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仮想敵からの依頼と噛み合わない対話(13)

「発言をお許しいただけますか?」


ロイクールからの視線を受けたイザークがそれに気付いて申し出ると、殿下は笑みを浮かべてそれを了承した。


「かまわないよ」


殿下の許可が下りたところでイザークはロイクールの方を見る。


「失礼ながら、先ほど伺ったところずいぶんとにぎわっている様子でした。少し確認したところ、ロイクールさんは今までも出張などで数日ギルドを空けることがあったそうです。ですから今回もおそらく営業を続けるのだろうと思いました。しかし今回は国外に行かれるわけで、不測の事態も考えられます。そこで忘却魔法に関して知識があり、それなりの権力を持つ王宮魔術師が巡回することで、トラブルの対応に備えてはどうかと、そう考えた次第です」


イザークこのまま放置しておけば、ギルドの警備を騎士団に任せるという話が出ることを想定していたらしい。

いくら魔術師との溝は埋まりつつあり、騎士団にいた差別的発言を行う者を一掃したとしても、今回の相手は平民が大半だ。

貴族の特権を出されたら彼らの方が立場が弱い。

騎士の中に守ってやっていると驕る者がでかねない。

さらに言えば、物理的に彼らは力でも勝つことが叶わないだろうから、力づくで言う事を聞かされる可能性だってある。

それに騎士団の過去を知っていれば、ロイクールに対してよく思わない者もいるだろうから、いない所を狙って悪さを企む事も考えられる。

騎士の魔術師に対する差別だって、どちらにも貴族が多く在籍しているため、家の力関係が一定数働いて減っているようなものなのだ。

ロイクールも勝手に騎士団が警備に入ると言われても迷惑だろう。

しかし警備をつけるというのは体裁上必須になりそうだった。

だったら魔術師が名乗りをあげればいいのではないかと考えたのだ。

以前先輩が、ロイクールに依頼に行き、その過程で受付で働いている人たちに好印象を持たれていたようだし、彼を窓口にすれば、彼らも相談しやすいはずだ。

あとは自分のところにさえ情報を運んでくれたらいくらでも対処できる。


「私としては騎士団に見張らせておけばいいんじゃないかって言ったんだけどね、そしたらイザークはギルドに誰も入れなくなる、営業妨害ではないかって言うし、ギルドの人間が騎士に警戒を強めている感じだってドレンも言うしさ、だったら試しに魔術師たちにやらせるのも悪くないかなってことで、意見を採用したんだ。私としては監視が成立するならどちらでも構わないからね」


皇太子は用件を満たしていれば別にどちらでもよかったので、最終的にはイザークの案を採用することにしたという。

ドレンの口添えが会ったのも大きかったのだろう。

話を聞けば、はるかにイザークの案の方がロイクールからしても安心だ。


「騎士の皆様におかれましては、自業自得でしょう。不遜な態度で威圧してくる人間を快く受け入れたりはしませんからね」


ロイクールがいる時、勧誘に来ているドレンや皇太子殿下は本人以外と接触を図ったりはしていないが、自分のギルドの長であるロイクールへの態度ですらあれなのだから、自分達だけになったら何をされるか分からない。

そう考えるのが普通だ。

他の騎士がロイクールを呼び時の態度だって決してギルドにとって良いものではない。


「うちの人間が申し訳ない。耳の痛い話だよ」


そう謝罪の言葉を口にするが、騎士側としては軽くみられるわけにもいかないので、あの態度を変えることはできないらしい。

その辺りは立場があるので仕方がないことだろう。


「ああそうだ。先ほど、監視とおっしゃっておりましたけれど、もし私のいない間に家探しをしようと考えているのなら無駄ですよ。管理室は従業員を含めて誰も入ることができないよう厳重に魔法をかけてありますし、見られて困るようなものや契約書はそこにすべて置いてあります。ちなみに魔法が破られれば当然私にはわかりますので、もしそのようなことが察知されたら、あちらの国に、王族の手の者が、人間が私が離れている間に窃盗を働こうとしていると伝えて帰ってくることになるでしょう。あちらがどう捉えるかはわかりかねますけどね」


自分たちの呼び出しを、窃盗の時間稼ぎのダシに使われたと考えるかもしれない。

もしそのようなことがあればあちらの国の敵意をこちらに向けて帰ってくることにするとロイクールが言うと、皇太子殿下はにやりと笑った。


「なるほど。本当に連れ戻す必要がある時にはその方法を利用すればいいと、そういうことだな」


逆に呼び戻すために利用してやろうと、悪い顔で言う彼に、ロイクールが目を細めて言った。


「そうですが、その後私が心のままにどうするかはお考えいただきたく思いますね」


ロイクールはこの国と契約を交わしていないので、本当にギルドが荒らされて、心のままに王宮を直接破壊しようが、命じた者を殺めようが罰を受けることはない。

まあ、真っ先に狙うとしたら、目の前にいる彼や諸悪の根源となったその妹だろう。

ロイクールが口に出さずともそんなことを考えていると、その考えは皇太子殿下にも伝わったようで、彼は肩をすくめて見せた。


「おお、こわいこわい。でも安心してもらって構わないよ。そんなことはしないからさ」


あからさまにわざとらしい仕草をする皇太子殿下に対しロイクールは冷たい目を向けた。


「そうですね。この国の皇太子殿下は平民の家に平然と盗みに入り、王女殿下はいざという時に役に立たず、部下にその責を押し付ける無能てすから仕方ありません。信仰厚い国民の一部にチヤホヤされ、贅を尽くすだけの者ですからね。未だに何の役にも立っていないように思いますが?」


政略結婚の最大の駒である王女は未だに独身だ。

立場が変わらないとはいえ、若さという武器を失っているそんな人間を欲しがる国はそうそうない。

他国も頭の悪い王女の面倒など見たくないので、こちらが余程の利益を提示しなければ貰い手すらないだろう。

どこまでも最後まで手も金もかかる王女だと、陰では散々な言われようであることを、この場所を離れているロイクールですら知っている。


「ロイクールさあ、馬鹿正直にそこまで言う?一応それ、私の妹なんだけど?」


妹をそれと表現している時点で多少は手を焼いている事を自覚しているのだろう。

だったらもう少し何とかしてはどうかとロイクールは苦言を呈した。


「あなたも納得できないとお感じになるなら、王宮の教育方針というのが良くないのかもしれません。見直してみては?」


ロイクールが冷たい口調で真面目にそう伝えると、さすがに多少なりとも後ろめたさを感じたのか、口角をひきつらせた。


「それに関しては面目ないとしか言えんな」


思うところがある様子だが、それでもなお、直すよう努力をするなど、そのような話にはならないところが彼ららしい。


「相変わらず反省の色を感じることができませんね。王女殿下が本当に価値のあることが証明される日を、私は心より待ちわびております」


ミレニアを追いやってまで居座ったのだから、結果くらい出して見せるべきだと、ロイクールが当事者として意見を述べると、皇太子殿下はそれを鼻で笑って済ませたのだった。

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