表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/81

72 遊びの定義がおかしいようで

この後も投稿していきます!

 「森を汚す不届き者は、私が許しません!!」


 魔女によって魂を抜かれ、操り人形と化した人間や亜妖精たち。

 中には人間の定めた脅威度でAランクに達する者もいる中、レリスは苦戦することなく着実にその数を削っていく。


 「数は多いですが、それだけですね」


 人形たちは魂が無いため、動けなくしない限り、いつまでも立ち上がっては向かって来る。

 それはまるでゾンビの様で、この森には存在しない死霊系の魔物を彷彿とさせる。

 痛みを感じず、苦を知らず、ただ魂と引き換えに植え付けられた命令に従って動く、まさに人形。

 

 しかし、人形となっても未だ生前の技術や身体能力はそのままなため、感情が無い分その強さは生前以上に増している。

 

 ルアがいた世界の宗教によっては死は恐れるものではなく、逆に死してこそ救われる、死こそ信仰の証、みたいな感じの風潮があったりもしたのだとか。そんな考えのおかげで死を恐れず、死を恐れないからこそ槍を付き出そうと迫ってきて敵を強い意志を以て道ずれにする。半ば洗脳に近いような、狂乱的な戦争もあったとか。

 故にそれを相手にした人間たちはそんな敵の狂った行動に恐慌し、多大な損害を受けた戦争なんかもあった。


 今の状況はまさにそれ。いや、敵には魂もなく、それによって意思も完全になくなっている。いわば本当に人形。これがルアの元の世界でロボットやらなんやらで開発されれば戦争の概念が変わることになるだろう。


 死なんてものは人形には無く、ただ文字通りの道具として、損失すら鉄と金の消費で済ませられる。

 先進国はこれを大量に導入し、途上国は一気に軍事力的に抵抗すら不可能になる。


 ただ一つ、今、この状況では、例え相手が心の無い人形でも、敗北は万に一つもあり得ないのだが。


 「森を壊すのはルア様が悲しまれる。なので一手で終わりとはいきませんが、それでも……もう、チェックです」


 レリスのそんな声と共に、人形たちの体がその場で静止させられる。

 全く動けず、その体は植物の根や蔦によって束縛されている。

 

 「ルア様ほどではありませんが、それでも、時間を掛ければこうして束縛することも可能なんですよ?」


 精霊は主に生まれた時から何らかの属性に適性を持って生まれて来る。

 テティなら風。リニィは火。ティルシェは水。皆それぞれ、精霊としてふさわしい力を振るうことが出来る。それは大精霊であるレリスなら尚更で、


 「私の得意属性は土。そして、大精霊の今は、それだけではなく、限定的ではありますが木などの植物。大地に根付いたものであればほとんど操作出来るのです。ルア様のような神の御業に等しい力はお見せ出来ませんが、あなた達には見せる価値もありませんので、これで満足してください」


 ほとんどルアと同じように。というか何ならその力の使い方に関してはルア以上であり、規模はあまり大きくないものの、そんな事は問題にならないほどに圧倒的な力を以て人形たちを次々と破壊していく。

 

 人形を捕らえた蔦はゆっくりゆっくりとその体を締め上げていき、やがてその肉を引きちぎり大地を血に濡らす。


 そんな光景を上空から俯瞰しながら人形たちの殲滅を確認するレリス。


 「少し汚れてしまいましたが、水で流せば問題はないでしょう。これで私の仕事は終了ですね。テティを助けに行きましょうか?」


 人形たちにはもう目も暮れず、テティの元へ向かおうか考えるレリス。

 精霊としての階位は自分の方が高いものの、その実力はテティの足元にも及ばない。自分よりも遥かに強大な力を持ちながらも精霊から進化はすることのない不思議な存在。

 生まれた時から傍にいて、その力は何度か見た事があったが、それは同じ精霊とは到底思えないほど隔絶した強さだった。


 「いいえ。テティなら何も問題はないでしょうし、もう少し下を見回ると、」

 

