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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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再会、そして動きだす歯車(22)

短い時間だったはずだが、随分と濃密な時間を過ごすことができた。

お茶のお替りすら頼むこともなく、二人とも話し倒した感じだ。

これまで会えなかったのだから積もった分があったとはいえ、さすがに長く話過ぎた。


「わかった。今日は会えてよかったよ。それから、また会える日が来ることを祈っていてほしい」


自分はともかく、ミレニアは疲れてしまっただろうとイザークが仕舞いにすることを申し出ると、ミレニアは微笑みながらそれに答えた。


「もちろんよ。都合のいい事を頼んでいるのは分かっているけれど、私の分もロイクールのことをお願い」

「頼まれなくてもロイクールさんとは話をするよ。姉弟して負担をかけた上に助けてもらったんだから」


ミレニアが離れた土地で努力するのなら、イザークは自国でロイクールの側に寄り添えばいい。

外交的ではない性格のイザークだが、それは自身のなさから生まれたものだったし、苦手だからできないわけではない。

何より今は、ロイクールに引き出してもらった魔法のおかげで地位も上がっている。

政治的側面においては十二分に力を発揮できるだけのものを自分は持っているとイザークは笑った。

そしてそれはミレニアも同じだ。

本人の努力が大きいとはいえ、やはりそれができる状態になったのはロイクールのおかげだと、ここにはいないロイクールを持ち上げる。


「本当ね。ここにきて心を壊さずにいられたのはロイクールが記憶を預かっていてくれたおかげだわ。それに、記憶が戻る前、私に不審がられながらもきちんと現状を確認して、私が受け取っても大丈夫だと判断してから記憶を返してくれたのだもの」

「すごい人ですよね」

「そうなの。ロイクールは私にはもったいないくらいすごい人なのよ」


改めてロイクールについて二人で語ると、彼がいかに偉大なのかわかる。

本人はそんなことを微塵も思っていないようだけれど、伊達に彼の大魔術師最後の弟子という大層な敬称を背負わされているわけではない。

そして彼を愛したことに後悔はないし、自分の目に狂いはなかったのだなと痛感する。

そして自分の手で叶えることはできないけれど、どうか幸せになってほしいミレニアは願う。


「それから、私に、この国の皇太子妃にできることがあるのなら、遠慮なく言ってちょうだい。家のことでも、ロイクールのことでもいいわ。必ず協力を取り付けて見せるから」


これは八つ当たりの意趣返しではないが、もし再会できたのなら、もとより伝えるつもりだった。

家が王族たちとの契約に縛られて動けないことは、自身が同じ立場にいたからよくわかっている。

でもその契約が解除できたら、それを取り付けることができて自由になれて、その時彼らが国を捨てるつもりがあるのなら、この国で家族を受け入れる計らい位できる立場だ。

それはロイクールに対しても同じ気持ちなのだが、実質、自分がロイクールを袖にした形になったので、彼から直接頼んでくることはよほどのことがない限りないだろうとミレニアは理解していた。

だから再会することはないと、あの時最後の別れをしたのだ。

でももしかしたら、イザークのことなら頼ってくれるかもしれない。

その時、間接的にでも力になれるなら、そうしたいとミレニアは言う。


「ありがとう。本当に困ったら頼りにさせてもらうよ」


イザークが頼りにすると答えたことにミレニアは安堵して微笑んだ。


「そうしてちょうだい。さあ、この話は終わりにしましょう。あと、私に気を使っているのなら問題ないわよ。時間はたくさんあるのだし、まだ話足りないくらいだもの。本当にあなたが私を思っているのなら、ぜひ家族の話を聞きたいわ」


イザークはまだ家族と暮らしているらしい。

そこまでは聞いたけれど、その中で起きた些細なエピソードなども是非聞きたい。

彼らにとっては日常かもしれないが、ミレニアには体験できない非日常の話なのだ。


「そうだね。でもそれは殿下がいるところでも構わないよ。変わらず元気にしているし、答えたら良くないことに関しては魔法が働くと思うし」


とりあえず距離を開けてもらっているうちにロイクールの話を済ませたかった。

殿下がロイクールとの関係を認知しているとはいえ、自国の皇太子妃が他の男に懸想していた過去など、この国で聞きたい者はいないだろう。

でも家族の話は違う。

些細な日常のことを聞きたいというのならなおさらだ。

むしろここで普通の話を周囲に聞かせることで、ミレニアの家族というのがどういうものなのか知ってもらうのがいいだろう。

上手くいけば、そこから殿下が、今度は他の家族と引き合わせる算段をつけてくれるかもしれない。


「そう言ってくれたら嬉しいわ。殿下は悪い人ではないのよ。それをイザークにも理解してほしいと思っているわ」


これまで離れて生活していたこともあり、まだ夫である殿下とは、家族とか夫婦特有の親密さはない。

けれどこれからそうなっていく予定なのだ。

そこに弟であるイザークが入ってくれたら、二人が互いを認めてくれたら、それが進展のきっかけになるかもしれない。

人頼みがいいとは言えないけれど、今は発展途上だし、これまでの遅れもあるのだから藁にも縋る思いだ。

いつかは家族全員が、国をまたいで交流ができるくらい親密になってくれたら、ミレニアとしては大きな安心材料になる。


「そうだね。私も受け入れる覚悟をするよ」


そう答えたイザークにできることは、姉をサポートすることだけだ。

ここで一人苦労している間、国に縛られているという理由があったにせよ、自分だって何もしてあげられなかったのだ。

できることと言えば、ここでこの地位を築いた姉の意見を尊重するくらいしか残されていない。

そのためにもまずは殿下の人となりを自分なりに見ておくべきだろう。

時間が許すのなら、殿下を交えて話をしたいとイザークが申し出ると、ミレニアは嬉しそうにうなずいた。

拒絶し遠ざけている状態でいられては、よい関係が作れない。

経緯はどうあれ、自分が受け入れ、自分を受け入れてくれた相手を家族にも快く思ってもらいたい。

これまでなら勘定任せに言葉を紡ぎ続けていただろうが、この数年で立場を得て、貴族社会でもまれてきたに違いない。

ミレニアは、随分と大人になったのだなと、弟の成長をほほえましく思うとともに、イザークの申し出に感謝するのだった。

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