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仮想敵国への訪問と旅人の郷愁(15)

この街は多くの建物が乱立しているが、中心はぽっかりとあいた形になっているらしい。

移動可能な屋台はあるけれど、大きな建物はない。

けれど広場は建物に囲まれていて、見渡せば来た方角以外にも建物が見え、その間に道が伸びている。

まるでこの中心から放物線を描くように建物を建てたかのようだ。


「もし街を歩いていて迷うようなことがあれば、まずここに戻ってくるといいと、子供などにはそう教えています。多くの道がここに通じていますので、どの道からでも到達しやすいのです。人目がありますから、何かあっても助けを求めやすいというのも大きいですね」


確かに広場には屋台も出ていて活気がある。

子供を案内するくらいだから、夜の治安はわからないが、広場周辺は比較的治安がいいということだろう。


「確かに、これだけの人がいて、店が出ていれば、誰かしらが助けてくれそうですし、子供も相手を選んで聞きやすいかもしれません」


ここでもしロイクールが子供の迷子を見つけたら声をかけるかもしれない。

そして、声をかければおそらく、周辺にいる大人の目に留まる。

もしそのあと何かトラブルがあったとしても、ここにいる人たちの証言で解決がかなうことだろう。

そう考えるとその教えは理にかなっているとロイクールが感心したように口にすると、彼は嬉しそうに笑った。


「そうでしょう。それで、ここに来るまでの間に何か気になるところはありましたか?」


必要ならば戻りますし、場所がわかれば馬車も持ってこられますと彼は機嫌よく言うが、まだ戻るには早い。

歩いたところは治安のいいところだけだし、もう少し歩いて意図の動きも探りたい。

広く動くためにはどうするべきか。

考えた末、これまで歩いた道にはなかった商品が見たいと、あえて指定することにした。


「いいえ。ですので、ここまで通らなかった場所を見たいです。そうですね、食品などを扱っているところなどはありますか?例えば市場のような」


ここまでの道は、高級な品を扱う店の通りのようだった。

ロイクールとしてはもっと市井の環境を見ておきたいし、そういうところの方が何かを隠すにはよいはずだ。

そう考えてすぐに思い浮かんだものを口に知ると、彼はあっさりと案内するという。


「市場。そうですね。食は大切ですからね。ご案内いたします」


もし彼がここに住むのなら、確かに一番気になるのは食べ物だろう。

言葉もほとんど変わらず似た様な文化とはいえ、国が違うので食も多少は異なる。

それに市場に隠すようなものは何もない。

庶民的だと思わなくもないが、もともと彼は平民という話だから気になるのなら連れていけばいいだけだ。

ただその先は少し治安の悪いところもあるし、貧民街などもある。

できるだけ暗部を見せないように動かなければ印象が悪くなるかもしれない。

彼はそれを意識しながらも、知った道を案内することにしたのだった。



市場は高級店の並ぶ道から広場をはさんで対角線の道の先にあるらしい。

ロイクールとしては、できるだけ距離を稼ぎたいので幸いだ。

そうして歩いた市場は活気にあふれていた。

広場より、高級品の店の並ぶところよりにぎやかで、あちらこちらから元気な声が聞こえる。


「この先かなり騒がしいところになりますが」


少し離れたところで歩みを緩めてそう言う彼にロイクールは愛想笑いで答えた。


「活気があっていいではありませんか」

「そう言っていただけると」


平民とはいえ仮にも皇太子殿下の客人であり、元広域族の婚約者となるような相手なのだから、このような場所を好むとは思えない。

本当にいいのかと彼らは注意深くロイクールに確認する。


「こちらが希望した場所ですから、問題ありません。この先を散策しても?」

「はい。人が多いのではぐれないよう……」


問題ないので行きますと先に歩き出そうとするロイクールを引き留めるように慌てて一人がそういうので、ロイクールは思いつきで言った。


「では、はぐれたら先ほどの広場で待ち合わせというのはいかがですか?」


ロイクールが試しに自由行動にしたい旨を強調すると、彼らは難色を示した。

警護対象であり、監視対象であるロイクールと別行動をするなど彼らからすればあり得ないことだから。


「そうですね。はぐれた場合の集合場所はそういたしましょう。ですが、できるだけはぐれないよう……」

「わかりました。もちろんです」


本当なら彼らをまいてしまうこともできる。

しかし初手でそれを使ってしまったら以降の警備が強化され自由が制限される可能性がある。

早急に記憶探しに取り掛かりたいところだが、先々のことを考えるなら、ここは不便であっても彼らに従って、はぐれないよう行動しておいた方が無難だろう。

そもそもこんなに早く街に出られることは想定していなかったのだから、ここで手掛かりがつかめれば儲けものくらいに思っておく方がいい。

打算的な考えから、ロイクールは彼らの案内を受けることにしたのだった。



「市場といえばこの通りになります。脇にも多少店はありますが、多くは店主の家などの住居になりますし、主要な商品はここで入手可能です」


市場の入口ともいうべき場所で一旦立ち止まると、案内人はそう言った。


「とりあえずどのような食べ物があるのかを見たいということでいいでしょうか。それならば、この道の右側だけを見て歩き、戻る際も右側を通っていけば一通り確認できるかと思います。もちろん、途中で購入もできます」


そうなると歩けるのはこの通りのみとなる。

脇道には入るなとそういうことらしい。

きっとそこには、この国の暗部があるのだろう。


「そうですね。そうすれば確かに迷うことはないでしょうから、そうしましょう」


ロイクールがそう言うと彼らが挟むようにロイクールの横に配置を変え、警護を強めるように固めるのだった。



彼らはやはり安全で無難な大き目の通りしか歩くことはなかった。

きっと脇道には穴場の店などもあるのだろうが、間違えれば路地裏は危険もあるからだろう

そんなところを案内して客人に何かあったら、彼らが処罰される可能性もある。

いくら敵国とはいえ、罪のない者を貶めるつもりはない。

それにここだって歩いていない道なのだ。

一人で探す場合、総当たりしなければならない可能性があるのだから、最初はどこを歩いてもいい。

一か所でも多く、探す場所を減らせれば御の字だと頭を切り替える。



そう考えながら道を進んでいると、広場から離れるにしたがって糸の反応に変化が出た。

しかも複数個所で同じような現象が起きる。

これは思わぬ収穫だ。

もしかしたら周辺の路地に関係するものが、記憶の断片があるのかもしれない。

ロイクールは慎重に周辺の情報を頭に叩き込むのだった。


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