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仮想敵国への訪問と旅人の郷愁(5)

「先ほどミレニア様が希望すれば、私と添い遂げられるようにするとおっしゃっていましたけれど、あなた様はそれでよろしいのですか?」


いくら惚れた相手の頼みとはいえ、それは伴侶として臨んでいないのではないか。

ロイクールが彼に尋ねると、彼はその時の事を思い出して思わずため息をこぼした。


「別に最初から敵対するつもりなどなかったのに、あちらは要らんわがままな姫を嫁にもらえと差し出してきたからな。あんなのをもらうより利口な貴族のご令嬢の方がよい。そこで目をつけたのがあの賢そうな侍女だったわけだ」


国益を損なわず穏便に話を進めるのに適しているだろうと考えたのが、優秀な人間を姫の代わりによこしてくれるのなら、という条件を出すことだった。

条件を飲めないと言われたら破談にして、向こうが一方的に恐怖を感じる生活をしていればいいし、飲むと言われても、いらぬ姫が来るより扱いやすい人間ならば問題はない。

あれはあくまで国を鑑みての判断だったのだ。


「好意を持ってのことではなかったと、そういうことですか?」


自分たちが、ミレニアの家族が味わい続けている悲しみは何だったのか。

結局こちらもあちらも国益のことしか考えておらず、こちらはそれらに翻弄されただけだったということになる。

それならばまだ、嘘でも好意を持ってしまったが故と思っていた方がまだ納得ができた。

好意を持たれて、惚れられて嫁に行くのならミレニアは幸せになれるはずだ。

それがロイクールとミレニアの家族をどうにか悲しみから救いだしていた。

しかし実際はそれすら虚言だったという。


「そうか。表向きは一目惚れということになっているのだったか。しかし、実際はあそこにいる侍女の中で、ミレニアだけが有能だった。そして我が国に対する知見もある。それならばと選んだのだ」


あの姫の評判は有名だ。

当然こちらとしてもそれを知っていた。

国益を損なう姫など押しつけられても困る。

そこで苦肉の策としてまともな人間に挿げ替えられるよう条件を出したのだが、あの姫に価値があると信じて疑わない連中だったため、ありがたくもその提案に乗ってくれた、というわけだ。


「ですがミレニア様は国との契約に縛られているはずです。あの国の不利益になることはできないよう、魔法契約を結ばされています。結果的にそちらの国の情報をあちらに流すことになりかねなかったはずです。その点はいかがなのですか?」


国益の事だけを言うのならミレニアにもそうせざるをえなくなる可能性はあったはずだ。

しかもあの頭の弱い姫とは違い、ミレニアは賢い。

この国で見聞きしたことの多くを正しく解釈しているはずだ。


「ああ。それは彼女がこちらに来ることが決まった際、魔法契約を解除しないままにするというのなら貴国を敵とみなす。あちらにスパイ行為をさせるために侍女を送り込むのかと嫌味を言って、結ばされた契約の解除を要請したのだ。別にあんなものがあったところで機密など、最初から話すつもりはなかったが、契約に縛られずに済むようにしてやったのは、こちらのできるせめてもの罪滅ぼしだな。最悪、ほとぼりが冷めたら帰してやっても構わない。本人を傷物にするつもりもないからな」


ミレニアが選ばれたのは、見染められたから。

それは間違いない。

けれど買われたのはミレニア自身ではなく、能力の部分だった。

つまり、ここにも政治的な判断が重くのしかかっていたということだ。

そう聞いて、国としてその選択は間違っていなかったとロイクールは思う。

確かに血筋だけで頭の悪い我儘な女を受け入れるより、多少地位が下がっても有能な人間を手元に置きたいと考えるのはもっともだ。

ロイクールだって、ミレニアの代わりにあの姫を娶れと言われたら断る。

そう冷静に意見を受け入れることができたのは、それを受け入れるだけの器を、この長い時間が自然と作ったからかもしれない。


「しかし、本当に代わりのご令嬢を寄越してくるとは……、貴国は我が国を軽んじているのだなと。同時に、心底愛想が尽きたものでな。そのうち没交渉になるだろう」


もし仮に姫殿下がこの国に送られていたとしたら、その関係は維持されていたのだろうか。 すでに、あの人間が来るくらいなら別の人間がいいとまで言われているにもかかわらず、それでも、外交のためには姫の方を嫁がせるのが必要なことだったということだろうか。


「それはつまり、今後こちらの国には干渉しないということですか?」


ロイクールが尋ねると彼は首を横に振った。


「いや、最終的には全てを閉ざす、ということになるな」

「そうですか」


没交渉、すなわち無関係ということで、干渉もしないが助けもしない。

そうして徐々に関りを失くしていく方向で動いているのだという。

すでにかかわりを持つメリットが、もはやないと、そう判断したということだ。

交流そのものを減らしていき、行き来も失くす。 禁止はしないので商人などは往来できるし、必要に応じて受け入れることはするが、国同士の付き合いはなくなる。

それが何を指すのか。

国の力や信頼の低下だ。

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