41 森への侵攻
少し早いですが……
―勇者失踪からおよそ一週間後―
「それで、情報は掴めたのか?ハインツよ?」
大臣ハインツの報告を受けて国王であるアルベールが直々に招集をかけた緊急会議。
その議題はもちろん
「ええ、西側から流れてきた商人たちが面白い事を口にしましてね」
「ほう?それはどんなものだ?」
ハインツはその商人から聞いたことを全てアルベールを含めたこの場にいる者達へと伝える。
「王よ、今からおよそ100年前に見つかった、精霊の森はご存じですか?」
「精霊の森……確かアルスローの冒険者が見つけた未開の地の事か?」
それは今から約100年前、当時世界でも数少ないSランク冒険者として活躍していたガイスと呼ばれる男が齎した情報。
アルスロー王国の首都から南に直下し、そこに聳える山脈を超えたさらにその先、
今までは山脈を超える事すら一苦労だったことから先へ進む者は少なかった。しかも進むにつれて濃くなっていく魔素から近づく者はいなかった未開の地。
そこに今から100年前、ようやく冒険者の一行が立ち入ったらしい。
当時はAランクであったガイスは、それでも目算Sランクは確実にあったと言われる強さの冒険者だった。そんな彼が、国へ帰ってきた頃には彼を含めたパーティ全員はその瞳から光が消えていたという。
その人類でも数少ないSランク冒険者として、今もその名は各国に轟いている今は無き最強の冒険者の一人。そのガイスは、ギルドに帰ってきては、ギルドマスターに森へ近づくことを必死で辞めさせたのだとか。
実は当時、そのガイスが森へと立ち入る前に、もう一つのパーティが森を発見し、一本の木を切り倒して持ち帰ったらしい。
その木の硬度はまるで伝説に語られる精霊鋼を彷彿とさせるような程であり、今もアルスロー王国では大切に保管されているのだとか。
そんな木だからこそ、その報に各国が湧いた。鉱山などでもそこまでの高度の鉱石はとれない。その上そこが森だというのだからフェルナンドも含めた大陸中、特に東側諸国は特にその報に歓喜した。
というのに、その冒険者の一言でその森へは如何なるものも立ち入りを制限されている。
その冒険者であるガイスが言った言葉、それは確か、
「それは、精霊が住むと言われる森の事よのう?」
「ええ。その通りでございます」
精霊の森が示すように、その森には精霊が住んでいるとされる。
ガイスが戻ってきて伝えた言葉、それは、「この国が亡びるかもしれない」という言葉。
しかも驚くべきことに、精鋭を募って約数十人のパーティで行動したにも関わらず全員が無傷で弄ばれたそうだ。
実際精霊の目撃情報は各国で年間数件程度だが報告されている。
だが、捕獲はおろか、その存在を確証づけるものは未だに無い。
その力は一体で魔王に匹敵すると言われ、かつての文献では精霊の怒りに触れた一人の魔王がその国ごと容易く滅ぼされたとも。
だが、そんな精霊が一体この場の何に関係しているのか?それをアルベールはハインツに尋ねる。
「その報告は、必要な物なのか?」
「ええ、勿論ですとも。確かに、精霊の存在など、夢のような物。ですが、どうやら、精霊と勇者は密接な関係があるようです」
「なに!?それは本当なのか!?」
「はい。私たちも総出で数ある文献を探したところ、一つだけ、見つけました。“嘗て、魔王に対抗しきれなかった人間に対し、精霊がその慈悲を以て人間に加護を与えた”と」
その報告を受け、この場にいる誰もがその言葉に驚愕する。
魔王に対抗するための希望、それは人間の願いの為した奇跡の産物、などと考えられていた。しかし、それは誤りだったのだ。
「その文献は?」
「恐らく数千年前の物かと思われ、その存在すら忘れられていたものかと。今更勇者の秘密について調べる物好きはいませんからね」
「精霊と、勇者。それはつまりは……」
「ええ、ええ!!王の考える通りでございます。あの勇者は恐らく、加護を持っています。そして、各国の情報網にも掛からない、となりますと、我らの目が届かぬ場所」
「クッ、ククッ、クハハハハハッ!!よくやったぞハインツよ!!まさか、まさかだ!!勇者にそのような秘密があろうとは!!あの化け物じみた強さも、全ては精霊から授かった物だったわけだ!!」
勇者は精霊によって力を与えられた存在。
各国に張り巡らせた情報網に未だに掛からない勇者。
そして、約100年前に見つかった未開にして不可侵の領域。
「これは、決まりであろう?勇者は、セリアはそこに逃げ込んだと見るべきだ」
「であれば王よ、我らも最終準備に取り掛かりましょうぞ!」
そう言って近衛総指揮のゲイルが立ち上がる。
「そうだな。では、此度はあれを使うとしよう」
「あれですか?フハハハハハッ!それは良い!対魔王を想定して作られましたが、精霊がいるのであればそれも有効でしょう!承知しましたぞ、このゲイル、すぐに準備に取り掛かってまいります!」
そのまま走って会議室を後にするゲイル。
だが、他の大臣たちは浮かない顔をする。
「王よ、そうは言いましても危険であり、見つかる保証もないそんな場所に行くなど……」
確かに彼らの言う事はもっともだ。勇者はおろか、精霊すらいるかも分からないその土地に押し寄せても何も得られぬのなら意味はない。だが、
「ハインツよ、確か昔のその冒険者たちは森の木を切り倒そうとして精霊に制裁を受けたのだったな?」
「そうでございます」
「つまりは、森を汚し、燃やしでもすれば精霊は出て来るであろう?あの虫唾が走るほど純情な勇者であれば、そんな愚行は看過できぬはずだ」
見つからない。探せない。
「ならば、おびき出せばよいのだ!!」
「な、なるほど!!流石は我らが王、良く勇者の事を分かっておられる!」
「余は王だ。ならば動かず待つのが最善であろう?なに、せめてもの情けとして森へは出向いてやるのだ」
アルベールは内心で勝利を確信する。
ようやく勇者を、セリアを殺し、真の絶対者として自分が立つことを目に浮かべる。
「時は来た、3日後だ。その日を以て森への侵攻を開始し、そして……」
この場にいる全ての大臣に目を向ける。
長き因縁。400年にも渡り勇者によって集中しきれなかった権力を全て自分に集中させる。
それだけを考えて、アルベールは命令を下す。
「これは慈悲だ。死ねぬ勇者に、せめてもの慈悲を、この余が直々に与えてやろう。戦争の始まりだ!!」
そう、フェルナンド王国は一方的に、独善的に、セリアや精霊の事など考えずに選択する。
それが、この先どのような結果を生むか、それはまだだれにも分からない。
ただ一つ言える事は、この国は恐らく、初代が死んでしまった時点で、死んでいたのだという事だ。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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