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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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新たな出会いと課せられた任務(9)

イザークと何度か予定についてすり合わせをし、ついに彼の姉と改めて面会の時間が設けられた。

ロイクールは少し早い時間に指定された応接室に足を運ぶと、手前の席に座って二人が来るのを待った。

イザークとは少し話をしたが、姉が到着したら、彼女を応接室まで案内するということで、応接室に一緒に来ることはしなかった。

ちなみに姉からすれば案内など不要で、聞けば自分で移動できるし、今までも寮の中をうろついていたのだから問題はないという考えだったようだが、本来ならばそれは危険行為だ。

貴族のご令嬢とその付き人も女性。

入口から食堂、そしてイザークの部屋までは人の目が多いので何も起こってはいないが、本当は騎士たちが力づくで何かをしようと思えば簡単にことを起こせてしまう。

実はイザークだけではなく姉の方も、得意とはしないまでも魔法が使える。

ただし訓練をほとんどしていないので、仮に攻撃魔法などを展開すればイザーク同様暴発させる危険は高い。

そして暴発させれば本人も付き人も巻き込まれる可能性がある。

だから発動しないように気を使っているし、その力を利用されないよう使わないだけなのだ。

だからいざとなれば使える、本人はそう思っているところがあるのだが、実はそんな簡単にはいかない。

それに今は少し寮内が荒れている。

身をもってそのことを知っているイザークは、少し人気の少なくなる応接室に関しては姉をエスコートしなければと待ち構えることにしたのだ。



イザークにエスコートされて、応接室についた彼らをロイクールは立ち上がって迎えた。

女性と男性が二人ならドアは開けておくべきかもしれないが、彼女には侍女らしき付き人と弟がついていたため問題ないと、彼らは中に入りドアを閉めた。

中に入った彼らが正面の席に座ったのを見て、少し遅れてロイクールが着席すると、女性はロイクールに言った。


「改めまして、私、イザークの姉のミレニアと申します。先日は驚かせてしまって申しわけありませんでした。いつもこちらの方々は向こうから話しかけてくるものだから、まさか、あのようなことになるとは思いませんでしたの」


初っ端の挨拶で、姉の口からまさか嫌味が出るとは思わなかった。

イザークは姉を諌めるべく割って入ろうと姉に声をかけた。


「姉さん!」


だがロイクールはそれを受け流して、用件を確認したいと言う。


「それでお話というのは……」


受け流された姉の方は、その対応をなかなかのものだと思いながら、何食わぬ顔で付き添いの女性に指示をして、持っているものをロイクールの前に置かせた。


「まずはこれよ。これは父からあなたに渡すようにと預かったものなの。手紙もついていると思うから、受け取って、後で確認してちょうだい」

「わかりました」


いくつか置かれた箱の一つを指し、ミレニアがそう言ったのでロイクールは事務的に理解したとうなずいた。


「それで、私からはこれ、お菓子なの。前に弟があなたと一緒に食べたと聞いたから、今度は私もその輪に入れてもらおうと思って用意してみたわ!」


もう一つの箱を示した彼女は、その蓋を自ら開けた。

ロイクールがその中を見ると、確かに以前、彼と深夜の訓練場で食べておいしいとロイクールが伝えたことのあるお菓子がたくさん入っていた。

きっとイザークがロイクールと一緒に食べて楽しかったと伝えたのだろう。

それならば、このお菓子を介すことで話題を提供できると彼女は考えたに違いない。


「では、私がお茶をご用意いたします」


面会が向こうから頼まれたものとはいえ、格下のこちらが何もしない訳にはいかない。

確かにミレニアには付き人の女性がいるので、お茶などは彼女に用意させるつもりなのかもしれないが、彼女だって寮の中では勝手が分からず動けないに違いない。

そう思ってロイクールが立ちあがると、それを止めたのはイザークだった。


「いえ、私がやります。ロイクールさんは座っててください。あなたは我々に呼び出されたゲストという立場なんですから」

「ですが……」


ロイクールが言いかけると、イザークが立ちあがる。


「こう見えて、お茶を入れるのは得意なんです。魔法の細かい操作はまだまだですが、おもてなしはできますよ」

「わかりました。では、お言葉に甘えて……」


イザークがここまで言うのだから、彼の顔を立てた方が良いだろう。

ロイクールはその様子を微笑みながら見ているミレニアを見て、不快そうな反応がないことを確かめてから静かに腰を下ろした。



ロイクールが再び座ったタイミングで、ミレニアは言った。


「あ、そうだわ。ロイクールと呼んでいいかしら?私のことはミレニアで構わないわ」

「ではミレニア様と」


ロイクールがそう答えると、ミレニアはお菓子の箱を持って急に立ち上がった。


「ええ、それで。それじゃあ私は、不慣れな弟を手伝ってくるので少し離れますね。といってもそこですけれど」

「はい……」


貴族令嬢にあるまじき行動にロイクールがたじろいていると、彼女はさっとイザークの所に寄っていった。

イザークはお湯を沸かしながら茶器と、お菓子を移し替えるための大皿をすでに棚から出していて、お湯が沸くのを待っている状態だ。


「イザーク、このお皿借りていいかしら?」

「うん、大丈夫。っていうか、こっちは大丈夫だから」


話がしたいからと押し掛けてきたのに、そのロイクールを置き去りにして自分のところへやってきた姉にそれとなく戻るように言うが、彼女はイザークにお小言を言いながら、せっせとお菓子を皿の上に並べている。


「あら、私の方が慣れているもの。毎日、あの王女様の身の回りのお世話をしているんだから任せてちょうだい。お菓子は私がやるわ。お茶はお手並み拝見ね。それにお湯ができるのを待つ間にお菓子を用意する時間はあるでしょう?手際よくやらなきゃ」

「またそういうことを言いますか……」


子供扱いされたイザークは軽く姉を睨むが、姉がそれに動じることはない。

そうしている間にも皿にはお菓子がきれいに並べられ、いつでも出せる状態になっている。


「ほら、早いでしょ?お菓子はお出ししてしまうわね」

「はい、わかりました」


ミレニアは皿に並べたお菓子をイザークに見せると、返事も聞かずその皿を持ってロイクールの所へ戻っていくのだった。

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