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再会、そして動きだす歯車(6)

どうにか部屋の前に来てドアを開けようとした直前、偶然にも連れの男性が部屋から出てきた。

そしてロイクールを見て明らかに様子がおかしいと声をかける。


「ロイさん、大丈夫ですか。顔色が」

「すみません。大丈夫です」


確かこの前、偉い人から呼び出されていたはずだ。

それを知っていた彼は、きっとロイクールが顔色を変えるほど良くない話をされたのだろうと心配する。


「何かあったのですね」


断言する彼の言葉を受けて、ごまかす余裕のなかったロイクールは正直にうなずいた。


「そうですね。少し……。ああそうだ、これで私のこの国での用事が終わってしまいました」

「では、国に戻るということですね」


ロイクールの言葉に驚いたものの、今のロイクールから詳細を聞き出そうとするのは無理がある。

けれど自分の今後にもかかわることであるため、確認は必要だ。

早く部屋で休ませた方がよさそうなところを引き留めてしまって申し訳ないと思うが、彼が最低限の情報だけは得たいと考え、引き留めるようにそう聞くと、ロイクールは首を傾げた。


「滞在の許可はおりると思いますが、ここは出ることになると思います」


用事がなくなったからすぐに国から出ていくようにと言われたわけではないらしい。

そもそもロイクールはこの国に指名されて訪問した客人だし、この国が用件を済ませたから即刻退去というのも変な話だ。


「なるほど。国内の滞在許可は出していただけるのですか?」

「おそらくは」


確認内容から察するに、ここにいられないのはロイクール側の事情だろう。

とりあえずロイクールは顔色が優れないし、今確認しなくとも、落ち着いた説明してもらえるはずだ。

ただ、ここを出ることになるのならこちらも心構えが必要だ。

自分の身の振り方も考える必要がある。


「ロイさんはどうされるのですか?」


彼が問うと、ロイクールは力のない目を彼に向け、しかしはっきりと答えた。


「本当はもう少しあなたの情報を手に入れたいと思っているのですが、一応国からの命でここにきていますから、指示があれば私は一度戻らなければなりません。そしたら私に関しては、またあの国から出ることは難しくなると思います」


ミレニアのことも、彼のことも、すべてが中途半端なままだ。

ミレニアの件は結論が出ているものの、自分の気持ちに整理がついていない。

自分はこの奇跡の再会を夢だったのだと封じ、自分が選ばれなかったという事実を消化しなければならないが、まだそこには至っていない。

そしてそれにどのくらいの時間が必要になるか、それもわからない。

幸いなのは目の前の彼のことを考えている間、それを保留できることくらいだろう。


「ロイさんは国の要人ですものね。そうそう国外に出ていい方ではないということでしょう」


ロイクールの一言で保護された自分は、とても大切にされた。

それはロイクールが彼ら話を持って行ったからこその待遇だし、何より、他国から指名がかかるほどの人間だ。

本当なら自分がこんな風に関わっていい相手ですらないかもしれない。

そんな彼がなぜ街中でギルドをしているのかわからないけれど、それもロイクール側の事情か、国策だろう。

傍から見れば間違いなく要人である。

彼がロイクールに言うと、当のロイクールは首を横に振った。


「そうではなく、私の存在は、彼らからすれば単なる脅威なのだと思います。だから目の届くところに置いておこうと、そういうことでしょう」


ため息と苦笑いの混ざった複雑な表情のロイクールを見て、これ以上踏み込むのは良くないと察して、彼は話を変えた。


「すみません、体調のすぐれないところお引止めしてしまって」

「いいえ。問題ありません。あなたとも話をしなければならなかったので、ここで少し話ができてよかったです」


ミレニアの件で呼ばれたロイクールはこの国からすれば用済みだ。

あくまで彼らの依頼がミレニアの記憶の返却だからだ。

そして記憶の戻ったミレニアは、これからもここで暮らしていくことを選択した。

だから一緒に戻る方法などを模索する必要はなくなってしまった。

ロイクールがするべきことは一人、国に戻ることのみだ。

そうして片が付いてしまったこともあり、彼の記憶の調査については中途半端になってしまっている。

もしこのまま彼に声をかけられなかったら、しばらくそれを伝えることすら忘れてしまっていたかもしれない。

だから先に、自分が自分の感情を向き合うべく籠る前に話ができたのは良かったのだ。


「そう言ってもらえると。ではまた。お大事に」


お大事にという言葉が適切かどうかはわからない。

けれど他に言葉が見当たらないため、彼は当たり障りのない労りの言葉をかけるしかできなかった。


「ありがとうございます」


ロイクールはそう言って小さく作り笑いをすると、部屋に入っていった。

彼はロイクールの部屋の閉じられたドアをじっと見たが、自分も部屋に戻ることにした。

もともと気分転換に庭でも散歩しようと思っていたが、そういう気分ではなくなった。

少なくとも、自分がこの先どうするかを決めなければならない。

ロイクールだけではなく、彼にとってもここでの選択は大きな岐路になる。



今の自分は、記憶を不当に奪われた被害者として、国に保護をされている立場だ。

現在、幸いにもロイクールとこの国に同行できたため、客人として扱われている。

当然ロイクールが帰国することになれば、その待遇はなくなる。

本来ならば身の安全を第一に考え、おとなしくロイクールと一緒に国に戻るのが理想だろう。

しかし、ロイクールの協力があったとはいえ、この国で大きな収穫を得られたのは間違いない。

まだ自分の記憶の多くがこの国に眠っていることは容易に想像できるのだから、できる限りそれらを回収したいという欲もある。

それが一人でできるかと言われたら、難しいだろうが、ここで手を引いたら後悔するかもしれない。

これまで記憶を奪われながらもどうにかやってこられたのだから、一人で生きていくことはかなうだろう。

けれどその過程で、せっかく戻った記憶を再び失うリスクがある。

その時、自分は一人になったこの国で、今の気力を失わずにいられるのだろうか。

そんなことを一晩ずっと考え続けて、彼は一つの結論を導き出したのだった。

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