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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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模擬戦とトラウマ(3)

「そうですか……。では、壁を破壊しましょう」

「え?」


自分に、人に向けて攻撃魔法を打てないというが、とりあえず威力を見たいロイクールは魔法を何かにぶつけてほしいとお願いした。

本当は自分が受けるのが一番よかったのだが、それが無理なら物の破損具合で彼の攻撃魔法の威力を見るしかない。


「今日は的を用意していないので、どのくらいの破壊力があるのか見るため、壁に魔法を放ってもらいたいと思います。最悪の場合は魔法で修繕すれば問題ないでしょう。ですが、それも気が引けると言いそうですね」

「そうですね、故意に壊すのはちょっと……」


やっぱり壁や観客席を壊すのも抵抗があるらしい。

自分がボロボロにされても相手を傷つけることはできない、物に向けるのも気が引けると言われては、どこにも攻撃魔法を放つ事はできないし練習にならない。

けれどここで無理をさせて新たなトラウマを生む訳にはいかない。

時間はないが慎重に進める必要がある。


「では、発動した魔法を、調整するだけになりますがよろしいですか?」

「はい。その方が安心できます」


何かに向けて打つ必要がないとロイクールが言うと、彼は明らかに表情を和らげた。

しかし本当なら魔法は発動させた時点で魔力の消費が開始されているし、それを維持するのにも魔力を使う。

本当ならは発動させた魔法は放ってしまった方が魔力の消費が抑えられるため、術者としては楽なのだ。

だから強弱させるだけの調整の方が魔力を消費するし、そもそも強すぎるのであれば、それが暴発する恐れもある。

調整ができないから強すぎるという結果が出ているはずなのだが、彼は発動した魔法の調整はできるのかと、ロイクールの中に素朴な疑問が生まれた。


「ちなみに一度発動した魔法の強弱はコントロールできますか?」


ロイクールが確認すると、彼は首を横に振った。


「強弱を細かく調整するのは難しいですが、出したり消したりすることはできます。こんな感じですが……」


彼はそう言うと、水魔法を手の上に発動させた。

そしてそれはすぐ巨大な水球となった。

ここに魔術師として入るために必要なのは魔力を発動して使用することができるのが条件だと聞いていた。

少ない魔力でもきちんと目に見える形で使えていれば採用されるのだと。

ロイクールが試験を受けた時、師匠はくれぐれも加減をするように、言われた事をその通りにこなすだけにするようにと言っていた。

それは彼らが自分より魔力が少ないからで、魔力が多くコントロールもできていると知られてしまうと、王宮内で必要以上に利用されることになるかもしれないと危惧されたからだった。

実際王宮魔術師として所属している先輩たちの魔力量は、自分よりはるかに少ないことも分かってきた。

しかし彼の出している水球を見て、彼がなぜここまで重宝されるのか、理解できた気がした。

王宮に在籍する魔術師を全員知っているわけではないが、彼の魔力、その強さは確かに桁違いだ。

言った通り、これを受けても全力で防げばたぶん怪我ひとつしないで防ぐことは可能だが、ロイクールは少し彼を侮っていたかもしれないと反省した。

もともと家柄もよく、人当たりもよく優秀だ。

これで魔力のコントロールが完璧にできるようになったら、間違いなく王宮魔術師の頂点に立つに相応しい人間になるだろう。

だから魔術師長も目をかけているし、自分の後任として期待しているのだ。

あの引きこもりになってしまった彼に負い目を感じているという魔術師長の言葉に偽りはないのだろうが、引きこもっていても他の魔術師より仕事を多くこなしているし、すでに充分いいように使われているので、もしこのままでも彼を王宮魔術師として引きとめておく価値はある。

だからどちらに転んでも良かったし、引きこもっている状況にあっても特に焦りを見せることもなかったのだ。



ロイクールが考え事をしている間にも水球はどんどん大きくなっていく。

このままどこまで大きくできるのか、これにどのくらいの破壊力があるのか興味はあるが、そろそろ止めた方がいいかもしれない。


「あの、もう大きくしなくていいです。ちなみにその大きさで相手に向かって打てますか?」

「はい。打つことは可能だと思います」


これを正面に向かって打てば訓練場の壁と観覧席は大きく削られるかもしれない。

そしておそらく消すことはできても弱めることはできず、水球は彼の手に余ってしまっている。

もしこれがただ見た目が大きいだけの張りぼてだったら威力はないので、周囲が水浸しになるくらいで済むだろうが、見た感じ水はしっかり詰まっているので、勢いよく飛んでいけば、それなりの破壊力になるのは間違いない。

彼もそれは分かっているのだろう。

だから今向いている正面には打ちたくないと考えているようだ。


「打ち出す向きは変えられますか?」

「やってみないとわからないです」


訓練場は円形競技場のようになっている。

だからどの向きに変えてもどこかの壁と観覧席が犠牲になるだろう。

そんな彼の心配を察したロイクールはすぐにその方向を指示した。


「では、真上に向かって打ってください。高くまで上がって破裂すれば降ってくるのは雨みたいなものでしょう」


想像していなかった方向だったが、それならば訓練場にも人にも被害は出ない。

安心して打ち出せる方向があるのなら、頑張って向きを変えるだけだ。

彼はそう割り切ったのか、前に突き出していた手を水球をすくい上げるように動かすと、手のひらの上に乗せるようにして真上に持ってきた。


「なるほど。確かにそうですね。じゃあ打ちます」


彼はロイクールの返事を待たずに、そう言うと水球を空中に向かって発射した。



水球は勢いよくまっすぐ空に上がっていった。

二人は水球を見上げたが、勢いよく空に打ち上げられた水球は、すでに夜で暗い事もあり、ほどなくして見失った。


「結構な威力があると思います……。とりあえず、一旦屋根の下に避難しましょう」


勢いよく上がっていったが、いつかは落ちてくる。

そしてまっすぐに打ちあがったので間違いなくここに降ってくるはずだ。

それを予見してロイクールがそう言うと彼は首を傾げた。


「避難ですか?」

「あなたの打った水球の水が空から落ちてくるでしょうし、一度に大きな魔力を消費したはずです。だから休憩を兼ねた雨宿りです。こんな夜中にずぶぬれにはなりたくありません」

「確かにそうですね」


そこまで説明されてようやく彼は状況を理解したらしく、一度上空に目をやってから言った。

けれどぼんやりと上を見上げている場合ではない。

水が降ってきたのが見えてきてから避難しても手遅れだ。


「急ぎましょう。屋根の下から見上げた方が安全です」

「はい」


こうして二人は訓練場の中央から離れて屋根の下へと避難したのだった。

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