65 巨大生物って見てるだけで興奮するよね!
「今回集まってもらった用件は、気づいたと思うけど、侵入者への対応だ」
「し、侵入者!?」
ユフェリスが用件を伝えると、なんと意外なことにティルシェが真っ先に反応した。
なんか少し嬉しそう。
あ、分かった!ティルシェは多分子供なんだ!
前世の小学生が学校にテロリストとかが入ってきたら、なんて考えるくらいの脳の持ち主だ。
グヘへへェー、こりゃあ結構脳内単純そうでちょろそうだぜ!
「今から話すから少し質問とかは待って欲しい。いいかい?」
「あ、ああ。すみません」
流石にユフェリスには食って掛からないらしい。なんかユフェリスより下に見られてるって少し癪だわー。まあ、確かにユフェリスは一応王様だし、それでも良いんだけどさ。良いんだけど、なんか釈然としないんだよね。
「ついさっきかな?この村の周辺、つまり私たちの領域内に侵入者を確認した。規模は大体千程度。幸いそれほど強力な個体は見受けられなかった」
そうしてユフェリスが話していく。
それにしても結構詳しく調べてあるらしい。
どうやって?とも思うが、私に出来るのなら何万年も生きてきたユフェリスに出来ないことは無いのだろう。
とはいえ、やはり規模は千程度らしい。
私の『鑑定』では少なくとも雑兵と思われる物でも中々の力を有していた。ランクに換算すると大体D~Cランクだ。
D~Cでも人間にとっては十分に脅威になり得るらしく、事実人間たちはこれに数人から数十人のパーティで迎え撃っているのだそうだ。
そうこう考えているうちにざっと説明は終わったらしく、アルマがユフェリスに質問をする。
「あの、ユフェリス様」
「どうかしたかい?」
「えっと、規模は千程度という事ですが、中には精霊クラスのものはいるのでしょうか?」
「……いいや、そこまでの物は確認されてないよ。ただ、それでも強力だと思われる個体はいるし、油断は出来ない」
精霊クラス、つまりは自分たちと同等程度の敵がいるかどうか。ということをアルマは聞きたかったようだ。
正直一匹だけ凄いのは私も見た。あれならもしかしたら精霊でも倒されることはあるかもしれない。
とはいえ、恐らくだがここにいる全員が戦いに出るというのなら勝てないこともない気がする。
というか勝率的なもので考えるなら八割がたは問題ないと言える。敵がまだ何かを隠している可能性と、何か不測の事態を考えて八割だ。
しっかり連携を取って適切に対処するならばそこまで深く考えることは無いだろう。
それからユフェリスは精霊たちに配置の説明をした。
いかに勝てる相手といえど、流石に数は怖いのだ。だからまずは分断するらしい。
そして精霊たちには必ず数人ペアで動いてもらう。何かが起こった時に助けがあるのとないのでは大違いだからだ。
振り分けは次の通りだ。
テティ班――テティ(私)・リニィ・アルマ
レリス班――レリス・ユリス・ティルシェ
ユフェリス班――ユフェリス・カリス・レイン(いない)
振り分けは意外とすんなり決まった。
が、ユフェリスの班は、なんというか残り物感が凄い。
カリスさんは大精霊で、この前来れなかった人だ。大精霊らしい貫禄に溢れている人だった。
そして、さっきから気になっていたのだが、レインがいない。
『ユフェリス、レインは?』
「それが、レインにも魔法で伝えたのですが、音信不通で……」
「どうせまた昼寝でもしているのでしょうね。はぁー」
ユフェリスの言葉を聞いた後にレリスが深いため息を吐く。
顔が怖い。目が怖い。レリスの体から凄く黒くてドロドロしたオーラみたいなのが見える。
それにしたってこの非常事態に音信不通て、まあ、確かにあの性格ならかなりその可能性が濃厚なんだけどね。
そんなわけで実質迎撃班は二つだけ。
村や周辺の防衛なんかはユフェリスとカリスさんがやるらしい。
防衛に関してはこの二人で十分だし、可哀想だがレインはいてもいなくても変わらない。
だからこの班に組み込まれたんだね!
