11 異常な森
ガイスは精霊に向かって行く冒険者たちを止めようとした。
敵は精霊。人間が、ましてや自分たちのような一冒険者などでは勝てるわけが無いのだから。
Sランク冒険者。それこそギルドマスターや、教会の『聖騎士』がパーティを組んで戦ってやっと勝てるような相手だ。そんな相手に対し、まともな武器も持たず、魔法も中級程度しか扱えないような寄せ集めのパーティでは、一気に全滅するのが関の山だ。
いや、全滅で済めばいい。だが、この精霊がもし人間たちに制裁をすればどうなるか?
分からない。そもそも精霊がそんな事をしたという記録は無い。だが、何もしないなんて保証もまた無い。
精霊は人間に友好的であり、魔王を倒すために勇者に加護を与えてくれる。神の代行者であり、人々にとっては信仰の対象でもある。
聖騎士たちの所属教会でも、精霊は信仰の対象だ。今回は人間から仕掛け精霊の不興を買った。なら精霊が暴れようと、教会は自分たちの国を見捨てる可能性がある。
教会は国を見捨て、そして国には王に仕える騎士団約1000人。そしてギルドマスターは一人。
勝てるはずがない。騎士団は人間相手ならエキスパートだろうが、理解の及ぶはずのない神秘の化身を相手にして勝てるほど人間離れはしていない。精々が戦争でかなり優位に立てるくらい。
ギルドマスターでも同じこと。確かに、騎士たちよりはまともだろう。だが、それも届かない。ギルドの本部にいるグランドマスターでどうにか出来るかどうかの相手だろう。
勝てない。まず戦いにならない。今も必死で魔法を組み上げていく魔法使いたち。
長い詠唱を早口で詠唱し、魔力を練って魔法に変える。
だが、ここは精霊の住処。人間如きの魔法など、精霊の一瞥によって蝋燭の日を吹き消すように簡単に消えていく。
大体、最初からおかしいとは思っていたのだ。何故普通の森がここまで濃密な魔素を纏っているのか。森に入った瞬間からこ濃すぎる魔素に少し体が重くなったのを今も感じている。
そう、あそこからしておかしかった。あそこまで濃度の魔素であれば、森の周辺にだって漏れ出していてもおかしくない。
いや、寧ろ漏れていなければおかしかったはずなのだ。
それを始めから見誤っていた。魔法をかけて結界を張っても尚、死なない程度にしか緩和出来ないこの濃度。長時間いれば害をもたらすであろうこの森で、なぜ逆に何もないと思ってしまったのか。
ここまでの濃度。それは魔物であっても住むことは難しいだろう。そして、そんな中でもおかしいくらいに聳え立つ巨木の数々。そして小動物たち。
最初から疑うべきだったのだ。
こんな場所で生きていける生物なんてほとんど存在していないのだから。
魔素を浴びても、なんともなく、寧ろ魔素が多ければ多いほど上限関係なく活性化する存在。
そんなものは悪魔か幻霊か精霊くらいしか存在しない。それに近い魔族やエルフなどでもここまでの魔素に適応するには時間が掛かる。それどころか適応できずに狂死することもあるだろう。
故にここは立ち入るべきではなかったのだ。しかも、入れたのはほんの入り口付近。これ以上進めばさらに濃度が濃くなっている。それは結界が持ちそうにない事からも明らかだ。入り口よりも少し入ったここの方が明らかに濃度が高い。
つまり、最奥部は人間ではどうあっても到達できない、少なくとも自分たちでは到達できない場所なのだ。
神秘の森、精霊の住処。外界とは隔絶されたこの森は、人間などが立ち入っていい場所ではない。
そして、仲間の冒険者たちが精霊に向かって剣や槍、魔法を放って……
「今から面白くなるんだから、あんまりテティの邪魔をしないで?人間は脆いんだから。すぐに死んじゃうよ?」
精霊の言葉と共に、他の仲間たちは一様に地に伏せる。
まるで、不可視の力に押さえつけられているように……。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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