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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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新たな出会いと課せられた任務(11)

父親を含めた面会という次があるとはいえ、せっかくの縁だ。

他に何かできることはないかと考えて、ミレニアはふと思い立ったように言った。


「そうだわ。あなたは王宮のことに興味があるの?王女様がどんな方か知りたいとか」

「いえ、特には……」

「あら、そうなの?最初に聞かれたから興味があるものとばかり思っていたわ」


ロイクールは話題がなかったため何となく話を振っただけだったが、それを聞いた彼女の方は興味を持っているものと思ったようだ。

しかしロイクールは王宮の情勢のようなものに疎い。

そして騎士と魔術師、そしてその周辺で働いている人以外で、王宮に働く人間に知り合いがいる訳ではない。

だから初めて見た別の職種の人というのがどのような仕事をしているのか興味を持っただけだったのだ。

決して王宮内部や王妃、王女様に興味を持ったわけではなかった。


「いえ、王宮でお勤めされているのにお会いする機会はないものだなと思いまして」

「そうね。私たち、というか王女様は護衛も必要だから騎士と時々会うことはあるけれど、そこに魔術師は同行しないのがほとんどだから無理もないわね。それに王妃様や王女様のいるところって基本的に女性の園だから、男子禁制の場所も多いし」

「王宮にはそのような領域もあるのですね」


ロイクールが彼女の話に相槌を打っていると、彼女はこれを個人的な交流を持つチャンスと見据えて積極的にアプローチをかけた。

今のままでは弟を介してしか交流することができない。

ミレニアは彼個人に少し興味があるが、それを弟に確認するのは違う。

それに弟のことを別の角度から教えてくれる人が欲しい。

もちろんミレニアが頼めばそれに応じてくれそうな魔術師に心当たりはあるが、彼らに頼んで別の要求を出されたり、貴族として別の条件を提示され、取引材料とされるようなことがあっては困る。

その点、彼にそのようなよくは見えないし、そもそも彼は平民だ。

貴族の取引を考える必要はないし、いざとなれば身分差で抑え込むこともできるだろう。


「少しは興味を持てたかしら?それなら文通でもしましょうか。こちらのことを送る代わりに、あなたには、ここでの日常とか……、たまに弟のこととか教えてくれたらいいわ。どうかしら?」

「私はあまりここにおりませんが、それでもよろしければ……」


貴族のご令嬢であるミレニアの申し出を無碍に断ることはできない。

ただロイクールが手紙を書こうにも、寮にほとんどおらず、受け取った手紙をいつ見ることができるか分からない。

よって早々の返事を期待されても困る。

それについてご了解いただけるのならばと申し出ると、ミレニアは問題ないとうなずいた。


「じゃあ、決まりね。手紙は寮に届くように出そうと思うわ。私への手紙は実家に届くようにしてちょうだい。職場だと他の人たちが面倒だから」

「わかりました」


文通の算段が付いた。

これで彼と自分の縁は繋げたはずだ。

ミレニアが目標達成とばかりに立ち上がると、帰るのだと察したイザークも立ち上がり姉に言った。


「姉さん、馬車まで送ります」

「そう?じゃあ、ロイクール、また」

「はい。お気をつけて」


二人が応接室から出ていくのをロイクールは見送ると、ドアを閉めてため息をついた。

そしてさっきまで座っていた椅子に座り直してお茶とお菓子に手を付ける。

相手が貴族というだけでも気を張っていなければならないのに、相手は王宮勤めのご令嬢だった。

彼女との対応において、自分の評判の上下を気にすることはないが、不敬と取られるわけにはいかない。

正直、疲れた。

それがロイクールの感想だ。

しかも一度正式に面会を受ければ関わらなくてもいいかと思っていたのに、文通しようと言われてしまった。

つまり彼女とはこれからも長く付き合っていくことになるということだ。



手元にあるお茶とお菓子を味わいながら頭を整理していたが、よく考えればイザークが戻ってくるまでここにいる必要はない。

落ち着かない応接室で休憩するより、自室に戻って休憩した方が気が休まる。

その考えに思い至ったロイクールは、ここを出ようと片付けを始めることにした。

せっかく並べられたお菓子だが、そのまま捨てるのももったいない。

けれどここで全て食べきるのもどうかと思う。

美しい並びを崩すのは申し訳ないが、これは袋に移して部屋に持ち帰ろう。

そう決めたロイクールは、流しに置かれたお菓子の袋を手にテーブルでお菓子をまとめ、皿や食器を洗って元の位置に戻すと、ロイクールはイザークが戻ってくる前に、片づけを終えて応接室を出たのだった。



