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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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新たな出会いと課せられた任務(5)

祝勝会の翌日から、ロイクールは頻繁にドレンに声を掛けられるようになった。

それは先輩やイザークがいても関係ない。

むしろ彼は彼らとも交流したいらしく、紹介してくれ、話に混ぜてくれと言わんばかりだ。

彼の話ではやはり、過去のことがあるため、騎士を苦手とする魔術師は多く、近付くとそれとなくかわされてしまうので、ちゃんと会話のできる魔術師と会えたことが嬉しいのだという。

だが今度は魔術師を贔屓するドレンが、周囲の騎士に絡まれるようになった。

間近で見せられたロイクールとイザークの攻撃魔法は怖いので、彼らの近くにいる魔術師には手を出さないが、魔法を使えない騎士であるドレンになら絡んでも問題ないと考える者が騎士には混ざっているらしい。

だが彼は高位貴族だ。

それを知る者は彼に手を出さないが、それを知らず、何年も国境近くに左遷させられたと認識しているだけの者、そしてその情報を鵜呑みにしている者は次から次へと彼に声をかけていく。

だが魔術師と違いドレンはたくましかった。

どんなに絡まれてもロイクールやイザークの元を去ることはしなかったし、絡んでくる騎士は本人が一蹴できる。

言いがかりをつけられても瞬時に返すだけの頭の回転の速さと言葉に負けない精神力、そして暴力に対しても自身の武力で対抗できるだけの力。

おまけに貴族としての高い地位。

彼にはそれだけのものが揃っていた。

その点がやられっぱなしになって引きこもることになったイザークとは違うところだ。

最初はヒヤヒヤしながらその様子を見ていたし、自分たちと一緒にいることで立場を悪く必要はないと何度も説得しようとした二人だったが、ドレンはそんなことは気にしない、まあ見ていてよと言って笑うだけだった。



「騎士のくせに魔術師と仲良しごっこか」


食堂でロイクールや先輩、イザークたちのところにドレンが混ざっていると、隣のテーブルの騎士が声をかけてきた。

正しくはこちらに声をかけたと言うより、聞こえるように嫌みを言ったと言うのが正しいだろう。

絡んでくるのはこうした、彼を自分たちより能力が低いと勘違いしているような頭の悪い騎士なのだ。

ロイクールは似たような光景を旅の途中の飲み屋で何度か見た。

それと同じなら何とかできるかもしれない。

だから何かあれば仲裁に入ろうという覚悟で話を聞いていた。


「なあに?こちらの会話の邪魔をしにきたの?それとも会話に入りたいけど入れないから遠回しに声をかけてみたとか?」


なぜか楽しそうにそういうドレンに、相手はすぐ逆上する。


「そんな訳ねぇだろ!所詮、左遷させられるレベルだろう?そんなヤツにとやかく言われたくねぇな。そっちこそ、こっちの会話を盗み聞きしてんじゃねーよ!」

「ごめんごめん。そのグループの中だけの会話のつもりだったんだね。てっきり喧嘩を売ってきたんだと思ったよ」

「はっ!魔術師としか話のできない雑魚のくせに」


絡んできた騎士は調子に乗ってどんどんを声を荒らげるが、ドレンの方はその声に怯える事もなく冷静だ。


「そんなことはないよ?でも残念ながら、自分より弱いやつに興味ないんだ」


だがなぜかドレンは言葉で騎士を煽った。

ドレンは貴族なのに喧嘩が好きなのかと思ってしまうような言い方だ。

だが怒鳴ったりせず淡々と述べる分、相手の耳にもしっかりとその言葉は届いている。

だから相手はますます逆上した。


「騎士が魔術師より弱いってーのか?」

「弱いでしょ、どう見ても。契約魔法で縛られたり、加減されずに攻撃魔法を放たれたら死ぬのは騎士の方だよね。騎士は模擬戦勝ったくらいで強いとか勘違いしてるけどさ、元々ハンデもらってるんだから、なくしたら負けるってことじゃん。魔術師は相手が死ぬような攻撃魔法を使えない。騎士は、相手を殺せる剣を使っているにも関わらずだ。充分弱い。その自覚もないの?君たちの頭の中身は残念すぎる。可哀想になってきたよ」


淡々と騎士を馬鹿にする発言をして、最後にため息をついた彼だが、視線は騎士から外していない。

明らかに様子を伺っていて、この状況を面白がっているようにロイクールには見えた。

彼が何をしたいのか分からないが、とりあえず逆上した騎士がドレンに手を出そうとする頃だろう。

そう考えたロイクールは念のため周囲に防御魔法を展開する準備をする。


「お前いい加減に……!」


そう言って騎士が立ち上がりドレンに襲いかかろうとした。

ドレンは詩文に向かってくる騎士をじっと見ているだけで動くこともなく、少し口角を上げただけだ。

ロイクールが騎士はこちらに向かってくるタイミングで、防御魔法を使おうとした時、同じテーブルの違う騎士が彼を止めに入った。


「まて!」

「止めろって!」


彼らは言葉の応酬の間は黙って聞いていたがさすがに暴力沙汰はまずいと思ったらしい。

だが、怒りに我を忘れた騎士は、その制止を振り切ろうと暴れる。


「うるせぇ!止めるな!」

「けど……」


騎士同士でごちゃごちゃやっている間に、ドレンは立ち上がって剣に手をかけていた。


「あのさー。君たち、僕に勝てると思ってるの?」


頬笑みを浮かべながら、そう彼らの方に近寄っていく彼の殺気は尋常ではない。

攻撃されていない魔術師は息を飲み、ロイクールも思わずその圧に感心してしまったくらいだ。

これなら自分が防御魔法を発動する必要はないだろうと手を出すのを止めて状況を大人しく観察する。

その圧をまともに受け、取り押さえている方の騎士は及び腰だ。


「いえ、それは……なぁ」

「あの、本当に悪気はなくて……」

「おい!」


けれど我を忘れている騎士だけは彼の方を見ておらず、味方であるはずの二人が自分を押さえていることに腹を立てて暴れている。


「それ、大人しくさせた方が君たち楽だよね?」


その様子を見たドレンは笑みを崩すことなく彼らに近付いてそう言うと、彼を素手で殴って一発で昏倒させた。

その動きは素早く、正に一瞬だった。


「気絶させたから、これなら運べるよね?」


正直彼は怖い、そこにいる誰もがそう感じたはずだ。

気絶した彼を支えた騎士たちも、さすがに笑顔で殴って相手を一発で気絶させ、それでもやはり笑顔でそう聞かれたら否定することはできない。

彼らは何度もうなずくと、彼を動かしやすいように抱え直した。


「じゃあすみませんでした!」


最後にそう言い残して彼を抱えてそのテーブルの騎士たちは食堂から立ち去っていった。


「本当に邪魔だよねぇ。困ったもんだなー」


彼らの背を見送り、出て言ったのを確認したドレンは、そうつぶやくと何もなかったかのようにロイクールたちの所に戻ってきたのだった。

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