46 久しぶりのこの感覚は、進化です!!
誤字報告をちょくちょく頂いています。本当にありがとうございます!
「な、なにがどうなっているのだ!?なぜ、なぜ余の軍が……!?」
困惑した表情で目の前のおじさん(王……多分?)は狼狽えている。
そりゃあそうだろう。
これだけの軍勢を差し向けておきながら勇者と、そしてあとからひょこっと現れた精霊一体に為す術もなくやられているのだから。
これはアレだ、ゲームで次は一応ボス戦だと分かっているから装備とか色々と揃えたのに、まさかの敗北固定イベントだった。みたいな感じだ。
もっとも、このおじさんの場合は敗北後はもう再戦の余地すらないのだが。
「さて、それじゃあさ、お話ししようよ」
「は、話だと!?き、貴様如き低俗な精霊など、今から余が斬り捨てて……」
どうやら話を聞く気が無いようなので仕方なくスキルを使う。
地面から物凄い勢いで木の根が数十本周りに現れる。
「ひ、ひぃえあああー!!」
とはいえこれ以上の事は出来ないのだが、それでもこれで十分脅しになる。
情けない悲鳴を上げながら腰を抜かして地面に手を突く王。
「うーん、どうやって斬り捨てます?」
「な、なんなのだこ、これは!?」
周りから生えてきた太く、そして異様なほどの巨大さを誇るその根を見て驚愕する。
さっきから怖すぎてもうその場から動けないらしい。
完全に腰が抜けてしまっているのか尻と地面がまるで癒着しているかのようにピクリとも動かない。
「さて、私の森に……は、まだ入ってないか。でも、一応ユフェリスたちの庇護下に遭ったエルフたちを襲ったわけだし」
「き、貴様はさっきから何を!?ひ、庇護下だと?」
「そうだよ。もうさ、派手に壊してくれてるけど、エルフたちは一応精霊たちの庇護下に入ってるんですわ。だから対応にも困るんだよね」
そこでまあ、色々と考えるわけですよ。
このまま王様諸共土に還すのもそれはそれでいいのかもしれない。
でも、それだとこの先も危険度というか、精霊を舐めてるような奴らが面白半分でちょっかいを賭けてきてもおかしくないわけだ。
ここは、皆殺しではなく、あくまでも生きて帰す方が良いだろう。
生きて帰して、恐怖を植え付け、彼らに森の恐ろしさを伝えさせる。
精霊の存在は半ば伝説や史実、物語の中だけだと思っている人も結構いるのだとセリアから聞いているので大半の人は精霊に対してはそこまでの悪感情は抱かないだろう。
この世界には魔物やら魔族を迫害し、討伐するような宗教国家もあるらしいが、一応精霊はその宗教では崇めるべき存在らしいので恐らくその教会や国が動くことは無いだろう。
「さて、じゃああなたをどうするかだけど」
「余をどうするか、だと?な、舐めるでないわ!先ほどまでは油断していたが、貴様如き精霊など、我が剛剣の前には無力と、」
そう言って手元にあった体験を鞘から抜き出して私に向けると、勢いよく走って来る。
よく走る元気あるなー。前世じゃこの見た目通りの歳だと、多分みんな足腰弱くなって歩くのも辛いだろうに。この王サマは足腰は強いらしい。
ま、面倒だし、話が進まないから剣は駄目でーす。
「よっと」
走っていた王の足元からまたもや木の根が飛び出してくる。
それを剣で切り裂こうとしたのだろうが、この程度のなまくらで切り裂けるほどこの辺りの木々は柔じゃない。
「な、なん、だ……と!?」
「もう武器は無いんだしさ、そろそろ抵抗はやめて欲しいんだけど?」
「くっ!」
それでも尚反抗的な態度は崩さない。
うわー、あの目はちょっとヤバい奴の目だわー。血走っちゃってるよー、もう色々と関心するよねー。
追いつめられても依然として自分の方が立場が上だと思っているらしい。
「き、貴様は一体何が望みなのだ!?」
うわ、キッツイわー。このおっさん自分からやられに来ておいて、勝てないと分かった途端にこれだ。何が望みか?はぁー?舐めてんのか?ぶっ○すぞ!?
「何言ってんのあんた?頭沸いてんだろ?精霊の棲み処に領土侵犯しておいて何が望みか、って。そんなん考えなくても分かるでしょ!?」
これで分からないのだとしたら本当に頭に何か沸いている可能性もある。
寄生虫?新種のウイルス?……あぁ、もしくは呪いとかそう言う類のものだね。ありそうだわー、脳みそ見てみたら中に何か巣くってたりしてね。
「り、領土侵犯だと!?い、いつこの場所がお前たちの領土だと……」
あ、もうこれ駄目なやつだ。
多分、そこに神様が住んでいたとしてもこいつはきっと攻め入っている事だろう。
うん。私たちが半ば空想上の生き物だから仕方が無いんだ。そこら辺はやっぱり周りに認知してもらわないとこの先も苦労しそうだなー。こういう馬鹿が相手をあまりにも過小評価をするあまり、周りに転がる兵士の様に、無駄な犠牲が築かれていく。
え?この兵士たちは全部お前が殺したって?
