67 あっさり倒しても、実は前座だったってよくあることだよね!
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凄まじい。それ以外の言葉が思いつかない程、その怪物の力は凄まじかった。
さっきはふざけてイ○ヤの真似なんてしてたけど、マジでこいつバーサーカーだわ!
さっきは倒してやるとか意気込んでたけど、いざ正面から戦ってみると危なくてとても近づけない。
大きな肉厚の中華包丁みたいなものを片手で振り回して、もう片方で木を引っこ抜いてそれを振り回したり投げ飛ばしたりしてくる。
歩けば地鳴りがして、土はボコボコ。辺りの木はそのせいで倒れたり踏み潰されたりしている。
怖いのはそこで、この森の木を引っこ抜けるっていうのがまずおかしい。確かに私のいる森の中央部よりここは大分魔素も薄い。とはいえ外界に比べればこれでも異常らしいし、この周辺の木々だってかなりの硬度を誇っている。
だというのに、さっきから棒を振り回す程度の気楽さで木を振り回しているのだ。
もっと常識に沿って戦って欲しいと心の中で悪態をつく。
戦闘は流石にテティに任せきりだ。
今も木を投げ飛ばされる。私ではきっと避けられずに一緒に吹っ飛んでいた。
つまり先頭の素人の私は戦わないのが正解なのだ。スキルを使えば、それなりに戦いになるだろうと思う。それでも、ここの木を棒扱いしているような怪物に下手な攻撃が通じるとも思えない。事実さっきからテティの魔法があまり効いていない。
テティもそこまで高位の魔法は使っていないと言っているが、それでも精霊の魔法が効かないなんて普通に考えて異常なのだ。
逃げ回りながら魔法で応戦するテティ。風の刃が空を切りヒュッという音と共に敵へと向かって行く。
武器を持つ腕を狙って放たれたその風の刃。それでもやっぱりそれは敵に対して有効打にはならず、薄皮一枚を斬るだけで精いっぱいだった。
しかも本当に面倒なことに、再生能力まで持っているという出鱈目ぶりだ。
今までの私自身のチート能力が悲鳴を上げるくらいの能力のバランスの良さだ。
怪力、そして精霊の魔法すら届かない鉄壁の防御。おまけに軽微な傷なら即座に回復する再生能力。
トロールは精霊の劣化種族と聞いていた。精霊が妖精に堕ち、そこから受肉を果たし能力を失った精霊の馴れの果て。
なのに、今目の前にいるのはどうだろうか?
確かに、魔法を一切使ってこないのを見ると魔法は使えないんだと思う。
でも、そんな事は問題にならないほどの防御力があるわけだ。精霊魔法で、しかもこの森の精霊が、テティが放った魔法ですら少し傷を付けられるだけ。それもすぐに再生されて、いいように森を荒らして暴れる。
どこが劣化種だよ!?舐めてんのか!?劣化って意味知ってて言ってる!?
魔法が使えないとか知能が低いとかこの際些末な事だよ!?
怪力、高坊、再生。こんな攻守揃ったバランスよく高水準な物が劣化て、劣化の内に入んないですから!!
『テティ、これって倒せなさそう?』
「このままだと……うん」
ですよね。このままレリス辺りが来てくれればもしかしたら何とかなるか?
「これ、たぶん普通の魔法じゃ倒せない。なんか変な気持ち悪い物がついてる」
『気持ち悪い物?』
「あのトロールの体に、なんか変な魔素がついてる」
変な魔素?何かありそうだけど、もしかしたらテティの魔法が効かないのもそのせいだったりして。
でも、調べてみる価値は十分ありそうだ。
と言う訳で『万能者』さん、鑑定オナシャス!
私は『万能者』の鑑定を使い、しばらく敵を観察し続ける。
数分後、鑑定結果が出た。
《敵個体の体に高位の魔力妨害効果を確認。恐らくスキルによる影響かと思われます》
とのことだった。
魔力妨害。ゲームやラノベではありがちな魔法が効きづらくなる厄介なものだ。
しかしスキルの影響となると厄介だ。というのも、この世界では魔法の上にスキルが存在しているらしく、一部魔法を除いて普通はスキルの効果を魔法で打ち消したりすることは不可能なのだとか。
それが精神に干渉するような物ならほぼ不可能らしい。
今回の場合は正直よく分からない。ただ、これはスキルによる防御であり、魔法ではダメージを受けないというのがよく分かった。
「威力の高い高位の魔法なら消し飛ばすことも出来ると思うけど?」
テティが少しイラついているのかいつもより少し怖めの表情でそんなことを言い出す。
テティさんがイラついてるよ!怒らせたらまずいね!というかこれ以上戦わせるのも良くないよね!
敵の謎の無敵状態も、種が割れればそこまで怖くはない。
スキルに魔法で攻撃しても効果は薄い。なら、スキルを使えばどうなるのか?
