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仮想敵国への訪問と旅人の郷愁(14)

記憶を戻してから一時的に目を覚ましたものの、意識が混濁している状態のミレニアは、そのまま部屋で休ませることになった。

先ほどの話を聞いていた侍女もそこに配慮してくれたようで、うまくミレニアを部屋の外に誘導する。

目を開けて直ぐ視界に入る位置にいなかった上、ロイクールの声がしても、ミレニアがぼんやりしていて、そこに意識を向けることがなかった事だけが幸いだった。

ロイクールはどうにか、そのまま黙って気付かれることなくやり過ごすことができた。

殿下はロイクールの方を伺うが、ロイクールは首を横に振った。

部屋にロイクールがついていくわけにはいかないため、ミレニアとはここで一旦離れる。

先に侍女が体を支えてミレニアは部屋を出たので、殿下に、くれぐれもミレニアがしっかり話せるようになるまで刺激をしないようにと念を押すと、ロイクールは与えられた部屋に戻った。



こうしてこの国で一番の大仕事を終えたロイクールは手持無沙汰になったため、もう一つの用件を進めるためお伺いを立てることにした。


「申し訳ありません。先ほど殿下には自由に過ごしていいと言われたのですが、外に出て歩くのには許可が必要でしょうか?」


とりあえず土地勘がないため、近くを歩いて軽く散策でもしてみようと考えたロイクールがそう尋ねると、一人がすぐに答えた。


「どちらに行かれるかによりますが、街中を歩くということでしたら問題ありません。念のため我々が同行することになりますが、問題ありますか?」


客人として扱えと言われているとはいえ野放しにしていいとは言われていない。

当然他国の民であるロイクールは彼らからすれば監視対象でもある。

とりあえずやんわりと同行させてほしいと彼らが伝えると、ロイクールは察してうなずいた。


「いいえ、問題ありません。むしろどのようなところなのか案内をしていただけると助かるのですが……」


ロイクールがまずはこの町のことを知りたいと、観光のような形でと申し出ると、彼らは大きくうなずいた。


「かしこまりました。殿下には、この国を気に入っていただけるよう、希望されたら国内を案内するよう命じられております。滞在期間が許すのなら、多少の遠方でもご案内できますがいかがいたしましょうか」


この国について知りたいというロイクールの言葉を前向きに受け取った一人がそう言うので、ロイクールは少し考えてからこう言った。


「まずはこの周辺、できれば普通に街中、市場とかそういったところを案内してもらいたいです。この国の生活について一番わかるのはおそらくそういった場所だと思いますので」


移住について考えるなら、まずはこの国の生活環境について知っておきたい。

あえて彼らにそう匂わせると、彼らは喜んで案内をするという。


「そういうことでしたら、喜んでご案内いたします。お連れ様はいかがいたしますか?」


ロイクールと一緒にやってきた客人は面会の予定も外交の予定もないためずっと客室で待機している状態だ。

国の要人というより、ロイクールの客人だろうと察した一人が、彼のことを機にかけて申し出る。

それをありがたく受け止めつつ、ロイクールは少し考えてから、首を横に振った。


「とりあえず私だけ案内いただければ結構です。それと今回は、すぐに戻ってこられる一番近いところだけを案内してもらえればと思います。これからすぐですと、ミレニア様の件で声がかかる可能性もありますので……。せっかく楽しんでいるところを呼び戻されることになるかもしれないわけですから、今回は私一人で確認して、改めて落ち着いたところで出かけた方がゆっくりできていいように思います」


街を見ていない以上、この国の護衛がいたとしても安全が確保できるとは限らない。

一度ロイクールが治安だけでも確認しておいた方がいいだろう。

そんな思惑があってのことだったが、聞いた方は、ミレニアのことと言われ納得したらしく、それなら早く出た方が少しでも長くいられるでしょうとロイクールを促した。


「かしこまりました。その程度の距離の外出でしたら、すぐに出発でも問題ありません。ではまいりましょう」

「お願いします」



街の散策を申し出ると、あっさり許可が下りたため、最低限の荷物を持つと早速、彼らの案内で街へと向かうことになった。

一応出るときは馬車を使ったが近いこともあってすぐに降りて歩くことになる。

自然と人が集まるからか、城下という場所にはたいてい街が広がっているものらしい。

それは国が変わっても同じようだ。


「どちらか行きたい場所は見たい商品などはありますでしょうか」


馬車を降りて横に並んだ案内人兼護衛兼見張りの男性に問われ、ロイクールは周辺を見まわしながら言った。


「そうですね。本当に初めてですから、とりあえず中央にあたる場所に連れてっていただいて、目についた場所に立ち寄るのがよいかと思っているのですが」


街のある場所が同じようなものなら、利便性を考えて配置も似たようなものになっているだろう。

そう考えたロイクールが、とりあえず街の中心部に向かいたいというと、彼はうなずいた。


「わかりました。では街の中央に広場がありますから、そちらにまずはご案内しましょう。移動がてら気になる場所があれば、立ち寄ることもできましょう」

「はい。それでお願いします」


これでとりあえず街の中心がどこかがわかる。

この先記憶を探す起点をその場所にして、そこから四方、もしくは二方向を探していけば、発見があるに違いない。



街中を歩きながら、ロイクールは密かに彼から預かっている記憶の糸の様子を窺っていた。場所は特定できていないが、やはりこの国に来てから引き寄せられるものがあるようなので、近くに彼の記憶の一端があるように思う。

このような調査経験のないロイクールだが、今まで長く記憶の糸と向き合ってきた管理人としての経験と勘がそう言っているのだ。

そんなことを考えつつ、彼の説明に合図地を打ち、街を見まわしているふりをしつつ、時折糸の様子をうかがうという器用なことをしながら、ロイクールは彼らについていった。

そうして歩いていると急に建物が遠くなり視界が広くなった。


「こちらが中央広場になります」


ガイドのようにそう言った彼は、そのまま広場に向かっていく。

そして彼はロイクールを広場のさらに中央付近へと連れていくのだった。

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