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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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それぞれの在るべき場所(7)

そうして師匠と両親の墓参りを済ませたロイクールは数日ぶりにギルドに戻った。

営業中のギルドに邪魔をしないよう黙って入ると、目ざとく見つけた従業員が声を上げる。


「ロイさん!」

「おかえりなさい!」


人が少なく手の空いている人が仕事を放り出して駆け寄ってきた。


「ありがとう。……ただいま」


ただ戻ってきただけで過剰な出迎えを受けるとは思わなかったロイクールは思わず苦笑いを浮かべる。

その表情を仕事中なのにと注意すべきか悩んでいると捉えた従業員はさもこれからいうことが本題ですと言わんばかりに話し始めた。


「あの、いつもの偉い魔術師さん、ロイさんが数日いなくなるって言って出かけた後に来て、それを伝えたらまた来るって言ってましたが、今日はまだ来てないです」


偉い魔術師でここに訪ねてくる、そしていつものという言葉からここに顔を出していたのはイザークだろう。

いつ戻ると伝えていかなかったから、戻ってきたらすぐに面会したいと思って毎日足を運んでくれているのかもしれない。

自分が数日以内と聞けば訪ねてくる頻度は減るかと思ったけれど、そうでもなかったようだ。

そして今の話だとまだその魔術師はここに来てないということなので、いつも通りならまた訪ねてくるということだろう。

急ぎの予定はないが、本当に来るのならイザークを待ってから外出した方がいいだろう。

すれ違っては申し訳ない。


「わかりました。これから来るかもしれないのですね?」


ロイクールが言うと受付側から声がかかる。


「そうなんですよ。どうしますか?」

「いらしたら来たら話を聞きます。応接室を用意してください」

「はい!」


取り次がないでくれと言われたらどうしようかと思っていたが、そうではないらしい。

それを聞いた受付側はすぐにその情報を共有する。

そしてもう一つ確認があると言いにくそうに口を開いた。


「あの、ロイさん……、戻ってすぐで申し訳ないんですけど、明日から予約の受付を再開してもいいですか?」


ロイクールがいつ戻るかわからなかったため、予約などの受付は停止していた。

国の事情で他国に行ったかと思ったら、理由はわからないけど今度は国内で用事を済ませるといなくなってしまったので、予約の再会を待っている人がいるらしい。

それも大きな負担ではないので、これからでも構わないとロイクールは了承する。


「はい。かまいません」

「わかりました!」


すると今度は販売側の受付から声がかかった。


「ロイさん、ボビンの補充も……」

「書類の決済も……」


一つを引き受ければ仕事が次々と舞い込んでくる。

判断の最終権限がロイクールだし、ボビンも潤沢に在庫を出して言ったとはいえそれがこのギルドのすべてではない。

必要があれば作成依頼や発注をしなければならないが、それはロイクールの仕事だ。

当然ギルドの代表なのだから最終承認の決済をするのも自分になる。

皆戻ってきてくれたことは喜んでいるし、本当は休んでほしいと思っているらしいが、休む前にこの一山をどうにかしてほしいとも思っているのだろう。

休み始めてから個別に言われるより、こうしてまとめて話を持ってきてくれた方がこちらとしてもありがたい。

ロイクールの考えを理解して従業員一同が対応してくれているのがよくわかる。


「問題ありません。皆、私が不在の間、ギルドを支えてくれてありがとうございました」


ロイクールは改めて姿勢を正し、そしてまだ混雑していないギルドで、頭を下げた。


「そんなの、当たり前じゃないですか!」

「普段お世話になってるんだから当然ですよ」

「それに、ここより待遇のいい職場なんて絶対にないんだから、なくなったら困ります」

「そうですよ」


いきなり礼をされたことで皆が動きを止めて目を見開いたが、すぐに各々が思った言葉を口にし、ロイクールに投げかけた。

その言葉の中に合った言葉にロイクールは引っ掛かる。


「なくなったら、困りますか……」


頭を上げて哀愁の漂う表情を浮かべたロイクールに対し、従業員たちは当然だと言わんばかりに元気な返事をする。


「はい!」

「そうですか……」

「ロイさん?」


浮かない表情をしていることに気が付いた一人が覗き込むようにロイクールを見たので、慌てて表情を繕って言った。


「まずは私が貯めてしまった仕事を片付けます。販売品を出してきた後、書類を持って管理室にこもりますので、何がありましたら声をかけてください。改めてよろしくお願いします」


ロイクールがそう締めると、再びギルドは活気を取り戻した。

ロイクールは一度管理室に荷物を置いて、備品の補充を終えると、言葉通り書類を持って管理室に入っていった。

そして管理室の意図の調整を行い、書類作業に取り掛かる。

そうして作業をしながらイザークが訪ねてくるのを待つのだった。



しばらく時間のたったところで、管理室のドアをノックする音がした。

彼らの言う通りイザークが来たのかと思ったロイクールは手を止めるとドアを開ける。

そして出てきたロイクールに、受付の女性が複雑な表情で説明を始めた。


「あの、ロイさんにお客様です。いつもの方ではなくて、前にここで記憶の返却を受けたっていう高齢のお客様なんですけど……」


あの時は似たような人が大勢押しかけてきていてギルドは業務が圧迫していた。

特に受付は休みがろくに取れない忙しさになってしまっていた。

普段なら記憶関係の窓口が混乱するような混雑になることはないので、訪ねてきた相手を見れば、名前は思い出せなくとも、何となく来たことくらいは覚えていることも多いのだが、あの時の人だけは覚えていられるような状態ではなかったし、そんな余裕もなかった。

だから本人はそう言っているけれど本当にそうかはわからない。

ただ対応は紳士だし身なりもしっかりしているから、おそらくそれなりに力のある人の可能性が高い。

用件を確認したけれど、記憶に関することと言われてしまえば、そこから深く尋ねることはできない。

ただの中継ぎのお使い状態でここに呼びに来たのは申し訳ないと受付の女性は言うが、できることはしてくれたようだ。

この対応は自分が引き取るべきもので間違いない。


「わかりました。問題ありませんので、その方を応接室にご案内してください。すぐに伺います」

「お願いします。お客様にもそうお伝えします」


彼女はそう言うと案内のため急ぎ足で受付に戻っていった。

ロイクールは管理室の施錠を済ませると、自分も応接室に向かうのだった。

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