03 趣味は、そうですね。光合成、とか?
日が沈む。月が出てきて、そしてまた日が昇る。
何度これを眺めていただろう?一週間?一か月?まさか一年経ってたりして。ってそれは流石に無いだろう。とか言いつつまさか数十年経ったりして?
流石にそれは無いか。
が、私にとってはそのくらい長い長い時間だった。
ただひたすらに光合成をして魔素を溜め続ける日々。
魔素を溜めたりしてれば進化できたりするのかな?ここファンタジーな世界だし、ワンチャンあるんじゃね?
なんて思って健気に魔素を溜め込んだものの、そう簡単には行かないのが現実。
何も起きないまま、ただただ溜まっていくだけの魔素。
進化のしの字も見えないまま、気が付けばまた私はぼーっと陽の光を浴びている。
普通、こんだけここでボーっとして、こんだけ魔素溜めてれば進化の情報くらいは出してくれるでしょ?なにこの不親切な世界。
もうね、これほんとやばい。何がやばいって、動きたくても動けないから本当にストレスがどんどん溜まっていくんだわ!そんでもって、ずっと一人。動けない、喋れない、誰もいない!!
まあ、なんという事でしょう。転生したはいいものの、待っていたのは無駄を極限まで削ぎ落した単純すぎる人生……いえ、木生でした。転生したら動けなかった件(笑)
ここまで何も出来ないって、これなんて地獄?禁錮刑になってる囚人ですらもう少しまともな生活してそうだっていうのに、転生したらこれですわ。
私は何も信用できなくなってきた。は、ははっ!
一つ幸いな事と言えば真っ暗闇な中で何も見えず聞こえず、何も分からない状態ではないという事だ。『魔力感知』のおかげで音も聞こえるので風の音や小鳥の囀り、動物たちの可愛らしい鳴き声が私に少なからず癒しを与えてくれていたわけだ。
たまーに向こう側の木々の隙間から可愛らしい狐と猫が合体したような動物などがこっちを見つめて来る。これだけが、私の唯一の癒しなのだ。
あの、耳がピクピクってなるのがもう可愛くて可愛くて、
誰に話してるんだろう、私。自分で自分が悲しくなってくる。
何も起きないどころか、何日経とうともほとんど動きもしないその景色。『感覚共有』で範囲限界まで森を見て回ったわけだが、どこもかしこも木、木、木!!時々動物、と言った感じで何も変わることが無い退屈な時間を過ごしていた。
空を見上げても変わらず青い空が広がっているだけ。
前世はあまり好きなところは無かったが、それでも空だけは綺麗で大好きだった。空を見てるといろんな妄想が膨らむからだ。
どうしてこの世界に転生して、木になったのか?そんなことはもう既にどうでもよくなっている。
仕事によるストレスからは解放されているのでそこは良いとも思う。
だが、それと同時に新たなストレスが生まれるという皮肉。私はどうあってもストレスからは逃れられないのだとつくづく感じてしまう。
前世では、よくその、のほほんとしたスローライフにニヤッと笑いを浮かべていた。
が、こうして真のスローライフを送ってみて思うこともある。
まじでスローライフ送りたいとか言ってる奴、スローライフ舐めんじゃねーぞ!?
なにが平穏と安寧の異世界ほのぼのライフだ!?
今なら分かる、スローライフなんて夢見る方が馬鹿なのだ。
私は、騙されないぞ!スローライフなんて、恐ろしい事この上ない!平穏も安寧も、行き過ぎれば一周回って自分を苦しめる凶器になりかねない。
元人間だからというのもあるのだろうが、こうして思うのが人は刺激が無ければ生きていけないのだ。何か刺激があって、何か収穫があって、そうやって生きるのが人間だから、人間より遥かな時を生きる植物は、特に樹木になんて転生しようものならきっとその何も出来ない状態に気が狂ってしまうだろう。
そう、例えば今の私の様に。
最近じゃ陽の光を浴び続けているせいで、光の質なんかが分かり始めている。ちなみに今日の光は今までで浴びた光の中でもかなり良い方だ。私の幾本もの枝に数えられても良いほどだ。
私の枝の本数?うるさい!そこは聞かないお約束だろー!?
……
嘘です、ごめんなさい。光の質なんて分かるはずないじゃないですか。逆にそんなのあるの?ていうか仮にそういったものが分かったところで結局全部陽光は浴びるから関係ないし。
そろそろ誰かと話したい。せめてスキルを教えてくれたりするこの文字が、喋ってくれたり、AIみたいに話してくれれば良かったのに。どうやらそれは出来ないみたいだし。本当に退屈すぎて死にそうである。ま、死ねないんだけどね!
というか、大体なんで私は木に転生したんだろうか?
そんな事を考える、今日この頃だった。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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