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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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新たな出会いと課せられた任務(6)

「ドレン様、魔法は使えないとおっしゃってましたけど、強いんですね」


ロイクールがドレンを褒めると、ドレンは首を傾げた。


「どうだろう?実戦経験がある訳じゃないから何とも言えないかな。でも確実にあいつらを蹴落とす方法なら知ってるよ!」


口調は軽いが言葉の中身が重い。

確かに彼が本気を出したらこんなものでは済まないだろう。

国境の警備は王宮内の業務よりはるかに能力を問われるし、そこに何年もいたのだ。

彼は実戦経験がないというが、それは戦争でという話で、国境にやってきた敵の残党や不法侵入者などを相手にした事はあるはずだ。

だから騎士と言う肩書はあれど弱い者いじめしかできないぬくぬくとした環境で育った騎士など敵ではない。

その上彼には権力という力もあるのだ。

彼がどれだけの力を持っているのか知っているイザークは思わず苦笑いした。

だかそれを口に出せるような席ではない。


「なんかさ、聞いてはいたけど思っていたより酷いね。何とかしなきゃいけないかなぁ」


ドレンがそうつぶやきながら口をとがらせた。


「いえ、追い払っていただいてありがとうございました」


イザークが頭を下げると、彼はすぐにそんな必要はないと彼を制した。


「君たちのためというより、自分の楽しい時間を邪魔された腹いせかな?まぁ、何かあったら声掛けてよ。ロイクールがいない時なら役に立つと思う」


急に自分の名前が出てきたので思わずロイクールは尋ねた。


「なぜ私がいない時なんですか……」

「だって、さっきも様子見てなんかしようとしていたよね?それにロイクールならあいつら拘束とか瞬時にできちゃうでしょう?出番ないじゃん?」

「魔法を使えばそうですが……」


そう答えながら、ロイクールは彼の能力を少し過小評価してしまっていたのではないかと感じていた。

あの時、騎士から目をそらさず、笑顔で対応していたはずだ。

視線が逸れれば相手はそれをひるんだと見るだろうから、攻撃を仕掛けられていないということは、間違いなく視線はそちらにあったのだ。

なのに自分が防御魔法を発動しようとしたことを察していた。

魔法を使えないと言うが、発動していない魔法を使いそうだと察知したということは、それを感じ取れるだけのものを持っているということだろう。


「やっぱり!じゃあ、食堂で騎士をはりつけにしたってのは本当なんだね!見たかったなぁ」


どうやら彼は噂でロイクールが騎士を貼りつけにしてしばらく放置した剣を耳にしたらしい。

確かに寮で見せものになったのだから有名な話ではあるが、いまや寮ではその話は禁句になっている。

彼はそれを楽しそうに見たかったと言うのだ。


「見たかったんですか……」

「だって、そんなことができる魔術師、近くにいなかったからさ。二人は見たんでしょ?」


ずるいな、いいな、自分もみたいなぁというノリで話すドレンは、いつか自分で試してみてほしいとか言い出しかねない。

ロイクールは考えた末、手元にあったスプーンで再現しようと思いついた。



とりあえずロイクールはスプーンに拘束魔法をかけて、近くの壁に寄せてから言った。

魔法をかけられたスプーンの周りには小さな渦ができていて、スプーンからの抵抗はないものの、周囲には微量の風が吹き、それに触れようとすれば当然弾かれるようになっている。

完全な縮小版拘束魔法である。


「まぁ、その魔法を小さくすればこうなりますけど……」

「すごい!」


声をかける前に不自然な風を受けてスプーンの存在に気が付いたドレンはいち早く声を上げた。

それを見ている目は子供のようにキラキラしたものだ。


「さすがですね……。ここまで小さくしてもコントロールできるなんて……」


一方のイザークは拘束されているスプーンを見ながら思わずつぶやく。


「そうなの?魔法って小さい方が魔力とか使わなそうだけど」


魔法は魔力量、当然、多い方がいい。

それは力が強い方がいいというのと同じ理屈で語られやすい。

だが魔法は少し違う。

それを理解できるのは実際に扱っている魔術師だけなので、ドレンの言いたいことは理解できる。

けれどここは自分が説明してロイクールのすごさをアピールすべきだと、イザークはドレンにこの魔法の難しさを語りだした。


「そうですが、この魔法、それなりに物体を拘束する力を掛ける必要があるんで、こんな細いもの、少しでも力加減を間違えたら粉砕されてしまうんです。例えるのは難しいですが、大きい剣で小さい虫を殺さない程度に刺してくれと言われているようなものと言えばご理解いただけますか?だから魔力量が多くても暴力的な使い方になってしまう私にはできないんですよ。きっとスプーンが跡形もなく消えてしまう」


