26 ようやく獲得
うあー……暇すぎて死ぬ、死んでしまう!!
何も出来ない。
もうここにいてどのくらい経っただろうか?
分からない。
なんなら最近自分が誰なのかも分からなくなってきた。
いや、嘘です。
自分が誰かは流石に分かる。
今までの記憶もしっかりある。
逆に言えばそれ以外は何もない。
文字通りの無一文。
というか命も無いかもしれなくて笑える。
……って、笑えるかー!!
本当に笑い事じゃない。
危ないどころの話じゃない。
危険とかのレベルじゃない。
これは元人間に耐えられる環境じゃない。
まあ、きっと一度木に転生してるから魂の寿命的には全然大丈夫なのかもしれない。
それでもさ、やっぱり、これは、ねえ?
流石にこれは危ないでしょ?
何もない、真っ暗な空間で、ずっと一人。
今もこうやって一人で脳内会話を続けているわけですよ。
でも、ふと気が付くと私って一体何をしてるんだろうって、そんな事を思ってしまう訳で、最近じゃ自我が薄れてんじゃないかと思って少し怖くなる。
生きてるのか死んでるのか、本当に木に魂は戻っているのかそれとも違うものに定着しているのか。
それ以前に、ここは一体どこなのか?
っだー!!もう、なんか限界だわ!!
ほんとどんだけ時間経つんだよ!?
まあ、最近じゃ何も出来ないから寝て過ごしている。
そのためかは分からないが、時間の感覚が良く分からないことになっている。
果たしてどれだけの時間が経っているのかも分からない。
目が覚めたら光が差し込んで、なんてものを想像するが、そんな事は全くこれっぽっちも起きる気配が無い。
そろそろ本格的に焦ってきている。
最初の頃は結構余裕があった。
多分、いつかは目覚めるだろうし、なるようになるだろう。なんて楽観視していた。
でも、もうそんな余裕ないんですわ!!
何なら今必死でスキル取得に励んでますわ!!
まじでなんであの文字が出てこないのか分からない。
もう少し懇切丁寧にガイドをしてくれても良いと思うのだが、それは私だけ?
だあー!!来い、『魔力感知』!!
『魔力感知』の使い方を必死に思いだしながら使う。
とはいえ、もうあれは始め以外は無意識的に常時発動してたから感覚も何もないんだよねー。
だがしかーし、私は絶対諦めない!!
思い出せ、思い出すんだ、私!!
初めての感覚を、あの、私の初めての日を!!
……初めて初めてって、なんか虚しくなるな。
って、ちがーう!!
そういことじゃ、ありません。
『魔力感知』の、スキルの話ですぅー!
……うーん?
そう言えば、あのうるさい情報テロップさん(文字ガイド)が魔素濃度がなんたらかんたらって言ってたような……?
魔素濃度?
つまりは魔素。
そして、魔素と言えば、何だろうか?
そこで深く考えながらラノベでよくある設定を思い出す。
人間の魔力について考える際、血液の循環を参考にしているのが結構多かったのを思い出す。
つまり、ここで必要なのは想像。
そして、その想像の主題は血液。
それを魔力に見立て、必死に知覚できるように努める。
……血液の循環。それを必死にイメージする。体はもうないし、感覚もない。それでもイメージなら出来ないこともない。
……イメージしたら、それを魔力に置き換える。そして、それに慣れていく。魔力の素、魔素はあらゆる生命の源。
ゆえに魔力を知覚できるなら魔素を知覚することも出来る筈。
私はそれにかける。
……そして、またどれほどの時間が掛かったのか分からないが、
でき、た?
でも、確かにこの感覚は馴染がある気がする。
それはあの日、ごっそりと、根こそぎ持っていかれた魔力と同じもので、
私はその感覚を応用し、有効範囲を自分から外、つまりは私の周囲に指定する。
そして、そこに自分の魔力を薄く伸ばしていく。
ふぬぬ!?ふぐっ、ぬー!!
ふっ!!
そこでいきんで、そして次の瞬間、
あ、やばい、思ったより多く魔力を伸ばしちゃった!?
あれ?なんか制御が効かない、というか、
魔力が、多くなってる?
あれ?
でも、私あの時魔力は全て使ったはずで……
《スキル『魔力感知』を獲得しました》
どうやらようやくスキルが手に入ったらしい。
おっせーわ!!もっと早く獲得させろって!!
そんなことを考えていると、私の頭の中に驚きの光景が映し出されるのだった。
それは、以前見ていた森と同じ……いや、それ以上に命で溢れていて、
その森の色も、鮮やかな緑が増えている。
全体的に魔素の量も更に多くなってるし、
え?
は?
……ここって、森だよね?私が前までいた、森、ですよね?
随分と印象が違うなーって、思うのは私だけかな?
そこには再生させようとした頃とは大違いな、まさに精霊たちの森!という光景が広がっている。
私が守りたかった森が、私が守った森が、今ではこうして以前よりも成長しているところを見るとなんだか感慨深くなってくる。
伸ばした魔力に結構な数の反応があって、恐らくはたくさんの樹霊が生まれているのだろう。
それほどまでに豊かになった森。
ん?
樹霊?
大量発生?
確か、樹霊って発生するまでに数百年くらい掛かるって……
い、一体私はどれくらいあの空間にいたのだろうか?
こ、こここ、怖すぎる!!
だって、つまり、わわわ、私は……
一気に顔が青ざめる。
いや、まあ、顔無いんだけどさ、
でも、やっぱり、恐らくだけど、って恐らくじゃなくて確実か。
そうだわ。うん、そうだよね。そうですよね!?
やっぱり、私、
そこで、私が自分の状態を口にしようとしたその時。
あの日と同じ、デジャブが私を襲う。
ただ、いくつか違う部分もあって、そこでその精霊の最初の違いというのが、この先の発言だ。
「……お、そい。遅い。遅いよ、一体、どれだけ、テティの事を……」
やっぱり、その精霊は私の知っている、この世界で、
いや、もうどの世界でも一番大切な存在で。
その安堵と共に涙でくしゃくしゃになった顔を見て、私は心が軽くなる。
「……名前、聞いても良い?」
その精霊は私に念話でそう尋ねて来る。
別に私は特に今までと何かが変わったわけではないだろうに、その精霊は何かを察したらしく、意識があるかも分からないはずの私に対し、それでいて明確な確信をもって訪ねて来るのだった。
「私は、私の名前はルア!!初めて出会った精霊のテティから名前を貰った、今はただのしがない木、ですね!!……って、事で、ただいま、テティ!!」
その帰宅の言葉は、今まで、前世も含めたどんな「ただいま」よりも、温かいもので、
「おかえり、ルア!!」
その笑顔は、何よりも私に癒しと希望を与えてくれるのだった。
テティさん、マジパネェっすわ!!
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
面白い、続きが気になる、などなど色々思われた方はページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えるとありがたいです。
皆さんのその評価が執筆意欲に繋がりますのでどうかよろしくお願いします!