01 転生したら、木!?
「あ、私こりゃ死ぬわ……」
突如、歩いていた山道が大きな音を立てて崩れていく。そして、私の目の前には大きな一本の木が被さってきて、次の瞬間私の頭頂部を勢いよく穿つ。
そこで私の意識は途絶える。
なんとなく急に上りたくなった山で、私はこうして土砂崩れに遭い、31という若さでこの世を去る。
いや、別にこの世界に未練があるわけじゃない。
残業が明ければ残業がやってきて、最終的には休日出勤の泊まり込み。
もはや体も心も限界に近かった。
だからまあ、ここでゆっくり眠るのもありなのかもしれない。
と、そこでふといつも会社前の街路樹を見てた事を思い出す。
そこでは毎日の様に、「木になりたいなー」なんて言っていた。何もせず突っ立てられるその姿を見て、羨ましさすら覚えたほどだ。
でも、まあ、こんな世界にまた生まれ変わるなら、いっそのこと何も考えずに済む木の方がずっと楽そうだ。とは言っても生まれ変われるかは分からないが。
意識はもう既に闇の中へと放り出され、自分という存在が曖昧になる。そこで最後に思ったことと言えば、
「あ、撮り溜めてたアニメ、見忘れてたなぁー」
――――――
あれ?真っ暗で何も見えない?何も聞こえない?匂いは、しない。手足は……動かない?
というか、えっと私は確か山登ってたら……そうだ!確か土砂崩れに巻き込まれて……木に頭を殴られた?それで気が付いたらこんなことに?
これどういう状況?
動けないんですけど?植物人間って話には聞いてたけど、こんな意識が残ってることなんてあるものなの?
ていうかさ、これ生きてるんだよね?大丈夫だよね?まさか死んでたりはしないよね?
まあ、大丈夫か?生きてなければ意識なんてないよね?
でも待って。そう言えば私のおじさんって土砂崩れで生き埋めになって死んだよね?ていうか生き埋めになるだけじゃなくて多分私崖からも落ちたよね?おまけに木に思いきり頭殴られたし。
これで生きてるって何それ?もう最悪とかのレベルじゃなくない?
なんで人一倍苦労して生きてきた私がこんな仕打ちを!?
まあ、せめてさ、半身不随とかさ、そう言うのだったらまだいいよ?でもさ、このまま植物状態で生きていくのってどうよ?
まじで木になりたいなんて考えたから植物にしてやったってか?植物状態だけどそう言う事じゃなくね?せめて撮り溜めてたアニメくらい見せてくれても良くない?
世の中厳しくはあったし、横暴でもあったし、何なら不満ばかりの人生だったけど、それでもサブカルチャーにおいては素晴らしいと思ってる。
それなのに、そんな私の唯一の癒しすら奪うの?酷いとか通り越してもう私精神崩壊しちゃうよ?
発狂しちゃうよ!?まあ、口も動かないんだけどね!
って、そんなこと言ってる場合じゃないから!
何も出来ないじゃん!?え?ここからどうしろと?
いや、まあ、少し眠りたいとかそう言ったことは考えたよ?でもさ、ずっと眠ってろって、それはなくない?
まあ、もうやることも無いからこのままもう少し眠るけど。でもさ、これ一体いつまで続くの?こんな状態が続くならこのまま一生目覚めなくても良いんですけど?
――――――
もう、何もかもどうでもいいですわ。もう早く死にたい。こんな真っ暗な空間で何も出来ずに生きてるなんて……もう私の臓器でもなんでも使って良いからさ、早く殺してくれないかな?
苦しいとか、そんなレベルじゃないんだわ、これ。
もうさ、怖いとかも感じなくなってきてるし。
あーあ。せめて外が見えたりしないのかな?目くらい、見えても良くない?
そんな事を考えている時だった。
《スキル『魔力感知』を使用しますか?》
突如頭の中に出てきたその文字。
え?これなに?どうすんの?マリョクカンチ?響きからしてファンタジーなワールドのスキルとかいうやつだよね?
え?いやいや、ついに私壊れたか?まあでも、こんだけ長い時間こんな場所に居れば壊れるのも無理ないか。
壊れたついでに、ちょっと乗ってみます?
えっと、どうすればいいの?声でないけど?
うーん。心の中で考えればいいのかな?
おっけ、使いますわ、それ。
《スキル『魔力感知』を使用します》
また文字が目の前に出てきてはうるさいくらいの主張をしてくる。
分かった分かった!使えばいいじゃん!なんか、目が無いはずなのに目の奥が痛いあの独特の苦痛を感じるんだけど?
《感知魔素濃度調整中……完了しました》
魔素濃度なんてものまで調整してくれるとは、我が夢ながら親切よのう?
そんな風に少し小馬鹿にしていたが、次の瞬間、私は言葉を失ってしまう。
え?なにこれ?
そこに見えるのはファンタジーなライトノベルやアニメ、ゲームでよく見るような綺麗な森の姿。
周りには少し高めの木々が私を円形に取り囲む様にして生えている。
地面には草や花が生えていて、少し目を凝らすと動物っぽいものも見受けられる。
て、あれ可愛い!狐みたいだけど、でもなんかどこか猫っぽい?
見たことのないような動物たちがいたるところにいる。
というか、夢にしてはリアルだしなぁー?私ってここまで想像力に溢れてたっけ?なんか細部までしっかりと見えるんだけど?
あー、これ以上先は見えないか。でも、薄っすらとなら見えるんだ。なんか本当に目が出来たみたいだわ。
うーん。そんな事よりも、さっきから少し気になっていることがある。
もっと動いていろんなものを見たいのに、ここから一歩も動けない。それどころか首すら動かない。というか首があるのかすら疑わしい。
私今どんな状態なの?
そんな疑問が頭をよぎる。至極当然の疑問だと思う。
まず、これが夢なのかすら、疑わしいのだから。
《スキル『感覚共有』を使用しますか?》
さっきと同じ文字が頭の中に浮かんで来る。
感覚共有、か。多分これは何かの感覚を共有することが可能なスキルだろう。伊達にラノベやアニメを漁ってきたわけではない。31年間。そのおよそ半分以上を趣味につぎ込んできたのだ。こんなスキル、説明がなくともどんな能力かはあらかた察しが付く。
《スキル『感覚共有』を使用します》
そう頭に文字が浮かんだと思ったら視界がガラッと変わる。見えるのは地面、と周りに生える、これは雑草?
そして、目の前には少し神々しく感じる素晴らしい木が……
そこで少し考える。周りを見渡せば、木々がこの木を中心にして生えている。
少し周りの木よりも低く、それでいてそのどれよりも神々しい。恐らくこの木の周りに木が無いのは成長を妨げないようにするためだろう。
だが、問題はそこではない。私は一度『感覚共有』を切って元の視界に戻る。
そして、周りを見渡すと、さっきの木がどこにも見当たらない。
え?いやいや、ちょっと待とうって。噓でしょ?まさか、ねぇ?
私を取り囲む様に少し離れた場所に円形に生えている他の木々。それらは私よりも少し高い。
そして、どこにも見当たらないあの木。
嘘だと言って欲しい。そんな事あるわけない、と。
木になりたいとは言ったけど、まさか本当になるとは思ってなかったから。
私はそこで唖然とする。
どうやら私は、木になってしまったようだ。
これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。
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