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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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大魔術師最後の弟子(1)

両親を弔い、家を後にしたロイクールと、正式な弟子を迎えた大魔術師は、王都に向けて旅をすることになった。

しばらく国境沿いに歩いて王都に続く道に出たら、あとはひたすらその道を行くだけだ。

この旅、基本的には巡回の意味もあるため乗り物での移動はない。

異動が目的ではないことと、乗り物で移動すると異変を見落とす可能性が高いためだ。

ちなみに馬車や魔法で急いで向かえば国境から王都までそんなに時間はかからない。

高度な魔法を使えるならば、空を飛んで数時間で着く。

だから本当に困ったら、近くの街に材料を調達に行って同じところに戻ってきてもいいので大魔術師は必要以上に軽装だったのだが、ロイクールにその力はない。

何より急ぐ旅をしているわけではないのだ。

だから大魔術師はそのことをロイクールに告げることなく、ただひたすらに国境沿いを歩いて進むことにした。



この旅は想像以上に充実したものになった。

自分の住んでいた集落と近くの街しか知らないロイクールにとっては、森も川も山も、そして違う街や村も、全てのものが珍しいらしく、常に目を輝かせていた。

分からないことも多いらしく、その都度質問されるのだが、大魔術師からすればそれは決して嫌なものではなかった。

むしろ一人で黙々と国境に異変がないのかを確認して歩くだけの旅が、彼という同行者を得たことで重質したものになったのだ。

ありがたいことにロイクールは自分が国境の様子を見ている時は仕事をしているときちんと理解してくれているので、そういう時に邪魔をされることはない。

自分も役に立てないかと、自分の仕事のまねをしながら黙って後ろからついてくるのだ。

そうして大魔術師の後を追いかけた少年は、それによって彼の今回の仕事について理解を深めたのだった。



ちなみにこの時からロイクールは彼をなんと呼ぶべきか悩んでいた。

先生、保護者ではあるが、父親や兄ではない。

宿に宿泊する時は便宜上親子とすることもあったが、それ以外では決して彼を父とは呼ばなかった。

ロイクールの父親は、自分が庭に埋葬した父だけなのだ。

そしていつしかロイクールは、かの大魔術師を師匠と呼ぶようになり、彼も否定をしなかったことから、そのままロイクールの中で呼び名は定着していった。

そうして師匠を得たロイクールは学び始めるとめきめきと頭角を現した。



旅の間、ロイクールは大魔術師の弟子として多くのことを学んでいた。

大魔術師は出発の時の約束を守って、色々なことをロイクールに教えたのだ。

学校に通ったこともなく、教わるという経験のないロイクールは、最初彼の言うことを理解できず戸惑っていたが、少しずつ理解を深めるうち、その戸惑いは消えていった。

大魔術師が一つずつに絞って教えるようにしたことで学び方を覚えることができたためだ。



魔法の基本となる、火、土、水、風の属性魔法から始まり、無意識に発動していた、光、闇、属性未分類の魔法へと進む。

草原や森など自然に囲まれていて、魔法の発動に失敗しても問題ない場所での休憩や野営の時は実戦を、街の中にいる時や、宿に宿泊する時は魔法の概念を丁寧に説明した。

ロイの場合は、どの属性でも構わないので、安定して魔法の発動と制御を自分の意思で行えるようになる必要があった。

その属性に対する扱いの得手不得手はあるかもしれないが、一つの属性魔法で一通りのことができるようになれば、残りはその応用で、少なくとも制御はできるようになるはずだと大魔術師は考えたのだ。



ロイクールは、今まで無意識で家全体を覆ってしまうような防御魔法などを発動してしまっていた。

魔法の概念について教えた時、ロイクールにその話をしてみたが、自分では魔法を発動させた覚えはないというし、使い方は全く分からないのでどうやったら発動するのかもわからないという答えが返ってきただけだった。

たとえ無意識だろうが自分が必要としている魔法を、複数同時に、しかも長時間発動させることができるという彼の魔力量は計り知れないと大魔術師は考えている。

人より高度な魔法を使えて、魔力量が多いが、自分ではコントロールできないという状態は大変危険だ。

今回は守るための魔法だったので害はなかったが、これがもし攻撃魔法の暴発につながったら周囲は大惨事に違いない。

その時に自分のようにロイクールの魔法の発動を押さえたり、無効化させたりできるような人間が近くにいればいいが、自分が常に彼の側にいられる保証はないし、彼の魔力量を上回る人材はあまりいないと思っている。

だから基本的には自分でコントロールしてもらうしかないのだ。



大魔術師は他にも、読み書きや計算、階級によって異なる常識やマナーなどもロイに教えた。

彼が魔法の能力を認められて魔術師になったとしても出世していけば読み書き計算はできなければ困る。

そもそも魔術師として仕事をするとは限らないし、読み書き計算ができれば、商人や事務員のような魔法に関係のない仕事を選ぶことができる。

それにこの先、独学で勉強を進めたい時に役に立つものなのだから覚えておいて損はない。

階級ごとのマナーというのもとても複雑なものだが、彼は魔法の能力が高いため、今後貴族に目をつけられる可能性が高い。

変な貴族に目をつけられる前に安全な職場を紹介するつもりではあるが、貴族とは関係のないところで働くことになったとしても、貴族と全く会わないで生きていくということは困難だ。

しかも彼自身は貴族ではない。

特権階級の人間に言いがかりをつけられれば弱い立場にいる。

最低限、下から上への敬い方と、失礼にならない所作くらいは身に付けてさせておきたかった。

ロイクールは大魔術師の期待に応えるため、魔法だけではなく勉強についても、必死に彼の教えを吸収していった。

できた方がいいこと、知っておいた方がいいことについて、大魔術師がその理由を常に説明していたからかもしれないが、覚えがいいのは彼の努力とやる気が大きい。

何よりこの先、できるようになれば自分の将来の選択肢が広がるということをロイクールは理解していた。

こうして旅の合間に、時には旅をしながら、土地のこと、魔法のこと、多くを吸収しながらロイクールはこの数ヶ月を過ごしたのだった。


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