37 加護の返還!?
「それで……どうして加護を?」
ユフェリスとセリアの話が始まった。
「私は、もうこんなことは繰り返したくはないんです」
「繰り返したくはない、か」
「私が勇者でいる限り、彼らは、人間たちはまた無駄な争いを続けてしまう」
悔いるように、悲しむ様に、セリアはそう俯く。
「私は人間の状況に詳しくはない。人間が滅びようとも、魔族が滅びようとも、実質的な問題は何一つないからね」
すっごい極論だけど、私たち森側からすれば、外の世界についてはどうでもいいのだろう。
「ただ、それでも、エイン様は人間を大事にしているお方だった。だから私も力を貸した」
エインさんがいなければ力すら貸さなかった、そういう風に聞こえるが、その声は意外にも優しいものだった。
「君はその力があれば、人間はおろか、精霊にすら引けをとらない。体の成長は止まり、精霊並みの力を手に入れ、君たちの脅威である魔族や、その王である魔王とすら戦える」
「それでも、それでももう決めたことです」
「逃げるのかい?」
「……はい」
逃げるっていう言い方は正しいのだろうか?
だって、彼女は今まで数百年にもわたって戦ってきたのだ。そんな彼女が、もう戦いから離れることが、そこまで行けない事なのだろうか?
ユフェリスはセリアの目をジッと覗き込む。
「君は、もう戦いたくない?」
「はい」
「……君は、優しいね」
「え……?」
「分かった。加護は僕が回収するよ。それで、君は晴れて自由の身だ」
「は、はい。ありがとうございます」
少し困惑した表情でセリアはそう礼を言う。
そのあとにユフェリスは思い出したように聞く。
「これだけは聞いておかないと。君は、自分の状態が分かってるのかい?」
「!!……はい、まさか見抜かれるとは思ってもみませんでしたが」
「そうか。覚悟のうえ、それでいいね?」
「はい。もう、ずっと考えていたことですから」
一体何の話をしているのか、私にはよく理解できない。
ただ、一つ言えるのは、二人は何かを隠している。
「よし。分かった。君の気持も、その覚悟も。そのうえで一つ提案だ」
「提案ですか?」
「そう。君にとっても悪い話ではないはずだ。セリア、精霊になるつもりはあるかい?」
うわー、もうこの世界なんでもありだわ。
人間が精霊になれるとか、どんなチート展開ですか?
「とはいえ、純粋な精霊にはなれない。そうだね、半霊になる、と言った方が良いかな?」
あー、半霊ね。そう言えば先生さんも半霊だってセリアが言ってた。
その先生が少しきな臭く感じるけど、でも、半霊になれば寿命も関係なくなるのだろう。
この先も、この森で生きていけるわけだ。人間の国で勇者をしていたらしいけど、そんないたくもない場所にいても退屈なだけだしね!
「いえ。私はもう、これ以上生き永らえる気はありません」
「……それは、どうしてだい?」
「私は、私はあまりに罪深い。あまりに、非情な、それでいて救いようのない人間なんです。多くの命を、多くの同胞までをもこの手にかけた。そんな私が、全ての責任を放棄して、それでも尚生き永らえるのは、とても醜いとしか言えませんから」
とても苦しそうに、そう自分の意思を告げる。
彼女は多くの命を奪ったのだと思う。人間の命も奪ったんだろう。
私はそれが戦争とかである以上仕方が無いとは思う。やらなければやられる。殺した方も、殺される方も、どちらにも非はない。死ぬことを覚悟しているからこそ、戦場で戦うのだから。
それでも彼女は、それでもその戦いを、命を奪ったことを罪だと認識している。
自分が悪いのだと、償うべきだとも感じているだろう。
「いいえ、本当は、そうですね……怖いんです」
「怖い?」
「これ以上生きているのが、これ以上、生きていくのが。私は、もう、逃げたいんです」
逃げる。私から言わせてみればそれは正当な撤退だと言わざる負えない。
だって、今まで多くの人を救って、苦しんで、それでも戦って、今ようやく自由になろうとしてるだけ。それを逃げだなんて言われたら前世の私は称号『敗走者』とか『逃げ腰』とか獲得してることだろう。
逃げて何が悪いんだー!?逃げるが勝ちっていうじゃん?まあ、最後の最後で私は逃げ切れないからあんな生活を送っていたんだけどね!