「テティ、私たちが敵の七割近くを受け持つからあとはお願いできる?」
「分かった。アルマはともかくリニィは心配だしね」
レリスさんの言葉にテティも頷く。
確かに、戦力的に考えるなら私たちの班は少し心許ない。
レリスさんの所は大精霊が二人もいるのに比べてこっちは大精霊クラスでもあるテティが一人。足手まといとは言わないものの、少しどんくさいリニィも一緒だ。
そこら辺も考えて敵戦力の七割を引き受けてくれるらしい。
これはかなりありがたい申し出だ。
「それじゃあ、まあ、レインを待っている時間もないし、そろそろ行動に移るとしようか」
ユフェリスのその言葉と共にみんな動き出す。
本当に突然で、何が何なのか全然分からない。
それでも、私としてはやれることだけやるつもりだ。
問題を片付けたそばから問題ばかりが舞い込んでくる。
転生直後に考えていたスローライフのすの字も見えない展開だ。
敵は南から北上してきている。そう、ほとんど真南からだ。
私たちもレリスとの打ち合わせ通り敵の侵攻予測ポイントまで急ごうとして、
「ルア様……いえ、なんでもありません」
ユフェリスにそんな声を掛けられる。
『どうかした?』
話すかどうか、少し苦い表情をしてから決心したのかただ短く簡潔に話す。
「今回の侵攻は恐らく森の南部を治める魔王の手によるものです」
『魔王?』
おっと、謎の急展開来たよ!?
魔王?はぁー!?いきなりどうした!?魔王出て来たけど!?はぁー!?
もう一回言うね?どうした?マジどうした!?
あまりの唐突さに思わずボキャブラリーがなくなってしまう。
「魔王ヴァルパ。かつて、精霊から堕ちた魔の王です。どうかお気をつけて。あの者には既に、精霊としての心は残ってはおりませんから」
そう悲しそうな顔をするユフェリス。
精霊、か。たぶん知り合いなんだろう。それもそうか。精霊王なんだもんね、ユフェリスは。
『分かったよ。ありがとう。でも、その魔王は来てないでしょう?』
「ええ。気配は感じませんね。ですが、狡猾にして悪辣。あの頃の面影などもう何もない魔の王ですので。どうか、油断は、」
『しないよ。ちゃっちゃと終わらせて帰って来る。そしたら、その精霊だった頃、のヴァルパとやらの話を聞かせてよ』
私はそれだけを言い残してハティの背中に飛び乗るとハティは勢いよく走り出す。
「良く捕まってください、ご主人様!」
あっという間に後ろは見えなくなり、私たちはこうして迎撃に打って出る。
「えぇ、帰ってきたら、彼女の話を……」
最後に一言ユフェリスはぼそっと呟くが、その場は既に誰もいない。
その一言も、森を駆け抜ける風によってかき消されていく。
敵は唐突に表れて、戦いは突然に。
裏切り者は息を潜めて機を窺う。
こうして、一人の裏切り者を抜いた、全ての者がそれぞれの準備を完了させていく。
――――――
「みんな、今頃どうしてるのかな?僕がいないのは……多分そこまで特には考えてないか」
少し鋭く精霊たちの反応を推測する。
こうした自己評価が低いのはこれはこれで自分の強みだと前向きに考えているレイン。
「どうせレリスとかはまた僕がサボってるとか寝てるとか考えてるんだろうな。今回に限ってはそれが何よりもありがたいんだけど。今まで演技してたわけだけど、僕って案外才能あるのかな?」
一人ではしゃぎ始めるレイン。
別に特に意識して演技をしていたわけじゃない。たった一つだけ、自分が魔王の内通者だと知られないように。それだけを誤魔化してきた。
なので特に日常生活に関してはほとんど取り繕うこともなく自然体で送っていた。
なんだかんだであの生活も気に入っていた。仲間たちも結構好きだった。
「とはいえ、うちのお姫様がご所望だからね。こればっかりはどうしようもないんだけど」
レインはそう苦笑いを浮かべる。
