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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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模擬戦とトラウマ(5)

そんな会話が続く中、魔術師長は思い出したように言った。


「そうだ、ここはしばらく毎日このくらいの時間は使用できるようにしておいた。この時間にしか出て来られないのだろう?」


最後は自分が来ただけで防御魔法の力が増したくらいだからなと、魔術師長は自嘲的に笑う。

確かに彼は人が来たと分かると防御魔法を強化した。

魔術師長は離れた場所にいながら、そんな彼の変化を見落とす事はなかったということだ。

伊達にこの国の最高峰である王宮魔術師のトップをしているわけではないなと、魔術師長をまじまじと見た。

そして質問に答えていないことに気が付いて、ロイクールは慌ててその問いに答える。


「人に会うことなく部屋を行き来するのは、廊下や食堂から人が減っていなければ難しいです。廊下に人がいるかどうかは私が確認してから彼に出てくるよう指示しています。さっきは念を入れて静かに非常口を利用して出てきました。そのため、人に会うリスクを減らすことができたのです」


ロイクールがそう言うと魔術師長はあごを手で撫でながら言った。


「そうか。だが非常口は出るのは容易だが、そこから入るのは制限がかかっている。そこから戻ることはできない。……いや、戻れるのだが、突破しても侵入者が発生したと警報が鳴るのでな。それこそ大騒ぎになって人がたくさん出てくることになる」


帰りは正面の入口から入らないと不審な侵入者として扱われる可能性が高いらしい。

しかも他の場所から中に入ると警報まで鳴るのだという。

ロイクールは今まで自分にその必要がなかったこともあり、特に深く考えなかったが、確かに寮にどこからでも入る事ができてしまうのは不用心だ。

常に見知らぬ街の防犯の緩い宿に宿泊しているくらい、周囲を警戒していなければならない。

それでは仕事から帰っても休まらないだろう。

ロイクールは家周辺が戦場になった経緯もあり、寮に来てからも当たり前のように警戒状態を維持していたが、周囲の人間はそういう生活をした事がないのか、随分と気楽に過ごしているなと思っていた。

しかもロイクールは入寮してからすぐ、騎士たちに絡まれたりしたので、今でも警戒を解く事はしていない。

仕組みは分からないが、寮に防犯上の心配がないと知っての事ならば納得がいく。


「わかりました。教えていただいてよかったです。戻る時は正面から戻るようにします」


ロイクールがそう言うと、魔術師長はうなずいた。

そしてようやく本来の用件を申し出る。


「私は終わるまで見学させてもらうがよいか」

「はい。もちろんです。ですが、彼は見ての通りあの状態ですから、できれば近付かない方がいいと思います」


ロイクールに指摘された魔術師長は渋い表情を浮かべた。

しかし、防御魔法をかけながらこちらの様子を見ている彼に目をやった魔術師長は、彼の様子を見て話しかけるのは諦めるしかないと悟った。


「そうだな。しばらく見守るだけになりそうだ。模擬戦が終わったら話もできよう」

「そうなると思います。では戻ります」


ロイクールは長くなった話をどうにか切り上げると、魔術師長に背を向けて、彼の元に戻るのだった。



一人残されたことが不安だったのか、ロイクールが自分の方に一人で歩いてくるのを見て彼は安堵の表情を浮かべた。

魔術師長がその場から動く様子はないので、何か言われる心配もないと理解したのだろう。

二人の様子を交互に見ながらも、ロイクールに声をかけた。


「魔術師長と長く話していたようですが、何かあったのですか?」


色々と話をしていたため、随分と長い事彼を一人にしてしまったことを申し訳なく思った。

他の魔術師のサポートをしてほしいとか、そんな話は彼のいないところでもできたことなのだ。

あくまで今は彼の攻撃魔法の練習に時間を使わなければならない。

時間は限られているのだ。

けれど魔術師長と話した内容の中に彼に伝えるべき事もあった。

だからそれを彼には伝える。


「すみません。ここを使用する許可を出しているのが魔術師長で、責任者になるのでここで様子を見せてもらいたいということと、これからしばらく毎晩ここを使用できるようにしてくださったということと、先ほど使用した非常口ですが、出る時は問題ないけれど入る時は使用すると警報が鳴ると注意を受けまして……」


非常口の事は別に厳しく注意を受けたわけではない。

ただ、戻るまでに時間のかかった口実に使えると考えたのだ。

彼に関係のない話が長くなって戻りにくかったとは言いにくい。

けれどロイクールがそう言うと、何か思い当たることがあったのか、彼は目を泳がせた。


「その話ですか……」

「どうかされましたか?」


急にどうしたのかとロイクールが尋ねると、彼は苦笑いを浮かべた。


「知っていた訳ではないですが、そのような侵入者対策はされていると思っていました。敷地に入る時はもちろんですが、建物単位でそういった対策は施していると研修で聞いていたので、きっと寮も例外ではないということでしょう」


彼にそう言われて驚いたのはロイクールだ。

自分はそのような説明を受けていなかったため、都合よく考えて利用してしまったが、彼は知っていて利用したということになる。

確かに侵入者対策ならば、出ていく者を追う事はしないのかもしれないが、もし魔術師長が自分に説明しなければどうするつもりだったのかと不思議に思いながら相槌を打つ。


「そうなのですね」

「そういえば、あなたは入寮時期から考えると、全体研修を受けられていないということになるのですね」


彼の話によると、王宮騎士と王宮魔術師は入寮が決まると合同で全体研修を受けるのだという。

その時点では、まだどちらも新人ということで、特にお互い変な意識もなく過ごすことができるそうで、同じ部屋で研修をさせられても、大きなトラブルにならないそうだ。

そして騎士と魔術師のあれこれは、所属先の先輩から後輩へと、代々継承されていき、数ヶ月で新人を含めて今のような確執のある状態に戻るらしい。

その新人たちの合同研修で、基本的に騎士と魔術師は対等な扱いだという話だけではなく、訓練場や寮などの立ち入り可能な範囲、王宮内での生活の事、防犯に関する事、外出に関する事など、王宮内で守るべき基本ルールを説明されるそうだ。

その基本ルールの、防犯に関する内容の中に非常口に関するものがあり、非常時以外は使用しないようにと言われていたという。

けれど非常時に何が起こるのか、非常口を使うとどうなるのかという説明までされたかというと、それは記憶にない。

むしろ、非常口という出入口がある事を失念していたくらいだと彼は言う。


「もし私がその研修を受けていたら、非常時でもないのに非常口を使用するという発想はでなかったかもしれません。ですが先ほど、出るのは問題ないという話でしたので、まだ人の多い行きは引き続き非常口を使い、戻る時だけ警戒しながら、という方向でいかがでしょう」


先ほどの魔術師長の話では、非常口から入るのには制限がかかっていて、親友しようとすると警報が鳴ると言われただけで、出ていくのは問題ないと確認できている。

現に先ほど自分たちが出た時、特に何も起こらなかった。

もし直近で出る方の制限が追加されるような場合は、事情を説明してある魔術師長が自分たちに教えてくれるだろう。


「はい。行きだけでも利用できるならそうしたいと思います」


ロイクールが提案すると彼はすぐに同意した。

記憶を失くして恐怖が薄れているとはいえ、それでもまだ人に会うのを本能的に怖いと感じている。

訓練前に人に会ったら、その日は訓練どころではなくなってしまうだろうと彼自身よく分かっているのだ。

まずは今日の帰り、人に会うことなく部屋まで戻る事ができれば、明日からの訓練も安心して出かけられるようになるはずだ。

今日が勝負だなとロイクールはこの後の事を考えるのだった。

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