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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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第二の英雄の家族(2)

ミレニアとの面会を終えたロイクールは食堂でイザークが来るなり立ち上がって彼に寄っていった。


「ロイクールさん?」


席を立って急に近付いてきたロイクールに、何かあったと感じたイザークは向き合った。

ロイクールは挨拶もそこそこに用件を告げる。


「ちょっとお話があるのですが」

「わかりました。席はどちらですか?食事を受け取ったら伺います」


食堂に来たということは食事をしに来たということだ。

彼と話をしなければという考えに囚われて焦ってしまったが、彼なら普通に座っていても自分を見つけて声をかけてくれたかもしれないと、ロイクールは今さらになって気が付いた。


「すみません……。席はあそこなので……」

「わかりました。すぐに伺います」


ロイクールはイザークの返事を聞くと、飲み物を置いたままにしていた席に戻った。

イザークは食事をするために来たのか、注文したものを色々とトレーに乗せると、ロイクールの向かいの席に腰を下ろした。

その姿は堂々としていて、ロイクールが来た当初引きこもっていた人物とは思えない優雅な姿だ。



食べながらでいいですかと、イザークはわざわざロイクールに許可をとってから、用件を尋ねた。


「ロイクールさんが焦って私に声をかけてくるなんて、珍しいこともあるのですね。どうされましたか?」


ロイクールは、膝に手を置いて姿勢を正し、大きく息を吐いてから切り出した。


「イザーク様、実は先ほどミレニア様がお見えになり、お宅への招待を受けたのです……」


イザークはロイクールの言葉を聞いて食事の手を止めると頭を下げた。


「この間、私が姉に、ロイクールさんが長期休暇を無駄にして働いているって伝えたからですね。てっきり外出に誘うのかと思っていたのに、そう来るとは思いませんでした。しかも前触れもなく訪問するなんて……、すみません」


イザークは久しく二人がゆっくりとした時間を過ごせていないので、ロイクールが長期休暇の間なら、出かけたりする時間が取れるのではないかと気を回して姉に先回りして連絡した。

けれどその気遣いがロイクールの負担になる方向に進んでしまった。

まさかその休みを数日キープして父親に会わせようとするとは思わなかったのだ。

これでは仕事をしていなくてもロイクールのプライベートな休みは減ってしまう。


「いえ、ミレニア様に言われるまで、ご当主に挨拶をと言われていたことを失念していたので、この機会に済ませてしまえればと思っています」


都合の良い時に連絡が欲しいと言われていたのだが、すっかり失念していた。

ただ、今までは都合が良いのは急に空いたところだけということも多かった。

連絡しても返事をもらう頃には、その日を過ぎてしまうのではないかというタイトなスケジュールで動いていたので、訪問できる状況ではなかったのも間違いない。


「その時は私も同席すると約束していましたよね」


イザークが尋ねると、ロイクールはうなずいた。


「はい」

「じゃあ、ロイクールさんは休みを合わせてくれるってことだから、私が姉さんの予定を聞いて休みをとれば問題ないかな」

「いえ、お二人が元々お休みのところに私が合わせればいいと思いますが……」


今回の長期休暇は、今まで取れなかった分が溜まっているのもあるが、新規ギルドの申請が落ち着いてきたから取得できるようになったものである。

だからこれからはギルドのことだけではなく、また前に行っていた契約書作成などの業務に加わったり、以前から魔術師長に依頼されていた魔術師の訓練指導なども受けていく予定で、大半は王宮内での業務に戻る。

なので多少の融通はできるようになるはずなのだ。

ロイクールがそんな風に考えていると、イザークは首を横に振った。


「姉さんはそんなに待ってくれないと思う。たぶん、父に早くロイクールさんを紹介したいんだろうから……」


姉がロイクールを早く紹介したいのは、父親に彼を認めさせたいと思っているからだと言うことをイザークは知っていた。

ロイクールも少なからず姉のことを考えて交流を続けてくれているようだが、常に一歩引いた付き合いを続けていて進展がない。

姉はそこに焦れたのだ。

姉も理解していた。

彼が平民で自分が貴族であり、彼が良識人であるが故に自分に近付いてこないのだということを。

でも姉はそれを理由に諦めたくはなかったのだ。

彼は平民だが、うちには彼に引きこもりの自分を引き戻してくれたという恩がある、

しかも彼自身の能力は高く、記憶管理ギルドという、国が立ち上げを決めた新規ギルドの監査も任されている。

姉はそれを引き合いに出して、彼を自分に相応しい相手として認めてもらおうとしているのだ。

父親が認めてくれたなら、ロイクールも、もう少し自分との将来を真剣考えてくれるのではないかと姉は期待しているに違いない。

ここまでしても結果がダメだったら諦めもつく。

そもそも父親が認めなければ二人が結ばれることは叶わないし、ロイクールが身分差で身を引いてしまっても姉の希望する関係にはなれないのだから、ダメになるのなら早い方が深手を負わなくて済む。

イザークは、少なくとも姉は彼に好意を持っていて、もっと近付きたいと思っていて、ロイクールは姉ほどの熱量はなくとも、姉を悪くは思っていないと見ている。

今の二人は仲の良い友人と恋人との間、そのくらいの距離に見える。

だから姉は身分差という障害を低くするため、外堀を埋めようとしているのだ。

イザーク個人は姉を応援するつもりでいる。

ロイクールなら姉を安心して任せることができるし、自分が義兄と呼ぶのに抵抗もない。

父は能力のあるものを邪険に扱ったりはしないので、彼が平民だという理由だけで姉との交際を認めないとは言わないはずだ。

姉がどのくらい本気なのか伝えて、父を説得できれば、正式な交際への一歩となる。

平民であるロイクールの気持ちが無視されてしまっているところもあるが、ロイクールに他に思い人がいる様子はないので、姉との結婚は交際してから判断してもらえばいいだろう。

もしどうしても合わなければ自分が間に入ればいい。

二人の関係が多少こじれる結果になったとしても、自分はロイクールとは良い友人であり続けられるはずだ。

イザークはまだ決まってもいない先のことまで考えを巡らせるのだった。


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