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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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再会、そして動きだす歯車(23)

ミレニアからすぐに確認が入ったためか、翌日の昼には再びミレニアとイザークは頭を合わせることになった。

今回は殿下を含め、三人での面会である。

密談は特にないし、家族の近況報告だと伝えてあるため、室内の応接室に通された。

少し離れた場所に待女たちが控えているが、今回は会話の内容が聞こえるくらいの距離にいる。

貴族なら見慣れた一般的な面会方式だ。


「改めまして、この度はお招きいただきありがとうございました」


先に応接室に通され、椅子に座って待つように言われていたイザークは、二人が来ると立ち上がり礼をする。


「まあ、そう畏まる必要はない。非公式の場だ」


その素早い対応を見た殿下が笑いながらそう言ったため、イザークが下げていた頭を上げる。

けれど態度を改める様子はない。

節度ある距離は保たれたままだ。

あまりイザークに言うのも気が引けた殿下がミレニアの方を見ると、一緒に入ってきた状態で隣にいたミレニアが殿下に言った。


「私もそう思うのだけれど、それは難しいと思うわ。慣れた話し方の方がかえって気楽ということもあるでしょう」


ミレニアの言葉を受けてすぐに返事をしたのはイザークだった。


「ありがとうございます」


とりあえずこれで、通常の目上の人への対応だけをすればすみそうだ。

とりあえず自国の殿下達と話をするのと同じ対応をしておけばこの場をやり過ごすことができる。

イザークが安堵する一方で殿下は複雑な表情だ。

新しい家族として親交を深めようとしているのに謁見のようで仰々しく、殿下はその距離を少し残念なものとしてとらえていた。

以前なら何とも思わなかったのだろうが、殿下としては紹介された家族から距離を置かれてしまったも同然で、これからミレニアと向き合い、家庭を築こうと前向きになった矢先のことだからなおさらだ。

話の輪の中に加えてもらえることに変わりはないが、複雑な心境である。


「そなたはそれでいいのか?」


とりあえずミレニアに確認すると、ミレニアからはそのままの方がイザークにとっては気楽だろうから、好きにさせてほしいという。


「そうですね、私まで距離を置かれるのは複雑だけれど、意識して普通っぽく繕う方がかえって苦労することが多いのもわかるのよ。自然と使い分けているものをさらに無理やり戻そうと切り替えが必要になるものだから」


長年にわたって刷り込まれたものをこちらの希望で捻じ曲げてくれというのは確かに我儘だ。

できないことはないのだろうが、姉弟の再会に水を差して同席している立場であるにもかかわらず、そのような些末なことに気を遣わせるわけにはいかない。

本人たちが気にしないのなら、それでいいと、殿下はとりあえずおさめることにした。


「社交の慣れというのも時には考えものだな」


原因は明らかに社交や外交だ。

独特の貴族文化で身に着けたもので、それを長年実行してきたことがここで仇となっている。

ただ、自分だけではなく他の者にも同じように接するのが当たり前となってしまっているので、イザーク側からすればこのままの方が楽というミレニアの意見は間違いないだろう。

イザークは黙ってそのやり取りを見ているが、小さく首を縦に動かしているところから、そこかしこに同意できる部分があることが見受けられた。


「そのうち、普通に話せるようになるかもしれないわ。それこそ、対面の回数が増えたら、そちらが自然になるかもしれないもの」


ほぼ初対面と言ってもいい相手にいきなり馴れ馴れしくするなど、誰が相手だとしても難しい。

立場のあるミレニアですらそうなのだから、相手が格上ならなおさらだ。

でももしかしたら、この先何度も会って交流を深めることで殿下の願いは叶うかもしれない。

ミレニアがそう言うと、殿下は笑ってうなずく。


「そうか。それがそなたの希望なら、叶えねばなるまいな」

「お願いしますわ」


二人はそんな話を終えると、イザークに向き直った。

そしてミレニアがとりあえず座るよう指示を出し、自分たちは並んで向かい側のソファーに腰を下ろした。

イザークはミレニアは案外殿下とうまくやっているのかもしれないと思いながら、彼らの話を聞いていたのだった。



「それでイザーク、早速なのだけれど、家族の皆が息災ということは問いたわ。それ以外はどうなのかしら?」


このようにミレニアが話を進行させる目的で尋ねてきたので、イザークはその流れに乗って近況を伝えることになった。


「そうですね。本当に特に変わりはないのですよ。でも、そうですね……、年はとりました」

「それは……、そうよね」


ミレニアが会わない間に年を重ねたことが分かった。

毎日対面していると気が付かないが、きっと自分も家族も相応だろう。

幸いなのは、他社から見れば両親含めさほど本人たちに衰えを感じられないところだ。

しかし本人たちはそうれはない。

自分ですら感じるところがあるのだから、両親はもっと顕著に思うところがあるだろう。


「いくら多少魔法の才があるにしても、体力の衰えには逆らえないようで、私としては、間接的にではなく、直接話ができる環境が早く整えばと願います。お越しいただくのが困難だとするなら、こちらから伺うしかありません。ですから両親が移動できるうちにと思うのです」


せっかく殿下が同席しているのだから、せめて希望を伝えよう。

自国は自分たちが希望したところでそれを許可する気がないことは明確だ。

もしこれをかなえるのなら外部から、強い圧力をかけてもらう必要がある。

今回だってこの国から要請されたから、こうしてイザークは来ることができたのだ。


「そうか」


要望を受けた殿下だが、立場上、何度も頻繁に呼びかけるのは難しい。

家族たっての希望であっても今回は向こうの縛りの効いているイザークしか来なかったのだ。

とりあえずここでこちらに害意がないこと、そしてイザークが無事に戻ることで彼らが反旗を翻すことはないのだと、示す必要がある。

それは皆まで言わずともここにいる誰もがわかっていることだ。


「もちろんそうなればこの上なく嬉しいけれど、無理は言えないわ。でも、こうして奇跡的にイザークとの再会が果たせてしまったから、欲が出てしまいそうよ」

「それは私も同じです」


二人からさらに希望を聞かされたが、殿下はその場で答えを出さず保留とした。

こればかりは自分の権限で勝手をするわけにはいかない。

ただ尽力はすると伝えると、二人は満足そうにうなずいた。



そこでミレニアが話の軌道を修正する。


「それで、お父様とお母様は?」

「父は変わらず執務をしてます。時々契約魔法の件で魔術師団に来ることもありますが、基本的に事務仕事を、そして母は変わらず屋敷の女主人をしてますよ。私に嫁どころか婚約者すらいないものだから、苦労を掛けてしまってますね」


最後に自嘲気味な言葉が入ったけれど、ミレニアはそれすらも嬉しそうにしながら聞いていた。

イザークはミレニアが殿下に、自分の家族がこの国に対して害意のないこと、そして自分を含めた家族の人となりを近況から知ってもらいたいと思っているのを知っている。

だからミレニアならば勘付いていそうなことも、殿下にわかるよう言葉にして伝える。

それもまた、ミレニアにとっては別れた家族の人間性が変わっていないことを知るための重要な情報で、本当に変わらないのだと安堵する材料となったのだった。

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