテティのつながりは切断され、私の意識は本体の方へと戻されるのだった。






 ――――――


 レリスはルアからの命令で急いでユフェリスの下へ飛ぶ。

 今も自分たちの森を守っているはずの仲間の下へ、最高速度で木々の上を飛んでいく。

 

 そして、たどり着いたその場所で見たものは……


 「アハハハハハ!!大精霊、流石、流石ね!!なぜかテティの魂は取り込む前に消えてしまったけど、でも、大精霊が二柱分。これだけあれば、今ならあのいけ好かないあいつにだって!!」


 燃える木々、倒れ伏す仲間たち、消え失せた樹霊。

 僅か数時間足らずでレリスが知っている場所はどこにもなくなっている。


 目の前では大精霊二柱の魂を抜き取り、取り込んでいるヴァルパがいる。

 テティを殺した後、レリスよりも早くこの場所につき、他の樹霊や大精霊を殺して回っていたのだ。

 そしてその魂を全て取り込み、今ではまさしく真の化け物になり果てている。


 「精霊があと一柱いるはずだけど……さて、どこにいるのかしら?」


 レリスはそこで気配を消してジッと耐える。

 今すぐにでも飛び掛かって殺してやりたい。そんな衝動とは裏腹に、体は驚くほど素直で、相手がとても恐ろしい事を悟っているのだ。


 あんな化け物にテティが負けた。あのテティが、自分では到底かなわなかったあのテティが、あの今も大精霊の力を奪った魔王に。

 本能がその存在の危険さを感じ取り、警鐘を鳴らす。

 

 ユフェリスを見つけなければいけない。自分ではどうあっても勝てない。テティですら勝てないような相手なのだ。なら、ユフェリスしかあれは倒せない。


 魔王にバレないように、静かにそこから立ち去ろうとして、そこで魔王が向かう先に目を向けて、思わず声を零す。


 「あ、ああ……!!」

 

 魔王が向かう先、そこには他の木とは明らかに何もかもが違う木があって、


 「ん?そこにいたのね?あなたは、レリスね」

 「な、あなたは何を!?」


 神樹に、ルアにゆっくりと歩み寄っていく魔王。


 「あなたの魂も回収するけど、でも、そうね。あなたには特別に見せてあげるわ。この神樹が、今ここで私に切り倒されるところを!!」

 「……そ、そんな事をしたら、どうなるのか分かっているの!?」

 「どうなるか?確か、もう呪いはこの神樹が全て浄化しきったのでしょう?」 

 

 それは百年前、ルアが再生の力を使って呪いを払った時の事。

 それは森の精霊しか知らないはずで、


 「レイン……」

 「……まあ、そうね。それでいいわ。そういう事だから、ここで私がこの木を切り倒し、この森は私が支配するわ!!」


 そんな事は認められない。森を治める権利は精霊王か神樹であるルア以外には認められないのだ。

 そう、認められない。だが、そんな事を認めずとも、的は力づくで支配者になってしまう。それが出来るだけの力がある。


 「さあ、そこで精々絶望していなさい?これが倒れれば、次はあなたよ。大丈夫、苦痛なく殺してあげるから」


 どこからともなく取り出した禍々しい鎌を振りかぶり、魔王ヴァルパは、ルアの伐採を始めるのだった。

これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。

面白い、続きが気になる、などなど色々思われた方はページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えるとありがたいです。

皆さんのその評価が執筆意欲に繋がりますのでどうかよろしくお願いします!

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