違いますー。厳密にはまだ生きてますー。ちゃんとみんな心臓は動いてますぅー。
とはいえ、中には半身不随になったり、意識が最悪戻らない脳死状態になっている者もいるだろう。
まあ、それは私の管轄外ですしー。
それに、私が森、というか精霊たちの実質的な支配者になったのだからこういうものは厳しくしないといけない。
ほら、日本でもよくあったじゃん?他国の漁船やらなんやらがこっちの領海に入ったりさ?そう言う事を黙認したり、あまり強く出ずに曖昧な態度を取っていると相手側だってつけあがるわけだ。
まあ、前世じゃそれで最悪核戦争へと進みかねないし、戦争はしないなんて掲げてた以上日本も強くは出れなかったわけだ。
だが、今の私はもう違う!
仲間、及び配下はたった一体で万の軍勢に匹敵するようなチート種族ばかり。もう出来ない事なんて無いんじゃね?て疑いたくなるほどの有能ぶり。
私は普段木として突っ立てる事しか出来ないが、それでも一応今みたいなぱっと見凄い事なら出来なくもない訳だ。
だから、そろそろ話を終わらせたい。ここで威厳を示すのもこれから正式に森の者の中で上に建つものとして大切なのだ。
「あんた、セリアの元いた国の国王なんでしょ?」
「せ、セリア、だと?そ、そそれがどうしたというのだ!」
「まあ、そんなあなただからこそ、だよね」
セリアは、こんなクズが国王になっていても、その国を今まで見限る事無く戦ってきたのだ。
そんな国の王を、私が殺すことはやはり出来ない。
殺すならセリアの手で。それにここで殺さず逃がしておけば私たちの存在はきっと周辺国にも広がるだろう。
一応大国?であるそうだし、そんな国が逃げ帰ったとなれば対応を見直さざる負えなくなるだろう。
たった一人で万軍に匹敵するのだ。馬鹿じゃなければ友好的に、少なくとも普通は不可侵を貫くだろう。
「あんたは、ここでは殺さない。降伏して、今すぐ自国に逃げ帰るのならばこれ以上の制裁は加えないけど?」
「せ、制裁だと?貴様は余が誰だかわかって言って……あ、ああー!?」
指をぱちんと一鳴らし。すると力は根が生える。
それは鋭く鋭利に先端は尖っており、場所さえ合っているなら簡単に人間の胴など真っ二つになっているだろう。
「聞く気になってくれたかな?私、トマトピューレってあんまり好きじゃないんだよねー?」
あの赤くて本物のアレを想起させるようなトマトを煮詰めてピュレしたもの。
しかも濃縮されるからかなりのリアルさなんだよね。
トマト特有の瑞々しさもほとんど感じられない、そんなリコピンたっぷり、栄養満点!なトマトの事は今は置いておこう。
「……わ、分かった。余は、きさ……いえ、あなた様に降伏いたします。ですので、どうか、どうか私の命だけはお助けを」
わー、真っ先に自分の命の保身に走りやがった!クズだ!完全なるクズだ!
今も根に体を縛られて身動きが取れない兵士や、死にかけで地面に倒れ伏している約7割の兵士など目も暮れず、私の下で、そう地面に頭を擦り付けている。
まあ、周りには物々しく恐ろしいほどに尖って、しかも大量の魔素を帯びた根が自分の背丈の数倍は空へと伸びているのだ。しかも一本ではなく数十本にも及ぶほど。
「うんうん。自分の立場が分かったようで何よりだよ!ってことで、とりあえずこの先、この地への介入は一切禁止。それに、あんたは首を切るなり退位するなりしてね?」
「た、退位だと!?」
「私の友達に散々な仕打ちをして、しかも裏切り者の汚名まで着せたんでしょう?本当ならここであなたをゆっくりじっくりオモテナシしてあげたいけど、我慢するんだからさー、分かってるよね?」
「ひ、ひぃー!!わ、分かった!いや、分かりました。余は、いや、私はこれ以上この森に関わらないと約束いたしましょう!」
「そっかー、それは良かった良かった。うん。これで一件落着ですわー!んじゃ……!?」
もうここに居られると正直邪魔なのだ。そんな事を考えて残りの話を済ませようとしたのだが、その瞬間、強烈な眩暈と共に眠気が私を襲って来る。
『ん?大丈夫ルア?』
テティも私の違和感に気づいたらしくそう尋ねて来る。
『いや、これ、ちょっとヤバいかも……』
ようやく一件落着でかっこよく終われると思っていたのにこれだ。
テティとの『感覚共有』も切れかかっている。
そんな中、最近は出てこなくなっていたその文字が私の頭に浮かんで来る。
《聖樹:ルアが進化条件に達しました。種族:聖樹から種族:聖大樹へと進化が可能です。進化を開始しますか?》
なるほど、この力が抜けて意識がなくなっていくのも進化の影響か。
でも、ここで無責任にも眠ってしまうのはマズイ。
本当なら自分の手で決着を付けたかったが、ここは彼に任せよう。
『ユフェリス、聞こえる?』
『おおー!これはルア様!どうかなさいましたか?』
ここで事細かく色々と説明したほうが良いのだろう。
でも、これは……あぁー待って、今ちょっと意識が飛んでたわ。
『進化始まったから、テティのところまで行ってそこにいる人間と話して』
『なるほど。進化が、それはめでたいですね!承知しました。このユフェリス、すぐにでもそこへお向かいいたします』
その言葉を聞いたと同時にテティとの接続が切れて、私はいつもの場所へと戻って来る。
そのまま私の意識はそこで消失する。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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