『テティ、スキルを使って攻撃してみて』
「何か思いついたの?分かった」
そうテティはスキル『風操作』で風を起こす。
魔法と違って魔素を使ったものではなく、単純な自然の攻撃なら、
「攻撃が通ってる!?」
『やっぱりね』
テティがさっき使っていた魔法は大気中の魔素を使用してそれによって風の刃を作り出したもの。つまりは魔素で風を編んだわけだ。それはつまり魔素、つまり魔力を妨害するスキルには効かない。それでも少しダメージを与えられていたのはテティがただただ凄いからだ。
それと違ってスキル『風操作』はいわば魔素に干渉せず、自然の風を操作して攻撃できる。つまりは魔素そのもので攻撃するわけではないので攻撃が通ると言う訳だ。
そこで私は一つの答えを導き出す。
魔素を使わない。または使ったとしても魔素よりも物理的な攻撃に重きを置けば恐らく攻撃は通る。
『私のスキル、あれって普通に物理攻撃だったわ』
「ルア?」
『つまり、あいつにも通用するってことじゃん』
今まで効かないだろから、と諦めていた私の攻撃がまさかの敵の弱点だとは思わなかった。
だが、そう言う事なら私が出し惜しみする必要はない訳で。
『テティ、お願い!』
「……わかった」
テティに少し体を借りる。
「種が分かればどうってことないんだよね!さっきまでちょっとビビってたけど、あんたはそろそろ寝る時間だよ!」
死体をいいように弄ばれて、尊厳を踏みにじられる。
例え敵であっても許されていい事ではない。そして、ここで目の前のトロールに救いを与えられるのは私だけなのだから。
「ちょっとそれらしいことが出来て浮かれてるんだよね!ってわけで、一瞬で終わりにするよ。あんたは強かった。でも、そうだね。私の方が理不尽だって事だよね!」
その言葉と共にどこからともなく現れた木の根や幹は、一斉に敵の体に突き刺さり、この前の火竜とは違い、最初の一瞬でまずは頭を切り落とす。
その攻撃はまるで抵抗なく滑らかにその首を落とし、それからしばらく胴は痙攣を繰り返してやがてそれも止まる。
さっきまで苦戦していたのが嘘のように、最後は呆気なく終わる戦い。
ここで一息ついて、とりあえず壊した周辺を治しながらリニィたちの元へ向かおう。
そんなことを考えて……
「おっと、遅かったか。やっぱりすごいねテティは。それとも今は神樹様かな?」
少し眠たそうな目を擦りながら、その気だるげな精霊レインは私の傍まで飛んできたのだった。
――――――
時間は少し遡り、レインがテティの元へといく前の事。
裏切り者のレインは、次の生贄を目指す。
そこでは、リニィとは違い、かなり考えた戦いを繰り広げるアルマがいた。
無闇に魔法を乱発するのではなく、しっかり効果や被害なども考えて適切な魔法を放つ。
だが、それでもやはり逃げ惑う人形たちには中々当たらない。それでも何体かは倒れているのでこのままいけば時間が経てば全滅するだろう。
「くっ!ちょこまかと。リニィの元へ早く行かなきゃいけないのに」
リニィが心配だからかそんなことを呟くアルマ。
その時、遠くの方から大きな爆発音が聞こえてくる。
「!!……あ、あれってリニィの……」
その爆発音はリニィが制御できなくなり暴発した大炎滅波の魔法だ。この非常事態に高度な魔力操作の技術を必要とする高位魔法を使うなんて、そんな大胆な事をするのはおよそリニィくらいしか思いつかない。
そして、あの魔法をこの前暴発させているところをアルマは見ていたので、リニィがやった事だと疑う余地もない。
「でも、良かった。無事そうで」
あの魔法を使ったということは少なくともリニィは生きているのだ。
アルマはそれに少し安堵する。
「大方敵が仕留められないから痺れを切らしたのね。全く、リニィらしいけど」
ほっと胸を撫で下ろし、それからまた自分の敵を見る。
数は少し減ったものの、それでもまだ数十体は残っている。
リニィのようなインフェルノを放つことはしない。
「でも、リニィが終わらせたなら私も終わらせないと。もしリニィが来たら笑われちゃうわ」
さっきまでは森に対して被害をほとんど出さないようにかなり丁寧に戦っていた。
テティには届かないとしても、精霊の中ではかなりの魔力操作技術を持っていると自負していたのだ。
だが、今は被害を気にしている場合ではない。
下の奴らをこのまま野放しにする方がよほど被害が大きくなる。
「だったら、これくらいは仕方ないわね!」
アルマはそこで敵を一体ずつ倒すのは止めて、広範囲殲滅を目的とした高位魔法を使用する。
だが、それでもリニィの様にはならないように、なるべく威力の低い物を選ぶ。
想像するのは全ての動きを止めるような氷だ。
以前見たルアの魔法を参考に自分なりにアレンジを加える。