「逃げる。逃げるか。その言葉を彼に聞かせてやりたいものだな。自分の弟子が、こんなにも苦悩しているというのに。本当に、人間は愚かだ」
「おっしゃる通りかと。それでも、私はこの力を、呪いを、誰にも引き継がせたくはないんです」
「それを呪いに作った覚えはないが……ものは使い様と考え様、か」
呪い?力?引き継ぐ?
呪いも力も多分加護の事だよね?
うーん。話がこんがらがってよく分からなくなってきた……ま、難しい事はいっか!
セリアが元気になって、それでまた私の元へ来てくれるのなら私としては美味しい話だし。
テティと一対一の話も楽しいけど、別視点での話も聞きたい。
まだまだ時間はかかるわけだし、仲間が増えることに越したことはないしね!
「そう、か……それじゃあ、加護を引き取る前に一つだけ。彼は、まだ生きているのかい?」
「先生は、まだピンピンしてますよ」
「……すまなかった。私が、こんな力を彼に渡したばっかりに、君の生を歪めてしまった」
今度はユフェリスが深刻そうな顔をする。
そこまで重大な問題なのだろうか?
いや、確かに加護の力は絶大らしいし、そりゃ人間たちからすればとんでもないものなんだろうけどさ?
「セリア、君は誇り高い人間だ。私も長き時間を生きてきた。それでも君ほど綺麗な人間はそういなかったよ」
「そう言ってもらえると、そうですね。なんだか報われた気がします」
ん?なんか今ハッピーエンドっぽい空気が……?
「せめて、次は、そんなしがらみも何もない、自由な生に……」
ユフェリスがセリアに手を翳す。そこから光を伴って……
って、これアカンやつでしょ?
これ俗に言うデッドでしょ?死だよね?私には死の匂いがプンプンするんですが?
やばいやばい!え?これからは普通の人間に戻るんじゃなかったの?
ええー!?これで終わり?死ぬの?まだ話したいこととかあるんですけど?
「え、ちょっと、セリアさん!?なに死のうとしてるの?」
「ごめんなさいルア。でも、もう私はどちらにしろ長くは無かったから」
は?え?勇者って寿命ないんだよね?なら長いも短いもあるかい!
「色々話したかったけれど、でも、もうお別れだから」
「いやいやいやいやー、ねえ?そりゃないでしょ?」
今まで必死に頑張って、必死に戦った。セリアはそう言って来た。人間にとっては数百年なんて本当は生きられない、そんな悠久にも近いほどの長い年月。
そんな長い時間をただただ戦いに費やして、傷ついて、苦悩して、罪を背負って、そんな彼女の救いが、ただ死ぬことって、それは無いでしょ?
私だって、前世じゃ死にたいと思うことはしょっちゅうだった。こっちの世界に転生して、真っ暗闇の中で何も分からず恐怖に耐えてた時も死んでしまえば、なんて思ってた。
でも、死ななかったからこそ今があるわけで、死ななかったからこそこうしてみんなと出会えたわけで、それなのに、それなのにセリアは……
「なんで?また初めからやり直すんじゃなかったの?」
「もう、私はやり直せないから」
「どうして!?」
私が言えたことじゃないけど、多分セリアも恋愛とかはしてこなかったのだろう。成長が止まったのは17歳。ちょうど青春真っただ中、それこそ恋人の一人や二人を作って現を抜かす、そんな時期。
セリアはそんな時期からずっと戦い続けてた。恋も知らずに、年相応の青春も遅れずに、
「なんで!?やり直せるんだよ!?なのに、なんでそんなに!?」
なんでそんなに即決してしまうのだろうか?なんでそんなに簡単に諦めてしまうのだろうか?
私にはそれが分からない。こんな木になってる私ですら、別に何かを諦めてるわけじゃないのに、彼女にはまだ可能性があるかもしれないのに。それこそ、精霊にだってなれると、ユフェリスが言ってたのに。
「だって、私は、私はもう……」
そこでセリアが言葉を、最後の言葉を言いかけたその時だった。
ユフェリスの手は止まり、レリスさんやテティの様子も少し変わる。
そして……
「うげっ!?いったいです。ぐすん」
「リニィ、これは?」
突如窓から精霊のリニィが物凄い速さで部屋に突っ込んできては壁にぶつかる。
そして、あとから魔法で浮かされた何かがゆっくりと下ろされて、
「精霊王様、ぐすん。この人の話を聞いてくだひゃい、ぐすん」
「わ、分かった」
そこには全身傷だらけの人?というか、これは……この長い耳、これは噂に聞く?
「エルフッ!?」
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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