 心配いらない。そう思っていた。

 テティが負ける事なんて、それこそ天地がひっくり返ってもあり得ない。ましてやあのレインに勝算なんてある筈が無くて、だからこそ次の瞬間に自分の頭に響くその声にしばらく膠着してしまうのだった。


 『レリス!今すぐにユフェリスを連れてきて!!テティじゃ、もう……早く!!』


 それは、いつも余裕があってどこか間の抜けていた自分たちの今の主の声には思えなくて、その声音からは今のテティの状況が危機的なものなのだと、レリスはしばらく悪寒に体を支配され、動けなくなってしまった。






 ――――――


 レリスへと『念話』をとばす数十分ほど前まで時間は遡る。


 「まずは、手始めに……」


 レインはそう呟いてから軽い動作で以前見せた火弾を更に数倍の大きさにまで肥大させたそれをテティに投げつけて来る。先ほど魔女が使った魔法が子供の火遊びの様に可愛く思えるほど、その火弾は恐ろしいほどの熱量を持っていた。


 「遊びたいなら、帰ってヴァルパとキャッチボールでもしてれば?」

 

 ただ、そんなレインよりも尚恐ろしいほどの存在がその火弾を息を吹きかけて消し飛ばす。

 まるでそれは蝋燭の火を吹き消すような、そんな少し強めの吐息で、普通なら目の前の灼熱の太陽を掻き消せるようなものではない。

 

 「ほん、と、つくづく化け物だよね?大精霊三体だって大概なのに、それ以上って、存在詐称にもほどがあるでしょ?ほんとは精霊王とか、そんなオチだったりしないよね?」

 「良かったね。テティは普通の精霊だよ。それ以下でもそれ以上でもない、ね」

 「逆に精霊王だって言ってくれた方が納得できたし希望も持てたんだけど!」


 テティのその行動が理不尽だと叫ぶレイン。しかし、そんな事を言いつつも魔法戦に置いて今両社の攻撃は拮抗している。

 テティも流石に全てを息で吹き消すことは無理と判断したのか、複数の魔法を次々と放ってレインの魔法を迎撃する。

 

 魔法の質で言えばテティが圧倒的。しかし、妖精とやらに進化したレインの攻撃もテティには遠く及ばないものの、喰らえば怪我をするほどには脅威なので半端な迎撃は出来ない。

 そのうえレインの場合は魔法の構築が早く次々と魔法を放ってくるので防戦一方になっている。


 「あはははは!!これじゃ倒せはしないだろうけど、どうだい?処理するだけで手いっぱいじゃないかい?」

 「うるさい!粗雑な魔法ばっかり、見ていて少し腹が立ってくるよ!」

 「そうかい?でもさ、そうも言ってられないんじゃない?ほら、僕にばかり気を取られていると」

 「ッ!!」


 先ほどから両者ともに激しく動き回る。地上から既に離れ、木々の間でお互いに魔法を撃ち合っている。が、そこでレインは木の間や地面に魔法陣を先ほどから設置し、罠を作っている。

 そして、テティがそこを通ると設置した魔法陣から魔法がテティを襲う。

 レインの攻撃と罠による攻撃。テティは出来るだけ森を破壊しないようにしていたようだが、少しづつ森が破壊されていく。


 「ごめんルア。これ、やっぱり無理」

 『いや、逆に被害を出さないように今まで戦ってたのが驚きだからね!?』

 

 本当に驚きだ。あんな化け物と化したレインを相手に森に被害が出ないように慎重に丁寧に戦っていたのだ。防戦一方になりながらも魔法が木々に被害を及ぼさないように。

 でも、それは流石に限界だ。レインは手加減をしながら戦える甘い相手ではなくなってしまったらしい。


 「ちょっと、壊すけど……」

 『良いって良いって!治すよ!私が治すから!テティは本気を出して!!』


 本気を出さずに被害を気にして負けてしまった、なんてことになったら流石に笑えない。

 テティには怪我もして欲しくなければ死んでも欲しくない。

 レインに殺されるなんて、そんなの私は我慢が出来ない。


 『だから、テティさん、やっておしまいなさい!!』

 「本気は出せないけど、でも、分かった!!」

 「ようやく本気で来てくれるのかい?」

 「レインに本気を出すわけないでしょ?自惚れないで」

 

 ちょ、テティさん!?本気出さないんですか!?

