14 ガイスの警告
ギルドは、その冒険者の一行の帰還で静まり返る。
Aランク冒険者にして、まだ20代前半の若き才人であるガイスのその絶望に染まった顔が、ギルド内に事の深刻さを伝えている。
「おー!ガイス、戻った、か……!?」
「あ、あぁ。ベルクか」
ガイスは、奥から出てきたギルドマスター、ベルクを見て少し安堵の表情を作る。
だが、その表情を見たベルクは驚愕する。
かの才人。近いうちに、自分でも抜かされると思うくらいの強さを誇るこのアルスロー王国最強の冒険者の一人。
そのガイスが、あろうことか今までに見たことが無いほどに目を虚ろにさせて光を失い、覚束ない足取りで歩いているのだ。
そのガイスの後ろからついて来る他の冒険者たちも、まるで屍人のように気力の無い顔でその場にへたり込む。
「な、なにがあったんだ……?」
それは普通の質問。特におかしいところなどない。ただの確認。
だが、ベルクがその言葉を発するとともに、冒険者の一人が頭を抱えて喚きだす。
「い、嫌だ、嫌だあぁー!!まだ、まだ俺はし、し、死にたくない!!」
「まて、落ち着くんだ!一体何があったんだ!?」
狂乱する冒険者の青年をなだめながらベルクはガイスに尋ねる。
他の冒険者と違って虚ろな目をしつつ、それでもしっかりと意識を保っているのはガイスだけだった。
逆に、他の冒険者たちは全員精神的にまいっているのに、ガイスはそうはなっていないところにベルクは感心する。
「が、ガイス。何があったんだ!?」
「……ここじゃ、駄目だ」
ガイスに尋ねると、ガイスは受付の奥の方を見る。
そこはギルドマスターの仕事部屋。
よくガイスとともに語らう場所。
「わ、分かった。そこで話そう」
ガイスの視線に気づき、ベルクはガイスの腕を肩に回して立ち上げると、そのまま受付の奥へと入っていく。
そして、ガイスの足取りはやはり、とてもまともではなかった。
「それで、一体何があったんだ!?」
「……まず、最初だ」
ガイスはとても悔しそうな、それでいて恐怖心をにじませる声音で話始める。
「あ、あの森は、もう近づいては駄目だ」
「どういうことだ?そうだ、木は?あの木は依頼はどうした?」
ベルクは依頼の事を尋ねる。
そのベルクの言葉を聞いたガイスは目を血走らせて怒鳴る。
「木?そんなものに構ってる時間は無い!!あそこは、魔境だ!!最初からおかしいと思っていたんだ!!」
「魔境?どういうことだ?」
「俺たちは怒らせてはいけないものの逆鱗に触れたんだ。わざわざ眠れる獅子を起こしてしまった。
いや、獅子の方がまだ良かったな」
そう言って自嘲気味に笑うガイス。
その様子にベルクは頭に疑問符を浮かべる。
「いいか、ベルク。俺はあの森で見たんだ」
「な、なにを見た?」
「今までで見たどんなものよりも綺麗で、それでいてとても恐怖を感じる。そんな相手だった」
「恐怖?お前が!?」
ベルクはギルドマスターになるまで、よくガイスとパーティを組んでいた。
あの頃はまだ10代だったガイスは、それでも恐怖心なんてものとは無縁の男だと思っていた。
だからこそ、目の前のやつれたその男を見てはベルクはようやく事の重大さに気づく。
「あの、森が。あの森に何かあったのか?」
「……いいか、ベルク。もし、この国があの森の資源を狙っているなら、今すぐそれを止めろ」
「分かった。まずは落ち着け。何があった、何がいたんだ?」
先ほどより少し語気の強まったガイスを宥めて、ベルクは考える。
ガイスがそこまでの事を言う。ということは、ギルド指定のSランク、もしくはそれ以上の“ランク外”の魔物ということもあり得る。
「まさか、だがあの森には魔物はいなかった筈じゃ」
「魔物?そんな物と比べるな。あれは、あれは俺達人間の敵う存在じゃない。格が違う、次元が違う、何もかもが違いすぎるんだ」
魔物でもない。魔物より恐ろしい。
そんなもの、この世には……
そこでベルクは一つの結論にたどり着く。
魔物を従える事の出来る種族。そして、その頂点に立つもの。
それすなわち。
「まさか、魔王、か?」
ベルクはそこで青ざめる。
魔王、それは遥か昔から人間と対立を繰り返してきた魔族や魔物の王の総称。
今現在、魔王が何体いるのかは分かっていないが、その力はたった一人で国を落とせるほどだと聞く。
そんな存在があの森に、そうベルクは考えると、それと同時にガイスが口を開く。
「は、ははっ。魔王か、魔王。確かに、脅威度、強さで言えば変わらないかもしれない」
「なに?魔王じゃないのか?」
「ああ。俺たちが見たもの、それは……精霊だ」
「せ、精霊だと!?」
精霊。それは勇者に魔王と戦う力を授けると言われる、いわば神にも近き存在。
そんなものがあの森に居るというのだ。
そして、ベルクはそこで一つ思い出した。嘗てガイスにも聞かせたことがある昔話だ。
とある魔王が、精霊の逆鱗に触れ、その国諸共消滅したという逸話。
「ま、まさか……精霊が本当に!?」
「ああ。俺も最初は目を疑った。だが、あれは本物だ。しかも、変な魔法まで使って、最後には森まで動かして俺達を弄んだ。何も出来なかった。しかも、笑い声まで聞こえてきたよ。さぞ俺たちは滑稽だっただろうな」
遠い目をしながら語るガイス。
そんなものはおとぎ話だと思っていたベルクも、ガイスのその様子から確信する。
「となれば、あの森は……」
「恐らく、あの精霊は寛容だ。俺達を全員無傷で逃がしてくれたんだ。だから、これからは決して手を出すな。でなければ、この国が亡びるかもしれない」
「……わ、分かった。陛下にも、俺から報告をしに行く。ガイス、お前はもう休め」
「ああ。そうするよ。しばらくは休みにする」
そう言ってギルドを後にするガイスを見送りながら、ベルクは森の事について考える。
もし本当に精霊がいるのなら、もはやあの森にはこれ以上近づけない。
「さて、どうしたものか」
これからの森の事や、森の木の伐採についてもう一度考え直す。
この国が地図から消えないように。ただそれだけを考えて、ベルクは必死にどうするかを考える。
が、その頃ルアは進化中の為、爆睡を決め込んでいるが、そんな呑気なルアの事など知らないベルクは調査書をまとめる。
題は、〈精霊の森〉について。
後でもう一話投稿します!
そこで主人公がようやく進化完了です。
まだ、動けるようになるには遠いですが……。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
面白い、続きが気になる、などなど色々思われた方はページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えるとありがたいです。
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