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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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王宮魔術師と王宮騎士(2)

剣先を向けられた状態で黙っているロイクールが恐怖で動けないと思ったのだろう。

騎士が楽しそうに笑っていると、その後ろから怒鳴り声がした。


「何をしている!」


騒ぎを聞きつけたのか、怒鳴り声の主は二人の間に割って入る。

騎士には見覚えのある人物だったのか、慌てて剣を引いた。


「団長……」

「お前、また魔術師を見下していたのか。魔術師の防御がなければ生身の騎士など戦場ですぐに死ぬぞ。騎士が戦で活躍できたのは大魔術師のおかげだ。彼らだって魔術師として王宮に仕えている。不測の事態が起きた時は運命共同体となるんだ。いつまでも子供じみたことをするのは止めろ!何度言ったらわかるんだ?」

「ですが……」


今回は喧嘩を売られたんだと騎士は先ほどの話をしようとしたが、団長は畳みこむように続けた。


「何でお前はこうも魔術師を目の敵にするんだ」

「役に立たなそうなやつが多いからですよ。そりゃあ大魔術師様は特別です。戦で先陣を切って闘ったし多くの功績を残している。でも他の奴らは何ができるって言うんです?ちょっと魔法が使えるってだけじゃないですか。それを魔法が使えるやつは大魔術師と同じように扱えってのはおかしいですよ。それにコイツ、そこのポンコツと騎士を似たようなものだってほざきやがった!」


ロイクールを案内している魔術師をポンコツと平然と言った騎士の言葉で、団長と呼ばれた男はちらっとその魔術師に目をやった。

だがすぐにその相手を確認すると、魔術師に対しては何も言うことはせず、再び騎士の方に向き直った。


「お前のいい分は分かった」


団長と呼ばれた男は騎士との話を終えると振り返ってロイクールの方を見た。


「で、そこの少年、彼の非礼は私が詫びたいとは思っているのだが、まず確認をしたいことがある。正確に君が彼に何と言ったのか教えてもらえるか?」


団長が謝罪の前にロイクールの話を聞きたいというので、ロイクールは団長から目を逸らすことなくはっきりと答えた。


「ちょっと火の魔法が使えるという彼と比較して、私からすればあなたも戦争を経験した人のようには見えませんから、きっと似たようなものかと思いますと言いました」


ロイクールの言葉に騎士は再び怒りを露わにし、再び剣を向けようとしたがそれを団長が制した。

だが団長の表情も彼ほどではないものの、好意的なものではない。

おそらく彼も喧嘩を売られたものと判断をしたのだろう。


「そりゃあまた、何とも厳しい。そこまで言われてしまったのなら、彼が抑えきれなかった気持ちも分からなくはないな。闘って決着をつければ納得するのだろうが」

「そうでしょうか?」


彼らの発言を聞く限り、魔術師というものを力でねじ伏せ、言うことを聞かせなければ気が済まないと言ったようにしか見えなかったロイクールは、表情を変えることなく冷たく言い放った。

話を聞いて判断するようなことを言っていたが、突っかかってきた挙句剣を向けたことに対して謝罪をする気がないのは間違いない。

表情すら買えないロイクールをやはり気に食わないと思ったのか団長は鼻で笑って言った。


「そもそも君は戦争を知っているのか?」

「私の住んでいたところは戦禍に巻き込まれ、私以外、残った者はいません。今では住んでいた集落すら存在していない」


まだ入団したての若者なのだから、どうせこの騎士同様、戦の経験などないだろうと高をくくっていた団長は予想外の回答に表情をひきつらせた。


「なるほどな。では少年、こいつの喧嘩を買うのか?」


団長が言うと、ロイクールはやはり表情を変えることなく答えた。


「もともと喧嘩をするつもりはありませんが、それが仕事ならば、魔法で相手をするのは構いません。先ほど彼から、魔術師と騎士が模擬戦をすることがあると聞きました。訓練の一環ならばそれは喧嘩ではないと考えます」


このままではきっとずっと 絡まれ続ける。

やりたくないと断れば、それは自分が弱いと認めたとされてしまうに違いない。

この王宮の魔術師たちの立場が弱いのはおそらく彼らに模擬戦で痛い目を見せられ続けているからだ。

この先自分が王宮魔術師としてここに在籍する以上、こんな人間に見下されて生活をしたくはない。

だったら、ここで完膚なきまでに叩きのめすのも一つだ。

現在、案内人の魔術師を覗けば、ここには騎士しか立ち会っていないのだから、騎士が負けた場合、ここでの模擬戦はなかったことにされるかもしれないが、自分が完勝すれば少なくとも彼らが自分に絡んでくることはなくなるはずだ。


「それはなかなか面白い。いいだろう。どうせ試験の時は手を抜けとあの保護者に言われていたのだろう?」

「手を抜けではなく、言われたことを正確にということは言われていました」

「なるほど。彼らしいアドバイスだ」


団長はロイクールの入団試験に立ち会っていた審査員の一人だった。

大魔術師はきっとここの魔術師はレベルが低いから、それに合わせるようにと言ったに違いないと思っていた。

だが、そう言葉にした彼もロイクールの力を読み違えていた。

元の魔術師のレベルが低いのだから、彼はそれより少しレベルが高いくらいの能力しか持っていないだろうと思っていたのだ。

そう、先ほどポンコツと言われた彼が焚火の火起こしならば、せいぜいネズミ一匹を殺傷する火を放つくらいの力しかないと高をくくっていたのだ。

だが、彼のコントロールの良さには一目を置いていた。

ネズミ一匹の殺傷能力の火の塊でも、服が燃えれば騎士は大やけどだ。

だから彼は言葉を選んで言った。


「お互い死なない程度にしろ。模擬戦として認めよう。立ち会いはしてやる。どうだ?」

「はい!お願いします!」

「わかりました」


あまり乗り気ではないが仕方がないとロイクールは了解した。

対して騎士の方は早く痛めつけたいと思っているのか、やる気十分でロイクールの方をにやにやしながら見ている。


「では少年、こちらに降りてくれ。客席を壊してはならん」


団長はロイクールに客席から訓練場に降りるように言った。

そして降りるのを手伝うために手を差し伸べたように見せかけてこっそり耳打ちした。


「少年、くれぐれも殺さない程度にしてくれ。労働力が減るのは困るんだ」

「……」


ロイクールは無言でうなずいた。

そこで団長と呼ばれた男がロイクールの試験を受けていた時に立ち会っていた一人であると気がついた。

その時、試験直前に大魔術師がロイクールに何か指示をしていたのも見ていたのだろう。

それにしても騎士という名前を冠した男を労働力と言ってしまった団長はどうなのだろうか。

ロイクールはそんなことを考えながら、観客席の柵を乗り越えて訓練場に降りていくのだった。

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