「ロイクールって、王妃様とか王女様にあまり興味ないのかしら?平民とはいえ、王宮魔術師トップクラスの実力を持つ、かの大魔術師の弟子なんでしょう?」


イザークにエスコートされて歩くミレニアが尋ねると、彼は少し考えて言った。


「実力に関しては間違いありませんよ。あと、あまり野心はないと思います。もし野心があるなら私やドレン様にもっと寄ってくると思いますが、ドレン様なんてむしろ邪険にされてますし」

「ドレン様って、辺境に行ってたあの?」


ドレンについては有名だ。

騎士団の中の確執に巻き込まれた高位貴族、彼は辺境の地に飛ばされたため夜会などのイベントの不参加が認められているという異色の存在だった。

そして今でも十分に若いのだが、若くして辺境に飛ばされ、夜会にも出ていない地位も名誉もある男性だ。

婚約者を探す女性たちは、彼が中央に戻ったら間違いなく狙うと言われている優良物件なのだ。

女の園でドレンはそのような話題に上がる人物である。

男性は能力の高さ、女性は優良物件と、どちらも悪い話題で名前が出てくることはない。

昔とった杵柄にしがみつく老害に陥れられたドレンだが、若者からすれば、それを排しようとした彼こそ正義なのだ。

イザークは声をひそめて彼女に言った。


「先日、任期満了か何かで戻られたんですよ。ちょうど私が騎士に模擬戦で勝った日に」

「そうだったの……」

「それもあって、今までとは少し騎士と魔術師の関係というか、派閥に変化が出てきているんですよ」

「それで珍しく出迎えに来たわけね」


彼が戻ったということは騎士団が二つに割れるということだ。

どちらにつくか、そしてどちらが勝つかが自分たちの将来を大きく左右する。

魔術師はともかく、騎士たちはピリピリした状況だ。

そのためいつも通り姉が彼らを粗雑に扱った場合、八つ当たりの対象になりかねない。

彼らは基本弱いものを守るかいたぶるかのどちらかしかできないのだ。

彼の話を聞いたミレニアは、今日のイザークができるだけ人に会わないよう配慮していることにようやく理解を示した。


「姉さんは彼が戻ったことを知らないと思いましたから」

「正直、知らなかったわ。そう……、こちらの動き方も変わるかもしれないわね」


これは自分たちだけで決めていい問題ではない。

家の派閥にも大きく関係してくることになる。


「だから姉さん、ロイクールさんだけじゃなくて、私にも手紙をください」

「そういうことなら、わかったわ。お父様とも話してみたほうがよさそうだし、そうしましょう。詳細はここではない方がいいでしょうから、近々あなたが帰ってくると思うと伝えておくわ」


姉は弟の言いたいことを十二分に理解し、帰ったらすぐ父に報告しておくから、様子を見て報告に来るよう言いつけた。


「お願いします。その言葉が偽りにならないよう、近々そちらに顔を出すようにします」

「ええ。そうしてちょうだい。今のあなたの姿を見れば、皆が安心できると思うわ」


彼が引きこもっていたことは皆が知っている。

人が増えてきたため、ミレニアは先ほどの会話をなかったことのように扱った。

派閥に関することは大きな声で話せることではない。

ここは王宮勤めの人たちが集まる寮の中なのだ。

全ては密かに進める必要がある。


「じゃあ、姉さん、くれぐれも気を付けて」

「ええ。あなたもね」


そう言ってイザークは姉を馬車まで送り届け、彼女と別れると、寮の応接室へと戻った。

片付けをしようと思ったイザークだったが、そこはすでに、もぬけの殻で、片付けはロイクールが全て請け負ってくれたのだとすぐに理解できた。

姉に危険がないように配慮した結果、客人であるロイクールに片付けをさせてしまった事を申し訳なく思いながら、イザークは明日にでも謝罪とお礼を伝えようと決めたのだった。

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