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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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王宮魔術師と王宮騎士(5)

「君、ロイクールだったか。すごいんだな。びっくりしたぞ!しかもかの大魔術師の弟子だったなんて!案内役は雑用だし、皆がやりたがらないから引き受けたが、すごい人を案内できて光栄だ」


訓練場を出て少し離れたところまで黙って歩いていた案内人の彼は、急に振り返ると後ろを歩いていたロイクールに弾んだ声でそう言った。


「すごいのは師匠であって、僕……私ではないです」

「いやいや、あの騎士団のうざいやつをいとも簡単にふっ飛ばしたじゃないか!」


今まで彼も色々酷い目に合わされてきたのだろう。

ロイクールが彼をやり込めたことがよほど嬉しいらしい。

だが、来て早々、面倒事に巻き込まれたロイクールは冷静に尋ねた。


「騎士団は皆あんな感じですか?」

「そうだな。いい人もいるけどな、どうも無駄に力が強い分、頭が弱いのが多い。あそこは力が全てみたいなやつの集まりなんだ」

「そうですか」


確かに騎士として剣を振って闘うのなら力が全てになるだろう。

戦場において、魔法で自分を守ることができないのなら、力がなければ死ぬだけだ。

だが、この王宮という環境を見る限り、とても力だけで生きていけるようには見えない。

それは大魔術師が貴族のやり取りや王宮内でのことを教えてくれていたからそういう視点で見ていたという部分もあるが、少なくとも、騎士団長は強さだけで生き残ったような人ではないと、ロイクールに感じさせるものがあった。

ロイクールがそんなことを考えている間にも、彼は再び歩き始め、話を続けた。


「何かと魔術師を目の敵にして来て、しょっちゅうあんな感じで絡まれている。しかも魔術師が一人の時を狙ってくるから性質が悪くて困っているのだよ」

「じゃあなぜ、あの場所を案内したんですか?」


わざわざ新人が絡まれるようなところに案内しなければ今回模擬戦をする必要はなかったのではとロイクールが言うと、彼は首を横に振った。


「いや、そうはいかない。模擬戦は意外と頻繁に行われる。だから知らないと困る場所だし、もし騎士に一人の時に急に呼び出されるようなことがあったら、到着が遅いってだけで騎士に色々言われて面倒なことになりと思ったからだ。とはいえ、今回は行っただけで面倒に巻き込まれてしまったわけだが……」


そう言って彼は申し訳なさそうに頭を下げた。

先輩なのに自分が何もできなかったことも悔いているようだ。


「それに普段なら、客席で見ていても、魔術師より騎士の方が強くてすごいですねとか言っておけば彼らはそこまで機嫌を損ねない。あくまで騎士が魔術師より上だって言いたいだけの連中だ」


