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忘却魔法の管理人  作者: まくのゆうき


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再会、そして動きだす歯車(17)

ロイクールとギルドで再会した数日後。

イザークのもとに、驚きの連絡が入った。

例の国が、ミレニアと家族を会わせたい、ミレニアは形ばかりでも一国の皇太子妃であるため、国から出すのは難しいが、訪問してくれるのなら面会の許可は出せると言ってきたのだ。

それはイザークたち家族の他、王族側にも同じ連絡がなされていたらしい。

そのため家族全員と王族側で、この申し出をどう処理すべきかを話し合うことになった。



そして話し合いの結果、一度代表してイザークだけを送ることになった。

イザークと王族との魔法契約が継続されているため、彼なら亡命の恐れがないと判断されたからだ。

できれば家族全員でというのが希望だけれど、それだと一家で亡命するのではないかと疑いをかけられてしまう。

両親もそれを理解しているからか、足掛かりとしてイザークだけでも一度面会させてほしいと、妥協した。



ロイクールから話は聞いていたけれど、やはり直接会って話がしたい。

元気な姿を見られたらそれだけで安心できる。

それに面会ができるのなら、ロイクールがどうしてあの状態になっているのかも明確になるだろう。

それでロイクールの力になれるのなら、多少の危険は問題ない。

何より自分にはロイクールから教わった防御魔法がある。

少なくとも訪問先での危険は回避できるはずだ。

そうして相手国と連絡を取り、イザークの公式訪問の形が整えられることになるのだった。



他国からの依頼ということで、イザークの移動にも護衛という名目の監視がついた。

彼らの中にはロイクールと行動を共にしていた者もいる。

移動中、彼らに話を聞いてみると、やはり魔法契約のないロイクールの場合、亡命し敵対される可能性が危惧されたため、厳重に監視を言い渡されたが、イザークの場合、王族の不利益になるような立ち回りのできない契約が継続しているため、ロイクールほど仰々しくついて回る予定はないらしい。

ただ面会においては、自分たちより向こうの監視の方が厳しいだろうという。



少なくともロイクールの時は、会話の内容についての配慮はあったものの、視界を一切遮ることのできない庭の真ん中に置かれたテーブルで、離れた位置に配置された侍女や護衛が離れた位置から取り囲むようにしていたという。

自分たちの同行は認められなかったので部屋にいたが、上から見て、非常に恐怖を覚えたということだ。

包囲していたのは、侍女だけではなく騎士も多かった。

やましいことがないとはいえ、そんな敵意むき出しの視線の中であの二人は何事もないように会話をしていたが、一度全体を知ってしまったので、自分があの中に入るのはためらわれるという。


「教えていただいてありがとうございます。参考になります」


事前に知っていれば怖いことはない。

貴重な情報をくれたことに感謝を伝えると、彼は小さく首を横に振る。


「いえ。私にはこの程度しかできません。おそらく今回は、殿下との謁見すら叶わないと思います。お一人で送り出すことになると思いますので」


これまでだったらこんな気遣いをされることはなかっただろう。

イザークはそれを不思議に思ったがあえて口には出さなかった。

けれど彼は、あの国に滞在している間のロイクールを、ミレニアを残して国を去ることになった無念を知っている。

だからこれは、自分たちは付き添いでありながら何もできなかったことに対する罪滅ぼしのようなものだ、国の命令に従っている以上、どう思われても仕方がない、この情報も疑ってもらって結構だと自嘲気味に笑ったのだった。



他国に入り中央入りすると、すぐにイザークは謁見に呼ばれた。

客人として招かれたのは家族のみ、だから今回の場合、殿下との謁見が許されたのはイザークのみだ。


「ミレニアの弟君だな。こちらが訪ねて以来だから随分と久しいな」


彼の来国時、最後はミレニアについての話し合いが行われた場で同席していたこともあり、彼らは初対面ではない。

向こうもそれを意識してかはっきりと久しいという。


「はい。この度は、このような機会を与えていただき感謝いたします」


本当ならこの国との交流などなかったはずだ。

こうして迎え入れられたのは、ロイクールがこの国で信用を得たことが大きいだろう。

イザークはそれを壊さぬよう、丁寧に返答する。

「いや、ロイクールのことといい、こちらこそ配慮が足りなかった部分も大きい。感謝は不要だ。ああ、見張りはつくが会話は聞かぬよう配置している。さっそく家族の時間を過ごしてくれ。すでにミレニアを待たせてある。この時間だけではなく、そなたの滞在中はできるだけ面会の時間を作るようにしよう。それはミレニアと決めてくれて構わぬ」

天気がよいこともあり、移動中に教えられた事前情報の通り、イザークは庭へと案内された。

謁見においてもこちらの国からの同行者の同席は認められず、そのまま移動することになったため、イザークは一人、ミレニアの夫である殿下の後ろをついて歩く形になっている。

もちろん相手が殿下という立場の人間なのでその周囲には護衛が付いた。

前との違いはというと、前回は見知らぬ第三者との面会と告げられていた侍女たちも含め、ロイクールに敵意を見せていたが、今回呼ばれているのが実の弟、いわゆる家族であることが周知されているため、ロイクールの時ほど警戒されていないこと、そして、ロイクールが帰って以降、ミレニアと殿下の関係が良好になったこと、さらに、そこにいるのは知らない人と話をしてもらうことになると言われた不安そうなミレニアではなく、訪ねてきたイザークとの再会を待ちわびているミレニアがいるということだが、イザークにその比較はできない。


そうして庭に着くと、たしかにそこは一面の芝生だった、

花々を楽しむというより、本当に外でお茶を楽しむためにある場所という感じだが、東屋のようなものすらない。

その中央にテーブルと椅子があり、その周囲をそれなりの人が取り囲んでいる。

けれど囲んでいるのが目に見えている者たちだけではないことも察せられた。

おそらく同行者はその外側にも多くの人が配置されているところまでを確認し、恐怖したということだろうとイザークは認識した。



「見ての通りだ。護衛も第三者の目もなくすことはできぬが、何かあった際、対応できる最大の距離を保たせてもらっている。ここから先、私は不要だろう。ああ、用事もここにいる者たちに言いつけてもらって構わない。とりあえずいってやってくれ」


殿下が来たからなのか、来訪者を見極めようとしているのか判断しかねる視線がこちらに注がれた。

監視の数は多いけれど、思ったほど冷たい視線は受けずにすみそうだ。

それとなく察知しながら、イザークはテーブルに向かっているミレニアの方に歩き出す。

一方の殿下はここに残るのは無粋だと仕事のため背を向けたのだった。


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