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73 色々と思考がイっちゃってる!!

色々やってたら投稿が遅れました。すみません。

次話もまた後で投稿します。

 冗談じゃない。レインはまたしてもそんな事を考えながら目の前の理不尽の具現化のような相手を凝視する。


 さっき、手始めに放った火弾。テティによって簡単に吹き消されたあの攻撃は、レインからしてみれば本気ではなかったものの、通常の攻撃ではあったのだ。

 手始めに、小手調べ。そんな意味合いで放った言葉。でも、正直しっかりと魔力を込めて、それなりの威力にはしたはずなのだ。だというのに、ただの息で。しかも一吹きでまるで小さな火種を消すようにテティに吹き消された。


 ついさっきまで、今の自分なら頑張ればテティに勝てる、そんな風に考えていた。 

 しかし、初撃から先ほどまで雨の様に浴びせていた魔法だって、しっかりと魔力を込めてかなりの威力になるように調整していたのだ。

 しかもさっきまでの魔法には初撃のような派手さはないにしても、魔力を圧縮していたため威力に関してはそう大差なんて無かったはずなのだ。いや、逆に高度な魔力制御のもと行っていたためかなり強力な攻撃だったはずなのだ。


 なのに……


 「僕の攻撃が、魔法が、遊びですら、ない?」


 圧倒的。


 そう気が付いたのはこの時だった。


 荒れ狂う嵐の下で、ようやくテティの恐ろしさを知った。

 

 「は、ハハッ……ハ、ハ」

 

 こんなの、精霊なんかじゃない。認めたくない。

 これが元の自分と同じ精霊だなんて、そんなの、あり得ないのだ。

 精霊王だとか、せめて大精霊だとか、そう言ってくれた方がまだ希望はあった。精霊より高位存在であったからこそ、僕では勝てないのだと、そう言い訳をしたかった。


 「……本当に、理不尽でしょ、これ」


 目の前で吹き荒れる、まさに死の嵐とでも呼ぶべきその光景。

 これをテティは遊びだと言っていた。

 意味が分からない。こんなもので遊べる奴なんて、それこそ神ぐらいだろう、そんな事を思ってしまう。

 もう、いっその事神だと言って欲しかった。

 テティは神なのだと。ルアと同じように、自分も神なのだと。エインとやらの生まれ変わりなのだと。そう言われた方がまだマシだった。


 「これが、こんなのが、精霊なワケ……ないだろ?」


 呆然と、ただただ絶望を感じながら、嵐の下、空に佇む一柱の精霊を見る。


 自分の愚かさを深く後悔しながら。



 ―――


 

 私は心の口をあんぐりと開けて、テティの視界から見えるその光景を凝視する。

 いくつもの竜巻が天に向かって昇っていく。

 舞い上げられる木々。抉れる地面。

 それはワタシなんかよりもよっぽど神っぽい力で、自信を無くしてきたと同時にテティの存在を疑わしく思う。


 『テティ、本当に精霊?』 

 「あ、ちょっと、力を入れすぎちゃった。ごめんルア」


 可愛い笑顔で私にそう謝るテティ。

 そっかぁ~、ちょっと力んじゃったのねぇ~、ってちがぁあーーう!!

 そうじゃない。そうじゃないでしょ?


 力んじゃった、てへぺろってか?いや、まあ、これが少しも力を入れずに出来ちゃったら本当にどうなの?とは思うけど、でも、ちょっと力んだとしても、それでもこれはやばいでしょ!?


 『力んでこれなの?大体これで力の何割くらい?』

 「えっと、三割?」

 『あ、そう……』


 四割。そうですか。三割ですか。三割でコレが出来るんですか?

 もう私の立場が無くないですかねぇ!?

 これテティが神様なんじゃないの?私、なんか間違えられてない?大丈夫!?

 もうレインなんてあまりの非常識な光景に呆然としてるけど?

 敵が、私たちを殺すって言ってた敵がだよ!?


 「は、ハハッ……ハ、ハ」


 ああ、もうレインが壊れてまーす。なんかおかしくなってまーす!

 うん。気持ちは分かる。だって、ねえ、私だってびっくりだし?


 「これで分かった?レインじゃテティには勝てない。どんなに進化をしても、妖精になっても、それがテティ達とレインたちの差」

 「……差、か。そうだ。生まれた時代が、生きた年月が、それだけが違う。だっていうのに、それだけで埋めがたい差が出来る。本当に、理不尽だよ」


 差というのは、つまりは生きた年月とかだろう。テティ達は生まれた時にエインさんとやらから加護を受けているらしい。それによってとてつもない力を得ているのだとか。

 でも、今の精霊は違う。確かに強大な力は持って生まれるが、それはエインさんの力の残滓を取り込んだだけ。本物を与えられたテティ達とはどうしても差が出来てしまう。


 「でも……ここで、引くことは出来ないんだよ。僕は、僕は彼女に、ヴァルパに……だから、勝てそうもなくても、逃げるわけにはいかない!」


 まるでそれは巨悪に立ち向かう主人公の様で、でも、立場が逆転してるんです。

 普通はそれこっちのセリフなんです。

 力一つでどっちが悪か正義か分かりづらくなる。


 「そう?まあ、逃げられるよりは助かるけど」

 

 もう、ほんとテティさんは悪者感がさっきから凄い漂ってきている。

 このまま巨悪ルートまっしぐらだよ!やったね!