まさか新人が彼らの喧嘩を買ってしまうとは思わなかったし、一度でも反論してしまって騎士の方の頭に血が上ってしまったら、もう収拾は困難だった。


「いや、でも、君がまさか、あそこで完膚なきまでに騎士を負かしてしまうとは思わなかったな。まだ興奮が収まらん!」


先輩の案内人は再び騎士を負かした様子を思い出したのか、ロイクールに尊敬のまなざしを向けてきた。

ロイクールは彼の話が落ち着いたところで念のため確認する。


「あの、さっきの二人は、騎士団長と魔術師長で合っていますか?」

「ああ、そうか。ちゃんと紹介されていなかったな。その通りだ」

「私はあの魔術師長の部下ってことになりますか?」


ロイクールは王宮の設備のことだけではなく、この組織の内容もよく分かっていない状態だ。

だから呼び名の敬称だけでそう判断するしかなかったが、それは正しかったらしい。


「そうだ。魔術師長が王宮魔術師の長だから。あとで魔術師長の部屋も教えておく。任務で呼び出される時は大抵そこに行かないといけないのでね」

「はい」



そうして次に連れてこられたのは共同の洗濯場だった。


「ここが洗濯場。洗濯は自分でしないといけない決まりだ。だから休日に外出した時にでも洗剤とか買っておいた方がいい。ここはいつでも使える」


そこには井戸があり、大きな桶が置きっぱなしになっている。

どうやら井戸で勝手に水を汲んで桶を使って洗ってくれということらしい。

そして洗剤はないらしく案内人は洗剤を買っておくことを勧めてくれた。

いつでも使えるという言葉は少し引っ掛かるが、おそらく魔術師は騎士が使っている時間を避けて選択しているということなのだろうとロイクールは思った。



「ここは共同の風呂場。寮に入っている人間が使うことはあまりないと思うが、皆で風呂と言っていたらその連中は大抵ここにいる」


洗濯場の近くにある建物は共同浴場だった。

騎士たちは訓練中、魔術師たちも仕事中で誰も使用していないらしく中からは何の音もしない。

彼の言う連中というのはおそらく騎士たちのことだろう。

彼はそれとなく彼らと自分が合わないよう、色々な情報を伝えてくれている。

二人は誰もいない浴場の入口から中に入る。

中に入るとすぐに脱衣所があり、その奥には浴場が広がっていた。

そこにはすでに水がなみなみと注がれていて、近くには温度を調整するために使う窯のようなものがあった。


「ちなみに風呂の水は、さっきの井戸から汲み上げてることが多いな。お察しの通り、その窯に火を入れて温度を調整することができる。温くなったら火を入れるって感じだな。薪は湿気たら火が付きにくくなるから脱衣所に置いてある。ちなみに水気を拭く物とかは部屋から持ってこないと、濡れたまま服を着ることになるからな」

「わかりました」


寮にも簡易的な風呂は付いている。

だから使うことはなさそうだけど、確かに広い浴槽の中で手足を伸ばしたら気持ちがよさそうだ。

それこそ人の言ない時間を狙って使ってみるのもいいかもしれないとロイクールは密かに思った。



そして訓練場、洗濯場、共同浴場と案内されて、次は寮の中だった。


「ここが食堂、仕事が終わったタイミングで来るから、皆食事の時間がバラバラだ。それでも深夜と早朝は閉まってるから、食べられるタイミングができたら食べに来ておいた方がいい。食堂の時間も不規則だから食べそびれる日もあるからな」

「わかりました」


とりあえず食堂は不規則だけど日中は開いているという。

それならば確かに食べられる時に食べておいた方がいいのかもしれない。

あとは部屋に保存食でも置いておけば困ることはないだろう。

人の少ない食堂を見まわしながらロイクールがそんなことを考えていると、彼は言った。


「じゃあ、何を食べようか」

「え、今食べるんですか?」


今は施設を案内されている最中だ。

だが彼は今、このタイミングで食事をするという。


「言っただろう?食べられるタイミングで食べないと食いっぱぐれるって」

「そうですが……」

「まあ、注文の仕方も片付け方も案内のうちってことだ」

「はぁ……わかりました」


注文は街の食堂とほとんど変わらなかった。

一つ違うのは、ここの食堂の食費が無料だということだった。

食事や寮の費用は王宮が負担してくれているとのことで、利用するごとにお金を払う必要はないそうだ。

ただ日替わりらしいが、その日に選べるメニューの数が街の食堂に比べて少ない。

おそらく同じものをたくさん作ってその日のうちに消費、翌日は違うものが出るような仕組みなのだろう。

とりあえず案内をしてくれている先輩と同じ定食を注文したロイクールは、彼の話を聞きながら食事をすることになった。



そうしてどさくさまぎれに食事を済ませた後、彼が最後に案内したのは魔術師長の部屋だった。


「で、魔術師長の部屋はここ。寮の中にあるから一番最後になったけど、部屋からならすぐに向かえるから、朝に行くには便のいい場所にあるんだけど……」


先ほど訓練場にいて騎士団長と話をしていたのだからまだ戻っていないとは思うが、念のためだろう。

彼は急に声を落とし手続きを話し始めた。


「休日にこの辺でうろうろしていると、余計な仕事を頼まれることもあるから、あまり長いは推奨しない。休みの日は部屋から出ないゆっくり休むか、とっとと出かけてしまった方がいい」


どうやら彼はここで休みの日に魔術師長に捕まったことがあるらしい。

休日なのに休むことができなくなるのは、普通に働いている者にとっては辛いかもしれない。

ロイクールは常に大魔術師の側にいて、自分にとってはそれが生活の一部になっていて、仕事とプライベートの区別はなかったが、ここではそうもいかなそうだ。

少なくとも、休みの時に洗剤を買っておけというくらいなのだから、手が空いているから仕事をしていない間に買い物に行こうなどということはできなそうだ。

これが王宮に雇われる、窮屈な生活ということなのだろう。


「わかりました」


そうして最低限、施設の案内を受けたロイクールは彼に部屋まで送り届けられた。

そのままベッドに横になったロイクールは、思っていたより疲れていたのかすぐに眠ってしまい、そのまま朝を迎えたのだった。

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