18 死にたくない!!
魔素と魔力。
大体同じものだという認識で大丈夫です。
もう諦めよう。
そう考えていた時期が私にもありました。
「いや、諦めんのもそれはそれで怖いわー!!」
私は必死の形相で迫りくる泥を、心苦しくはあるが『森林操作』のスキルで食い止める。
無抵抗でおよそ30分。こうして抵抗すればまだあと数時間の猶予はありそうだ。
「テティ、ごめん。でも、お願い!私やっぱり死にたくないわ!!」
「うん。ルアがそう言うなら。テティももっとルアとお話してたいし」
なんていい子なの!?
私はこんな子を置いて先に行こうとしてたのね。
テティは今も魔法で泥を浄化していく。
だが、流石は神(世界樹の)の呪い。
精霊ですらほとんどその力は意味を為していない。
いつか泥はここに到達してしまう。
私の体内の魔力は未だ有り余っている。だが、それをスキルに充てても、逆に今度は行使する植物がなくなってしまうのだ。
一度汚染された植物に『森林操作』の能力の一つである『成長』を使ったとしても、何も起こらなかった。つまりは完全に死んでしまっているのだ。
こうなったら最後、どうなってもあれは生き返らない。
この泥はそれほどまでに恐ろしいのだ。
あ、でも何本かの木は生き残ってるよ?
テティの言葉だと私も大丈夫、との事だが、体の半分以上をこの泥に埋めるとか私はそんなことはしたくない。
出来ればこのまま半月持ちこたえたい。
無理だろうけど。
死にたくはない。
でも、どうしようもない。
使える木々も減ってきた。
『成長』を使って、無理やり魔力を流しては大きくしているが、それでも泥に触れれば汚染されて、そのうち使えなくなってしまう。
「でも、やっぱり絶対死にたくない!!」
これは生きるか死ぬかの戦いだ。
妥協は一切許されない。
手を抜けば最後、私は死ぬ。
しかも、こんな泥に汚染されて死ぬのだ。
あの木々の様に、ぼろぼろと朽ち果てていくのだ。
「嫌だ、それだけは、絶対に!!せっかく転生したんだから、外の世界だって見たいって!!」
大声で叫ぶ。口は無いけど。
自分に喝を入れる。
やりたいことを原動力として、絶えず魔力を木々に回していく。
それにしても、我ながら感心するほど魔力がなくならない。
今もずっと湯水のように惜しみなく流しているけど、それでも底が見えない。
これで、もう少し操作できる植物があればいいんだけど、
「他の一帯は全部泥に呑まれたし、あとは私とここら辺の木だけだしね」
必死に魔力を流し、スキルを使い、泥の侵蝕を阻止する。
それでも侵蝕は止まらない。その勢いは和らいだものの、それでも尚じわじわと私に近づいて来る。
本格的にまずいな。
きっと、このままいけば数時間後には私は、木炭に成り代わってそして死んでいるだろう。
打開策?
今必死に考えてるわ!
それでも策は見つからない。
テティの魔法もほとんど効果が無い。
挙句の果てに、この泥が引くまでにあと半月。
数時間で半月分の時間をすっ飛ばすほどの何かを考える?それは無理だ。
ただ硬くて、魔力が多くて、少しの知能があるだけの私が、2時間で半月を省略する。
いや、仮にその方法があるとしよう。
……見つけられなきゃ意味なくない?
策があっても時間が無い。
今は時間が無いし、策もない。おまけに策を探そうにも、根本的に策がこの世界にあるのかすら定かじゃない。探し方すら分からない。
「ルア、テティの魔力もうない。周りの魔素もほとんど泥が吸い取ってるから、もうテティは駄目」
「わかった。じゃあテティは私の上で休んでて!」
ここでテティの離脱。
今までは木々の隙間やら端やらを魔法で食い止めて貰っていたが、それもここまで。
ざっと残り1時間というところだ。
残り1時間。
多分無理だ。
もう私は死ぬしかないのだろう。
「だとしても、諦めるわけにはいかない!!だって、死にたくないから!!」
死にたくない。
それだけの事だが、何よりそれが一番強い思いだ。
しかも、一度死んだからこそ、より死に対して思う事が多い。
死は怖い。
死ぬ瞬間。あの日、地面が崩れた日。下に落ちた日、木に頭を殴られた日。
あの恐怖は忘れがたい。
目が覚めた日、真っ暗な中で何も分からなかったあの日。
あの日の悲壮感、虚脱感は今でも私の心をざわつかせる。
何かが違って、何かが狂って、何かが無かったとしたら、きっと私は今こうして転生していない。
今、こうしてテティと出会ってない。
こうして、生きたいとは思えてない。
だからこそ、私は死にたくない。
まだやりたいことはある。
まだ行ってみたいとこもある。
まだ、私は動いた事すらないのだから。
「ここで、死んだら、美味しいものだって、食べられないんだから!!」
きっと、この世界には私の食べたことのない食べ物がいっぱいあるだろう。
この前テティが食べてた木の実もおいしそうだった。
そう、私はこの世界の事をこれっぽっちも知ってない。
だから、それを知って、いろんなものに触れあって、出会って、見つけて、前世でできなかったことを。心残りを少しでもこっちでひとつずつ、達成していきたい。
「だから、まだ……まだだあー!!」
魔力を更に込めていく。隙間を失くし、密着させ、木々どうしを融合させる。
すきまは無くなり、体積を増やし、横へと広げる。
戦闘にはあまりの情報の多さから使い道のない『森林操作』
でも、防御に関しては、これほどまでに使いやすいものは無い。
「止まれ止まれ止まれ止まれ止まれえー!!」
止まれを連呼して泥を抑える。
それでも、やはり泥は止まる事無く、命を灰に変えていく。
緑色で、命に満ち溢れていた森は見るも無残な灰色へ変わっていき、
そして時間が経った頃。
ついに私の前まで泥が侵食してくる。
「これで、終わり。私は、ここで……」
あー。あっけなかった。
なんてことない、それでいて充実した樹生。
テティがいて楽しかった。
もしかしたら、これは夢なのかもしれない。死にかけてる私の、少し長めの歯切れの悪い夢。
でも、夢でも、案外……悪く、な……
「お待たせいたしました。神樹様。遅ればせながら、私が対処させていただきます」
そんな声が聞こえてきて、閉じていた目を開く。
そこにいたのは……
え?誰?
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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