 何がやったねなのかよく分からないけど。

 まあ、これでテティの勝利は確実だろうと思う。

 でも、こういうのは最後まで油断してはいけないのが常識だ。

 ここでフラグでも建てようものなら回収しきれないほどの事態に繋がりかねない。


 「耐えられるかな?それとも、死んじゃうかな?」


 テティがついにレインに竜巻を差し向ける。

 凄まじい雨が地面に打ち付け、暴風がレインを襲う。

 レインもそれに魔法を使って対抗するが、そんなものが効くはずもなく一瞬にして竜巻の中に呑まれていく。

 だが、そこでテティは手を緩めず、さらにもう一つ、そのまたさらにと、次々に竜巻をレインに差し向ける。過剰な気もするが、相手は妖精。これでももしかしたらまだ生きているかもしれないのだ。


 荒れ狂う風の暴威をその身に受け、さっきまでの威圧感はさっぱりと消え去っている。

 竜巻から解放されたレインはそのまま地面へと落下していき、やがてドサッと音を立てて衝突する。


 「驚いた。まだ生きてるよ」


 テティがレインを見て驚く。それもその筈で、なんとレインは生きていたのだ。

 

 「ぁ、ぁ……く、は……僕は、ヴァ、ルパの、為……僕は」


 地面に倒れ伏し、体は既にぼろぼろになりながら、それでも主の名を口にしてテティに立ち向かおうとする。

 

 『テティ、もう、いいんじゃない?』

 「……ルアが良いなら、分かった」


 もはや喋る事すら辛いだろうに、レインはうわ言の様にさっきから何かを呟いている。


 「る、ぱ……僕は、ぼ、くは……」

 「テティは、君が許せない」

 「……」

 「リニィとアルマを、テティ達の森を乱したレインが。ヴァルパが、テティは許せない。でも、ルアは優しいから。こんな救いようがなくなったレインですらルアは助ける。ルアの頼みだから、最後は苦痛もなく、安らかに……おやすみ、レイン」


 助けてあげられるなら、そう思った。

 魔王に操られているのでは?そうも思った。

 でも、違った。そうではなかった。レインの意思だった。レイン自身の意思だった。

 最後の最後まで主の名前を呟いていた。

 最後の最後まで主に謝っていた。


 それは、立場は違えど、私たちも同じで、だからこそ私ではレインを根本的に救うことは出来ない。

 だって、レインの救いは、きっとその魔王ヴァルパとやらにしか出来得ないから。

 

 だから、せめて私に出来るのはこれだけ。

 最後だけは、苦しむことなく、一瞬で。

  

 テティの不可視の刃が、レインの命を絶ち切って……


 「ッ!?」

 「可哀想なレイン……私のレイン。私のお気に入り。ああ、なんて、なんて酷いのかしら、ねぇ?」


 音もなくそこに現れた女が、テティの攻撃を難なく弾く。

 あまりにも異質。そして、レインすらも軽く凌駕するほどの圧倒的存在感。


 「ぁ……ヴァ、ルパ?」

 「そうよ。私よレイン」

 「よか、た……君、が、来てくれた」


 ヴァルパ、そう今レインは口にした。

 つまりは、確定だろう。


 「道具の最後に立ち会うなんて、ヴァルパらしくもないね?」

 「あら、私は道具には優しいのよ?」

 「面白い冗談だね?笑えるよ」

 「ただ、私の道具になれない子が多いだけ。レインは特別だわ。なんて言っても、私のお気に入りだもの」

 

 テティは苛立たし気に、それに対して魔王ヴァルパは面白そうに笑みを浮かべている。


 「やっぱり……少し不快ね」

 「何が?」

 「あの頃から、あなたは私にずっと力を隠していた。そう言う事でしょう?」 

 「別に?テティだって、隠すつもりは無かったよ。ただ、結果的にそういう風になっただけ」

 「どういう意味かしら?つまり、私には力を使う必要も無かったと?」

 「そう聞こえない?」


 テティさん、凄い煽っていらっしゃる。

 リニィとアルマを殺されて、ようやくレインに決着を付けられる。そう思っていたらまさかの魔王の横やりだ。怒っていて当然だろう。


 「……はぁー。そうね。これはレインにはとても無理ね」

 「テティと戦うの?」

 「フフッ、流石に今の私じゃあなたにはどうやっても勝てそうにないわ」

 「良かったよ。魔王になってもしっかり考えられるんだね?」

 「少し癪だけど、あなたが異常なのは認めるわ、テティ」


 魔王はどうやらテティの力を正確に測ったらしい。そして、自分では勝てない相手だと判断した。 

 魔王が尻込みする相手って、マジでやばい奴じゃん!?テティさん?