ドレンはそんなイザークの話を興味深そうに聞いていた。

どうやら剣にたとえられたことでイメージが沸いたらしい。

大きな剣で虫を殺さない程度というのを試してみるのもおもしろそうだと考えているのが傍から見ても分かるくらいだ。


「イザーク様、同じことをしたいだけならできると思いますよ。逆に魔力を大量に使いますけど……」

「本当ですか?」

「物体が壊れないよう防御魔法をかけて、その上から拘束するための魔法をかければいいので」


ロイクールが別の方法の原理を説明すると、彼は少し考えてから言った。


「自分の魔法で自分の魔法を相殺するんですね。それは確かに魔力を使いますし、複数の魔法を同時に発動しなければなりませんし、バラバラにかけるのとは違って、同じものにバランスよくかけなければならないので高度ですね」


彼がそう分析していると、ドレンは目を輝かせてイザークを見た。


「もしかしてイザーク、それならできるの?」

「試したことはありませんが……」


でも小さいものは難しいかもしれないし、あまりに大きい魔法では周囲を破壊しかねない。

やったことがないのでここで試すわけにはいかないし、できるようになるには練習が必要だ。

もし見せる必要があるのなら訓練場で練習する時に来てもらうしかない。

イザークがドレンにどう答えるか考えていると、先輩はため息をついた。


「確かにイザークは魔力量も多いし、この間の模擬戦で防御魔法と攻撃魔法を同時に使っていたからできそうな気がする。私にはどちらも無理そうですけど」


やはり自分は魔術師だけれど期待されるような能力はないし、騎士に対抗する手段もない。

おまけにできる事も限られている。

最近は特に、この中にいると自分が小さく見えてしまって、場違いなのではないかとすら思っているのだ。

しかも今、余計な事を言ってしまった。

彼がそう考えていると、予想外の言葉が降ってきた。


「いえ、小さいものを丁寧に扱うのなら先輩の方が上手いと思います。コントロールが安定していますから」


ロイクールがそう言うと彼は驚いて目を見開いた。


「まさか自分がロイクールに褒められるとは思わなかったなぁ。ありがとう」


ロイクールがまさか自分をそのように評価してくれているとは知らなかった。

魔力量が少ない自分には、弱者として生き延びる処世術くらいしかないと思っていたが、魔法において使い方が上手いと言われるとは思わなかったのだ。



「やっぱ魔術師いいなぁ。魔法が使えたら仲間に入れたのに」


ドレンは本当に魔術師というものに憧れているのだろう。

しかしこればかりは権力やお金でどうする事もできない。

三人のやり取りを見て拗ねたように口をとがらせた。

だがイザークからすれば、騎士に絡まれても自分の力で堂々とねじ伏せる、ドレンのような人物こそ憧れだ。


「ドレン様は剣の達人じゃないですか」

「でもそれって鍛えれば誰でもできるようになるからね。固有の能力ってのに憧れてるんだよ」


鍛えても得られない物もある。

戦闘技術は鍛えれば確かに一定程度伸ばせるものだが、センスは違う。

彼はきっと強さだけではなく、何かを察知する能力に長けている。

魔法の使用を察知できるレベルなのだから充分固有の能力だと思うが、それも鍛えればできると言われてしまうかもしれない。

ロイクールが言葉選びに迷っていると、イザークが言った。


「ないものねだりのようになってきましたね」

「確かにそうだね。あ、そろそろ時間だから行くよ」


イザークの言葉にドレンは同意してから立ち上がると、彼は三人に向かって手を振りながら食堂の出口へ向かった。


「はい。ありがとうございました」


別に何かをしたわけでもないが、つい同席していた三人は彼にお礼を告げて見送ったのだった。

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