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仮想敵からの依頼と噛み合わない対話(14)

王女の話はしているだけで周囲の人間の心の傷をえぐって不愉快になる。

用件が終わったのなら退席しようかとロイクールが動き出そうとしたところで、ふと、別の事を思いついた。

案として悪いものではないし、この件を利用してできることがありそうな件が頭をよぎったのだ。


「申し訳ありません。この件とは関係ないのですが、ひとつ、お願いがあります」


ロイクールがそう切り出すと、お願いなど殊勝な言葉を使うものだとニヤリと笑みを浮かべた皇太子殿下が言った。


「お願い?珍しいこともあるものだな。なんだろうか?」


からかうように聞き返す皇太子殿下だが、ロイクールはそれをあしらい、真面目な顔を崩すことなくその内容を伝えた。


「例の国に連れていきたい人がいるのです」

「へぇ?」


ミレニア以外に連れて歩きたいと思う人間がいると言い出すとは思わなかった。

意外な申し出だと皇太子殿下が両脇の二人を見ると、ドレンは眉を動かして険しい表情をし、イザークは横目でロイクールを見て先の言葉を待っている様子だった。

その反応から、ロイクールが連れていきたい相手が彼らではないらしいことが察せられた。

もしそうだったとしても、彼らは事前に知らされていないということになる。


「それで相手は誰かな。相手によっては却下することになるのだが、その様子だとこちらにも利があるような言い方だろう?つまり、そうならない相手を選んでいるということだ。だったら話くらいは聞こうじゃないか」


皇太子殿下が重心を前に倒して前のめりになってロイクールを見ると、ロイクールはうなずいた。


「先日、私のギルドに来た名も分からぬ男性です。現在は魔術師団側に正式な依頼をしたため、こちらで保護されていると思います。彼の記憶があちらの国の方に引き寄せられていた。あの方角に向かうのなら彼を同行させたいのです。そうすれば手がかりを得られるかもしれない。こちらにとっても悪い話ではないと思いますがいかがでしょう?」


あくまで提案であり、最終的な判断は現在身元を預かっているそちら側がすべきだろうとロイクールが主張すると、彼は珍しく真面目な顔で言った。


「だがもし主犯があちらの国にいて、彼がこちらに逃げてきたのだとしたら、一度越境したら戻れないかもしれないぞ」


未だに彼の素性のヒントになる情報は得られていない。

しかし、ロイクールと同じように、王族たちも彼がこのような状態になっても生かされている事を不思議に思っている。

だから連れていくのはロイクールで、その時に何かあっても責任は負わないと暗に警告することにしたのだ。

事情があるにせよ、彼が大物だった場合、丁重に扱わなかったら後が怖い。

それもあって扱いに困っていた。

とりあえずここから居なくなってくれたら、周辺で世話をしていた者たちも一息つくことができるだろう。


「そうならば、本人と相談が必要ですね」


目の前の男が何を考えてそんなことを言い出したのかはともかく、言っていることは正しい。

だとすれば本人にそれを伝えて許可を取るなり判断をしてもらうなりした方がいいだろう。


「それでロイクールが少しでも快くあちらに出向いてくれるのなら、こちらも最大限配慮しよう」


ここでロイクールと敵対するのは、得策ではない。

少なくとも力で押して敵う相手ではないし、素性のわからない男一人連れていく許可を出せば大人しくしてくれるというのだから、言うことはない。

早く話をまとめてしまいたい皇太子は彼との面会許可をあっさりと出した。


「そうしていただければと思います。これから彼に確認の時間をいただけますか?」

「ああ、かまわない。こっちとしても保護している人間に最大限の配慮ができるのだから喜ばしいことだ」


体裁を保てて厄介事が減る。

こんな素晴らしい事はない。

心の中で皇太子殿下がほくそ笑んでいると、そこにロイクールが冷めた目で彼を見ながら言った。


「では、面会と、旅の支度がありますので、これで失礼いたします」


王子殿下との面会を不機嫌なまま終えたロイはその場を後にした。

そしてその足で名の分からぬ旅人の元へと向かうことになるのだった。



「突然訪ねることになって申し訳ありません」


案内をするという人物に連れられて、ロイクールは彼との再会を果たした。

彼の部屋に押し掛ける形になったのだが、彼は快くロイクールを受け入れてくれた。


「いえ、こうしてお会いできて嬉しいです。ロイさんが来てくださって安心しました」


突然の訪問者が知らぬ人間だったら、自分がどうなるのか分からず不安になっただろうが、やってきたのがロイクールなら問題ない。

彼に残された記憶の中で、一番信頼をしているのがロイクールなのだ。

むしろ、久々に顔を見られて安堵したくらいだ。


「突然このような場所に送り出してしまいましたから、不安でしたよね」


ロイクールは容易に面会ができなくなる事を察していたが、彼はそうではなかっただろう。

それでも、今までの事を鑑みて、より身の安全を優先せざるを得ないと判断してのことだ。

後悔はないけれど、彼からすれば訳も分からず突然のことだったはずだ。

事情を説明したとはいえ、自分から言われたら、彼に選択肢はないような者だったに違いない。

しかし彼はそんなロイクールの言葉を聞いて首を横に振った。


「それは、自分で決めたことでもありますので気になさらないでください。それより、何かわかったのでしょうか?」


わざわざこんなところまで尋ねてきたのだから進展があったのかもしれない。

突然だった事よりもそちらの方が気になる。

彼がを射クールに期待の目を向けると、ロイクールはため息をついた。


「わかったわけではないのですが、わかるかもしれないという話が、先ほどここに来て別件の話をしたときに出ました。今回はそれをお伝えするとともに、また、どうされるか選択を迫ることになってしまうことに対して、お詫びしなければならないため、説明と謝罪に伺いました」


この選択が発生したのは自分の発言が生んだ結果だ。


「謝罪なんてそんな、不要です。だってそれは、全て私のために動いてくれた結果なのでしょう?それはそうと、選択ですか……?」


滞在先に続いて、次は何の選択を迫られるのか。

不安もあるが、勝手に決めないで、こうして事あるごとに確認をしてくれるのだから、悪いようにはならないだろう。

少なくともロイクールがいれば問題ない。


「もちろん少しですが答えを決めるまでの猶予はあります」


申し訳なさそうにロイクールがそう言うと、彼は責める様子を見せることなく先を急かした。


「内容をお伺いしても?」

「もちろんです」


ロイクールはそう答えてから、彼に今回の件の説明を始めたのだった。

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