 と、そこでヴァルパはレインの方を向く。


 「ヴァ、ルパ。僕じゃ、あれは無理だった」


 再生能力でも持っているのか、さっきよりかは体が少し治っているレイン。

 それでも魔力は既にすっからかんになっていて、傷の治りも遅い。


 「そうね。それは私の失敗だったわ。ごめんなさいレイン」

 「いいや、良いんだ。僕は、君のために戦うんだ。そう、決めてるから」

 

 君の為に。そんな愛の囁き、私だったら即オチだね!

 でも、それを聞いているヴァルパの様子が少しおかしい。


 レインを助けに来たのなら、なぜ今すぐ連れ去って逃げないのだろうか?

 

 「でも、ヴァルパ。今は逃げよう。今は戻ろう。あれは無理だよ。アレを相手にするなら、まだユフェリスを相手にした方がマシだよ」

 「無理、ね……」

 「ヴァルパ?」

 「ねえ、レイン?」


 そこで細く、真っ白い腕をレインの顔に伸ばして、撫でるヴァルパ。

 その手の動きは無駄に妖艶で、魅惑的で、あんなのに誘惑されたら女の私でも即オチ百合コースだろう。明日の朝には開発完了!


 って、そんな事を言っている場合ではないのだ。

 明らかに、その動きがおかしい。

 

 「レイン。あなたは私の何?」

 「僕、は……君の道具だよ、ヴァルパ」

 「そう。ねえ、レイン」

 「なんだい?」

 「私ね、テティを殺したいの。神樹も。でも、今の私じゃ、テティにも勝てないの」


 今まで感じたことのないような、そんな悪寒が私の背筋を凍り付かせる。

 やばい。これは、本当に、何をするのか?

 いや、何をするのかなんて知ったこっちゃない。でも、これは今すぐに殺さないと、手遅れになる気がして、


 『テティ!!今すぐ、今すぐ魔王を!!』

 「うん。ヴァルパ、そこまで?」


 テティは魔王の狙いに気づいたらしく、私がテティに叫ぶと同時に既に動き始める。

 魔王の動きを警戒して、少し距離がある。でも、今ならまだ何かされる前に殺せる。


 「っぐ!?ぐが!?な、何を!?」


 そこでうめき声を発したのは、ヴァルパに睨まれているレインだ。


 「今の私じゃ、本気を出しても、まだテティには届かないの。でもね、あなたを、あなたの魂があれば私はさらに強くなれる。テティも殺せるの!」

 「ぁ、ぁあ……ヴァ、ヴァルパ?何を言って、僕は、僕を?」

 「大丈夫よ。あなたは私の道具。優しく、大事にするわ。あなたの全てを、私が貰うわ。大丈夫よ、安心して?私たちは一つになるだけ。あなたは私の一部になれるの。これからも、ずっと一緒よ?」

 「い、嫌だ、嫌だあー!!ヴァ、ヴァルパ!?か、考え直そう!?僕は、僕が、必ずテティを殺すから!!だから、や、やめ、嫌だあー!!」


 テティの死の風が、魔王に向かって凄まじい速度で迫っていく。

 聞こえてきたあまりにも不快な会話。

 レインを道具としか思っていない魔王。そんな魔王の許しがたく、理解なんて到底できない最悪の考え。

  

 「さあ、頂戴、あなたの魂を。あなたの全てを!!」 

 「嫌だあああああーーーー!!」


 レインの絶叫が森中に響き渡る。

 それと共にテティの攻撃が魔王に届き……それが結界によって阻まれる。


 「まさか!?初めから!?」


 結界はほんの一秒ほどで砕け散り、テティの攻撃は魔王に向かって伸びていく。

 そう。本当なら結界を容易く破るような攻撃なら、何人であろうと耐えられるはずがないのだ。

 しかもその結界は魔王と呼ばれる存在が張った物であり、そんな物を容易く破壊する攻撃など、普通はただでは済まない。


 その筈だった。


 「……間に、合わなかった」


 ほんの一秒。攻撃がほんの一秒止められた。ただ、それだけの、ほぼ無いに等しいような時間で、全てがその一秒で逆転してしまう。


 先ほどまではテティが圧倒的であったはずの力は、今も増大し続けるヴァルパの力がやがて追い越す。

 魔王の資格を得た、そのレインの魂を、精霊を二体生贄に費やした妖精の魂を喰らった魔王。

 それは、先ほどまでとは別人のような進化を遂げる。

 

 内包される魔力量はあり得ないほど増大し、発するオーラはテティやユフェリスが放っているようなものと同質同等のものを感じる。

 

 「アハハハハハ!!なんて、なんて素晴らしい気分なのかしら!ああ、力が、魔素が私を更に満たしていくわぁ」

 「ヴァルパー!!」


 テティが魔王へと飛び掛かる。

 進化はまだ完全には終わっておらず、今ならばまだ倒せると踏んだからだ。でも、もはやこの時には既にヴァルパの力はテティを超えていた。

 ただ、それでもテティの技術が、無理やりにその力の差を埋める。


 でも、もう何もかもが手遅れで、たった今、この世界に真の意味で、新たな魔王が誕生してしまったのだった。

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