 心の中で驚きと共に目玉が飛び出そうになる。いや、まあ、目玉なんて無いんですけどね?

 でも流石に今のレイン相手にして本気を出さないは自殺行為に思えるのですが、それって私だけ?


 「へぇー?まだ分からないのかい?僕は進化したんだよ?今までと同じように戦って簡単に勝てるなんて思わない方が良いと思うけど?」

 「まずそんな事を喋ってる時点で大した強さじゃないでしょ?本当に強いのなら、さっきテティが何もしていなかったうちにすぐに殺してるはずだもん」

 「ちっ、ちょっとうるさいんじゃない?それに、それは君も同じじゃないかな、テティ?君も本気を出さないなんて言っておいて、逆にそこまで隔絶した強さがあるなら、さっさと僕を始末しただろう?」

  

 レインがそれらしいことを少しイラつきを顔に出しながら話す。


 「え?テティがそんなに優しいなんて、そんな風に思ってたの?」

 「優しい、だと?」

 「リニィとアルマを殺されて、僕ら精霊を裏切って、エインの、ルアの森を汚したレインに、そんなに簡単に死を与えるとでも?」


 あ、これは相当怒ってますね。分かります。だってさっきから目が笑ってないのに頬が吊り上がってるんだもん!

 声も心なしか冷たいし、雪でも降ってきそうな感じです。はい。ていうか気温なんて感じないはずなんだけどなー?おかしいなー?


 「くっ!そこまで僕をコケにするなんてね?良いさ。分かったよ!もう遊びは終わりにするよ!!」

 「遊び?レインのは遊びじゃないよ。遊びっていうのは……」


 テティがレインの、これは遊びだ発言に物申すと、辺りが暗くなってくる。

 それと同時に急に木々の葉を風が揺すり始める。

 

 『ちょ、テティさん?これって?』

 「レインがさ、遊びたいって言うから。遊んであげようかと思ってさ」

 

 ……はい、これもう怒ってます!完全にキレてます!

 だって声がいつもの声じゃないもん!冷たいよ!思わず耳が凍っちゃうかと思ったよ!!

 耳なんて無いですけどね?


 って、そうじゃない!!

 これが遊び?

 いやいや、私には懐かしい台風を彷彿とさせるような真っ黒い雲が見えるんですが?なんか木が葉だけじゃなくて幹までミシミシ言ってるんですが?


 「だいじょうぶ。遊びだよ、ルア。ねえ、遊びたいんでしょ、レイン?」

 「な、何を!?」 

 「レイン、勘違いしてるようだから教えてあげるけど、君のは遊びじゃないよ?遊びっていうのはこういうことをいうんだよ?」


 その瞬間、竜巻があちこちで発生する。ミシミシと音を立てて木が舞い上がっていく。

 本当に今までは本気どころかその力の一部しか出していなかったらしい。


 いや、もしかしたら本当にテティにとって、これは遊びでしかないのかもしれない。

 正直もうさっきからスケールがデカすぎてテティを計りかねている。

 

 そして、テティはそこでゆっくりと口を開き、宣言する。


 「じゃあ、遊ぼうか、レイン」


 濃密な殺気を纏ったその風による、お遊びの開始を。





 

これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。

面白い、続きが気になる、などなど色々思われた方はページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えるとありがたいです。

皆さんのその評価が執筆意欲に繋がりますのでどうかよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