気に入っていたとはいえ、それでももう彼女から命が下ったのだ。
もしここで渋るようなことがあれば、僕が危ない。
もっとも……
「僕としては、今から楽しみで仕方が無いんだけどね。さて、皆どんな顔をするのかな?」
そう。レインとしては、裏切りに関しては特に何も思わない。
確かにあの村が居心地は良いとは思っていたが、かといって彼女と天秤にかけられるほどの重要性は感じない。
レインの中での最優先事項は迷うことなく彼女――魔王ヴァルパの命であり、そして彼女の存在こそがレインにとって唯一守るべきもの。
「楽しかった。過ごしやすかった。だからさ、せめてもの情けとして、駆除作業だけに留めておくよ。さ、お前はそっちだろ?」
レインはその醜い怪物を前方へと蹴り飛ばす。
その体の大きさは虫と人ほどの差がある。というのにレインの蹴りで軽々とその怪物は前方へと飛ばされる。
「さて、ここでもし敵も分かれて動き出したら、皆はどう動くのかな?固まって動くか、それとも……く、フフッ、アハハハハッ!!」
何がおかしいのか、笑いを堪えきれずにレインが大声で笑いだす。
「虫は群れると気持ちが悪い。折角やるなら一匹ずつ、確実に。さあ、彼女の我が儘だ!癇癪を起す前に、掃除の時間だ!!」
レインの言葉で人形たちはそれぞれが分かれて動く。
今まで固まっていた動きはそれぞれがバラバラになり、森の中を各々が進んでいく。
敵をより分断するための作戦。
疑り深く、冷静なレリス辺りならば狙いに気が付くかもしれないが、今回の狙いはそこじゃない。
「ティルシェも、リニィも、頭が弱いとこういう時に痛い目を見るんだよ」
――――――
「来た!」
大きな地響きと共にやって来る巨人。
『鑑定』にはトロールと出たエルフたちと同じ妖精の一種らしい。
これまた面倒な事なのだが、妖精にも色々と区別があるらしい。
エルフやドワーフといったものたちは妖精たちが受肉を果たし、それが種として根付いたものらしい。
受肉したことで通常の生殖が出来るようになったらしいが、そのせいで妖精本来の力は衰えた。それこそが今この森の外側にいるエルフたちと言う訳だ。
だが、そんな中でも妖精時代から各種族ごとに特性をいくつか持っている。
エルフであれば森の中でも正確に道などが把握できるような空間把握能力。
そして、目の前のトロールは魔力を失くした代わりに、あり得ないほど大きな体。そしてその筋力。知性は低いが、逆にそのせいで攻撃に規則性はなく、ただの暴威でしかない。
あそこまで巨大な生物はキリンやクジラくらいしか見た事が無い。
もっとも、キリンは動物園、クジラは船に乗っていた時に遠目に見ただけだった。
だからこそ、こんなにも間近に巨大生物がいるのはそれはそれで興奮して……
「る、場合じゃないんだよねぇー!?」
前方およそ十メートルにそのトロールは数十体規模の仲間を引き連れて現れる。
さっき見た時よりも明らかに数が少ない。
だが、そんな事を考えている間に、そのトロールが一声咆哮すると、横にあった木を一本鷲掴みにして思いきり根から引っこ抜く。
そのままこちらに向かって大投擲!これにはアイアスさんもびっくりだ!
「ないわー、何その脳筋プレイ?」
思わず横に少女の幻覚が見える。やっちゃえ!バーサーカー!ってか?
うん。マジでお似合いだわ!少々顔面がキモいとは思うけど、それ以外はお似合いだわ!
そんな怪物に向き合いながら私は不満を一つ口から零す。
「これ、エクスカリバーの一本くらい無いと、厳しくない?」
せめて再生だけはしないことを願いながら――。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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