効果範囲は半径百メートル。リニィのような炎系ではなく水、それも氷なのでそこまでの被害はない。
氷魔法は炎同様四つの元素魔法の上位版だ。炎と同じような精密な魔力制御が出来なければリニィの様に暴発してしまう。
そうはならないように慎重に魔力を練っていく。
「凍れ、魂亡き人形ども。大氷制界」
そう一声呟くと、川の流れの様に敵の背後から氷が迫る。それは数十体もの敵を一瞬で呑込むと氷の彫像へと変えていく。
そこには先ほどまでは無かったはずの氷の川が姿を現し、まるでそれは荒れ狂う流れを表現したかのような雄大な光景へと変わっている。
辺りを見渡して逃れた者がいないか確認する。
魔法は完全に制御できていたため逃れることなど不可能だとは思うが念のためだ。
すると、背後に気配を感じる。
「誰!?」
「おっと、そんなに驚かないでよ。僕だよ、レインだ」
そこにはユフェリスの集合で来なかった唯一の精霊レインがいた。
その図太さは精霊一であり、レリスが頭を良く抱えているのもレインの事が多い。
「レイン?なんであなたがここに?」
それは当然の反応だ。さっきまでいなかったのに、突然現れたんだから。
「いやー、ユフェリス様から集合掛かってたけど、僕寝ててさ。それでレリスの所に急いで行ったら、怒られてここに行けって言われたんだよ」
これは嘘だ。全くの大嘘。寝過ごしてなんていなければレリスの元にも行ってない。
全てはアルマを騙すための嘘でしかない。
だが、アルマもそこまで用心深くはなく、寧ろ駄目な仲間だと、そこでため息を吐く。
「ほんとあなたは懲りないわね。そのうちレリス様に殺されるわよ?」
「あっはは!それはそうだね!」
「それで、あなたもここで私を手伝うっていうのならもう終わったから必要ないわよ?」
アルマがそう言うとレインは深刻そうな顔をする。
もちろん、これも全てはアルマを欺くための演技でしかない。
より完璧に、より確実に、アルマを欺くための。
そうとも知らないアルマは次の言葉を簡単に信じてしまうことになる。
「実は、ここに来る前にリニィの所へ向かったんだ。そしたら、リニィが大けがを負って、眠りから覚めなくて……」
「な、なんですって!?そ、それで、リニィは今どこなの!?」
慌てふためくアルマを見て心の中で満面の笑みを浮かべるレイン。
だが、それでも決して焦らず、慎重に行動する。
「ついてきて」
リニィを寝かしてあるところまでレインを連れて来る。
そしてリニィを見て、その体を抱きしめている。
「リニィ、そ、そんな……」
精霊は涙は流さない。
負の感情はあまり感じないようになっているのだ。感情がそのまま力に影響する精霊が、悲しみを強く感じてしまえば、それは大幅な弱体化を引き起こすからだ。
それでも悲しみは感じるし、涙は出ないまでも何か込み上げてくるものもある。
それは生物としては普通の事だ。
だが、そんな所すらレインは見逃さない。
「リニィは、自分の放った魔法を自分も喰らってしまったんだ」
「!!」
「敵があまりにも、狡猾だったからそうせざるを得なくて……」
リニィを抱きかかえたまま動かないアルマ。
心の中には悲しみと怒りが渦巻いている。
涙は出ない。それでも、確かに悲壮感は感じて、それが、用心深いはずのアルマの一瞬の隙になる。
「あーあ。いつものアルマだったら、もっと警戒してたのに、ね?」
「……レイン?なに、を……!?」
「ほんと、精霊って脆いよね。たとえこの森で生まれた精霊でも、感情一つで綻びが生まれるんだから!」
アルマは悲しみを感じるとともに、無意識のうちに精神攻撃への耐性が弱まっていたのだ。
普段ならそんな攻撃は効かない。だが、今回は違った。
レインが、あまりにも非情だったのだ。非道だったのだ。
「こんな程度の魔法にも抵抗できなくなるなんて。ほんと、いっそのこと感情なんて全部取っ払えばよかったのに。まあ、僕はこれが仕事だから文句はないけどね」
レインの攻撃を受けて意識を失ったアルマとリニィ。
「精霊二柱か。念の為にもう一つくらい欲しいけど、これでも十分かな?あ、そうだ!もう一柱、少しチャレンジしてみようかな?僕がどのくらい通じるのか。もし勝てたら、それはそれでラッキーだしね!」
意気揚々とその場を立ち去っていくレイン。
そこには今も地面に横たわるリニィとアルマがいる。
でも、既にその二人の魂はなく。全てはレインの手の平の上。
「じゃあ、ちょっと遊びに付き合ってよ、テティ……」
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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