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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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大魔術師最後の弟子(7)

それからロイクールは忘却魔法を徹底的に学ぶことになった。

まずは記憶の衝撃があまり強くない動物の記憶を扱うところから始まった。

基本的に全ての生き物には記憶がある。

だがその記憶をしておく容量が少ないのが一部の動物で、人間のように普段思い出さなくても、何かの拍子でその記憶を思い出してしまうような形でストックしている記憶を持っていることは少ないらしい。

実験台にされた動物には申し訳ないが、ロイクールは何度も彼らの記憶を見て、生きるのに必要のなさそうな部分の記憶を切ったりくっつけたりということを繰り返した。



そしてそれが安定してできるようになったら次は人間の記憶に触れる練習になった。

ロイクールにはこれが一番きついものだった。

だからその部分を探し出すために相手の記憶に触れなければならないのだが、人間の記憶は動物に比べて大容量だ。

まずはその記憶の中から相手が抜き出したいといっている記憶を早く探し出さなければならない。

ロイクールからすれば、それを頭の中で処理するだけでも頭がおかしくなりそうだった。

そしてその記憶にたどり着いたら次はその部分を切り取らなければならないのだが、基本的に相手が抜き出すことを希望している記憶は辛く苦しいものが多い。

適切な位置で、相手に違和感を与えないように記憶をつなぎ合わせるには、どうしてもその部分を細かく見なければならないのだ。

しかもロイクールは記憶の糸に意識せずに触れてしまうと頭の中にその記憶が流れ込んでしまい、記憶の糸を切り取ってつなぎ合わせても、その糸を束ねる作業がまた苦痛となった。

これを一人で続けてきた大魔術師はやはり規格外なのではないかとも思ったが、彼はそうではないと笑った。


「最初は同じように苦労したもんだよ。でもな、やっているうちにコツがつかめてくる。糸を束ねるときは相手の記憶を受け入れないように調整できるようになるし、記憶の位置も引き出された記憶の糸が大体このくらいの年齢の部分だと感覚で分かるようになる」


要は経験だと彼は言った。

ロイクールはその感覚を見似るける前に自分の精神が壊れるのではないかと思ったが、自分が無理だと限界を超える直前になると大魔術師が察してその作業を引き継いでくれるため、どうにか自分を保つことができた。

大魔術師を頼りに助けを求めている人の記憶と何度も触れ、忘却魔法にだけ向かい合うようになって数ヶ月。

ようやく一人で一人の記憶の糸を切り取り束ねることができるようになった。

同じ日に二人目というのは無理だったが、その後も成功と失敗を繰り返し、時には切り取りの位置について細かく指摘されながら、様々な記憶を受け入れられるようになっていった。

最初は一人ひとりの感情に寄り添ってしまうこともあったが、やがてそんなことをせずにその人の記憶と向き合うことができるようになったし、冷静に客観的にその記憶を見ることができるようになった。

慣れるとは感情を失くすことなのかと、他人の記憶を無感情で受け入れられるようになってから少し経って気落ちすることもあったが、大魔術師は、気落ちするということはロイクール自身の感情は残っているんだから、それは魔法を使っている時に使い分けができているだけで、自分の感情そのものを失くしたわけではないから心配不要だと笑い飛ばしてくれた。

ロイクールは大魔術師の言葉に救われながら、忘却魔法と相手の記憶と向かい合う精神力を身に着けていったのだった。



こうしてロイクールが記憶を抜き取ることが一人でもできるようになった頃、大魔術師は自分が格納していたカバンについて説明を始めた。


「記憶の糸の管理を私がこのカバンで行っているのは知っているな。これからこの仕組みを説明する。だからこの先、自分の魔法で記憶の糸を管理できるようになりなさい。何も私と同じ方法でなくてもいい。できなければならないのは記憶の糸が自分の管理下から外れないようにすること、抜いた記憶の糸が絡まらないようにすること、そして糸が切れないようにすることだ。ああ、もし糸を逃がすようなことになったら責任持って取り戻すんだぞ」

「わかりました」


ロイクールは大魔術師に再び動物から短い記憶を抜き取るように言われた。

そしてそれを自分で管理できるよう考えるように言われた。

最初はずっと本人のところに帰ろうとする記憶の糸をずっと握っていなければならず、目を離すとふわふわとその記憶の主にいるところに帰ろうとするのでそれを必死に捕まえなければならなかった。

しかしだんだんとカバンの中から抜け出さないような魔法を掛けられるようになり、離れている場所で魔法を発動させていても、その記憶が管理しているところから離れようとすると分かるようになり、それを広く展開すれば大魔術師のように記憶を管理する建物にその魔法や防御魔法などを重ねることで管理できるようになることが分かってきた。

これは今まで大魔術師が教えてくれた魔法の応用でできるものだった。

大魔術師が自分で考えてやりなさいと言ったのは、これから先、自分で考えて魔法を使えるようにするための訓練も兼ねている。

ロイクールもそれを分かっていたので自分で必死に考えた。



そんな時、旅の途中で立ち寄った市場でボビンを見つけた。

この形がしっくりきて、記憶の糸を、魔法を掛けたボビンに巻いて管理するようになった。

ボビンは中央を押さえれば本体が回ってきれいに糸がほぐれるので糸が絡まりにくい。

そして糸が解けてボビンが回り始めたら、逆回転させて糸を引き戻すことができるのも良かった。

手元にある数は多くないが、数が多くなったら手でボビンを巻き戻すのは大変だ。

だから戻ろうとする糸が一定の距離強く引いたら自動で巻けるような魔法を掛けたものを作れないか、それがあればより楽に管理できるようになるだろうと、さらに構想を練った。

だがまずはボビンに掛けられた魔法を維持し、カバンの中から記憶の糸が戻っていかないようきちんと管理できるようになることが先だ。

だがボビンを手に入れてからのロイクールが、記憶の糸を自分の思った通りに管理できるようになるまで早かった。



その後、自分が記憶の糸を大量に管理する記憶管理ギルドの長になるとは、この頃のロイクールは想像すらしていなかった。

ちなみにこの時に考えていた構想は、ギルドの管理室の原型となり、ロイクールの考え出したボビンは、記憶管理ギルド空前のヒット商品となるのだが、それはまだ先の話である。

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