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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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大魔術師最後の弟子(4)

王宮魔術師となってからも、ロイクールは大魔術師について回った。

本当であればロイクールは他の新人と一緒に業務をこなしたり、訓練のようなものを受けたりしなければならないはずなのだが、彼の能力はすでに新人の訓練など必要のないレベルだったし、何より大魔術師自らが彼に引き継ぎと指導をするため連れて歩くと言い張ったのだ。

大魔術師がロイクールにまだ教えるべきことを残していると国王に進言したこと、ロイクールが一人前になるまでは、ロイクールがこなさなければならない王宮魔術師の仕事をサポートするという条件をちらつかせたことで、それが叶ったのだが、当時のロイクールはそんなことは知らなかった。



大魔術師はロイクールに仕事という名目で、自分の行ってきたことを引き継ぐべくやる事を指示するようになった。

一方で、二人の時は初めての旅と同じように、大魔術師はロイクールの師匠として接していた。

そうして生活をしているうちにロイクールは王宮魔術師としても一目置かれるようになった。

大魔術師と一緒に行動しているうちに多くの功績を残すことになったのだ。

そしてそれこそが大魔術師がロイクールを連れ回した目的でもあった。

ロイクールができるもの全てを本人に対応させることで彼を育て、またそれを人々に知らしめることで彼の地位を確固たるものにするのが狙いだ。

こうして足元さえ固めてしまえば、大魔術師の弟子などという肩書がなくても一人で生きていけるようになるはずだ。

それにそうして身に付けた力はいずれ自分がいなくなってから役に立つ。

実践と教育の併用、これが大魔術師にできる最大限の指導だ。



結局ロイクールは大魔術師と旅を続けることができたし、大魔術師はロイクールにさらなる知識と技術を与えることができた。

一つの用件が片付く度に王宮に戻り報告を行うが、その報告の際の大魔術師はなるべく口を挟まず、ロイクールに全てを任せるようにした。

王宮で報告を待つ者たちにも、ロイクールへの引き継ぎをしっかりと教えていると知らしめ、同時に仕事をした本人であると認めさせるためである。

このいちいち王宮に戻って報告をするということ以外、二人の旅の内容は最初の時とあまり変わりなかった。

ただ、ロイクールの能力が上がり、勉強も魔法もレベルの高いものに移行していき、できることが増えたことによって吸収できるものも増えていた。

文字の読み書きや、最低限の魔法の使い方を学んでいた時とは違うので、内容はかなり高度なもので、この世に知られている一般的な魔法はほぼ使えるようになっていた。



そうして過ごしていたある日。

ロイクールが忘却魔法を見るタイミングが訪れた。

戦争が終わり復興も進んでいる中、まだそこに囚われて動けない者も少なからずいる。

ロイクールのように戦争が終わったことを知らずに過ごしている者もそうだが、心に深い傷を負ってしまった者はいつまでも戦争体験に苦しめられることになったのだ。

そしてその傷は時間差で襲ってくることもある。

終戦後、復興のためにと仕事に追われているうちは思い出すこともなく、生活に支障のなかった者が、急にパニックを起こしたり暴れたりするようになったというのだ。

復興が落ち着いてふとした瞬間、その苦しみを訴える声が大きくなった。

大魔術師は苦しみを背負った軍人の声に耳を傾けなければならないと、苦しんでいる人がいると聞けばそこに出かけていく。

今まで心の支えになっていた大魔術師と話をすると安心するのか、それで落ち着く者も多かったが、すでに精神が蝕まれてきている人もいた。

精神が蝕まれてこのままでは生きていけそうにない人、大魔術師がその人を忘却魔法で救わなければならないと判断した現場にロイクールが同行していたのだ。



忘却魔法は特殊な魔法のため、現時点では未分類属性に分類されている。

未分類属性とは、特殊すぎるものや、分類するほど同系にカウントできるものがない魔法全般を指す言葉だ。

さすがに練習で人間の記憶を操作するわけにはいかないのでなかなか見せる機会がなかった魔法だが、今まで大魔術師が多用してきて魔法の一つである。


「ロイクール。この魔法は本来多用するものではないが、この先どうしてもお前に全てを託す際に必要となるものだ。とても神経を使うし、繊細なものを扱うが、今後、この魔法を使えるようになってもらわなければならん」


大魔術師が魔法を使おうとする相手を落ち着かせて状態が安定したのか、睡っているような状態になったところでそう言った。


「それはどういう魔法なのですか?」


ロイクールはそこに眠る人を起こさないよう、大魔術師に小声で尋ねた。


「人の記憶に干渉する魔法だ」

「記憶に?」

「そうだ」


大魔術師はそこまで告げると、彼の中から記憶の糸を引き出し始めるのだった。



ロイクールには人間の頭部から金色の糸が出てきたのが見えた。

それを大魔術師は丁寧に引き出し、引き出された糸を丁寧に手繰り寄せていく。

その時、大魔術師は引き出された糸が絡まることのないよう捌きながら、何かの位置を確認していた。

その時の大魔術師はとても苦々しい表情をしていた。

触れた部分によって、まるで自分が痛みを伴っているように眉をひそめたり、眉間にしわを寄せたり、口の片方の端だけが持ち上がったりと複雑な表情を見せるのだが、その中に嬉しそうな表情は見られない。

しばらくそうして何かを探っていると、場所を決めたのだろう、引き出された糸をつまむとまず一ヶ所切った。

すると大魔術師の手から離れた方の糸はその場で空中を彷徨った状態になった。

大魔術師はその様子を気にすることなく、つまんでいる方の糸を少しずつ巻き取っていく。

それからあるところで纏めるのを止めて、束ねた糸の端を切った。

すると束ねた糸の切断面に向かって二つの糸の先が伸びてきた。

まるで切り取られたにゆっくりと吸い寄せられるような動きである。

大魔術師は切り取った糸を脇に抱えると、その人の頭部から吸い寄せられるように出ている二つの糸の先をくっつけた。

すると糸の先同士は最初反発していたがやがてくっついた。

そうなると切り取った断面は見えず、ただ引き出された一本の糸のようにしか見えない。

大魔術師は糸の繋ぎ目を確認し、しっかりとくっついていることを確認すると糸を静かに体の中に押し戻した。

するとその糸は何事もなかったかのように体の中に吸い込まれて消えていった。

ロイクールはただ、今までに見たことのない不思議な光景をただ黙って見ていることしかできないでいたのだった。

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