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仮想敵からの依頼と噛み合わない対話(12)

開けられたドアの向こうには、ロイクールを見て微笑んでいる皇太子殿下の姿があった。


「やあ!久しぶりだね、ロイクール」


当然のように椅子に座って背もたれに体を預けて足を組み、高いところから見下ろすようにロイクールを見て彼はそう口にした。

ロイクールと、ロイクールを逃がすまいと挟んでいる二人は、その足元に急いで寄ると、膝をついた。


「皇太子殿下に置かれましては……」


やる気はないものの、挨拶の一環なので何となくそんな茶番のような口上を述べようと、ロイクールが口を開くと、皇太子殿下が手をひらひらと振りながら言った。


「ああ、そういうのいらないからさ、頭上げてよ。膝もつかなくていいし」

「わかりました」


三人は殿下の言葉に従って体を起こすと、立ち上がった。

そうしてロイクールを中心に横一列に並ぶ。


「元気そうで何よりだよ」


殿下はそんな彼らを一瞥してから、ロイクールに向かってそう言った。


「はい。特に変わりなく過ごしております」


ロイクールが当たり障りのない無難な言葉で返事をすると、皇太子殿下は方を落としてため息をひとつついた。


「まあいいや。それでさ、早速用件になるんだけどね、説明は魔術師長に頼んでおいたから聞いたでしょう?一応私のところに来てもらって、形だけでも依頼をした方がいいのかなって思ってね」


逃げることを許さないといった雰囲気で連れて来られた事もあり、どうしても面会を成立させたいのだろうと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。

特別な話があるわけではなく、あくまで国の使者として動いてもらうことになるのだから、こうして面会くらいはしておいてやろうと、どうやらその程度こことのようだ。


「それだけですか。でしたらもうよろしいのでは?」


挨拶は省略していいと自ら言っていたし、面会はもう終わりだ、

説明されるわけではないのなら話すことはない。

ロイクールが鬱陶しいと言った様子で退室の許可を求めると、彼は笑いながら言った。


「そう言わないでよ。一応、あっちに行ってからも含めて、ロイクールは本当に移動するだけですむよう、手配しておいたんだからさ」

「手配ですか?」


褒めてほしいのか別の意図があるのかよくわからない言葉を、怪訝な表情で受け止めるロイクールだが、彼はそれを気に留める様子も見せずに続ける。


「そう。ああ、だから国を離れると言っても数日だし、ギルドを一時的に閉めるかどうかは任せるけど、休暇だと思って行ってくるのがいいんじゃないかな?」


とにかく行って帰って来てくれというよくわからない要望を出されたロイクールは、思わず眉間にしわを寄せた。


「つまり私が外交をする必要はないということでよろしいですか?」


そもそもミレニアの事があって今回同行する必要があると判断したのだ。

そして魔術師長からは、そこに第三者を入れない方がいいだろうと配慮したと聞いている。

しかし今の話では、その国に一歩踏み入れたら、ミレニアに会う事もなく、誰とも話をする事もなく帰ってきていいということになる。

本当にそうならば、記憶の糸も持たず、安全に管理室で保管し、見張りの見ている前で一歩、国境で足を踏み入れて、そのまま帰ってきてもいいということになるのだが、実際はそう容易い話ではないだろう。


「外交はロイクールを案内するのに付き添う者にするよう伝えるから問題ないな。ただ、本人を連れて行かないわけにはいかなくてさ」


相手がロイクールを連れて来いと要望しているらしい事も聞いている。

さすがのロイクールも言葉のあやとなっている部分については理解しているつもりだが、やはり彼とはいつ話をしても気分が悪くなるなとロイクールは思う。


「つまり私はお飾りだから、外交官の側で人形のようにおとなしくしていろと。しかし私はあなた方の制約は受けないことになっておりますが?」


大人しくしている保証もないとロイクールが伝えると、殿下はそれも織り込み済みだと言う。


「そうだね。だから、もし本当に表に出たくないんなら、入国してもらって、すぐに戻ってもらって構わない。入国したという事実をあちらに示せれば、こちらとしてはまだ戦いようもあるからさ。ああ、もちろん、外交に参加してもらうのは歓迎だよ」


おそらくそれが一番この国に置いて穏便に済ませられるということだろう。

どうも自分の都合の良い方に誘導しようとしているのが透けて見えて気に入らないが、ロイクールはとりあえずその話に乗ることにした。


「別に面会くらいしてきますよ。ですが、発言の内容については補償いたしかねます。いかんせん貴族としての教育は、多少受けましたけど、実戦経験が乏しいものですから」


ロイクールがそう返すと、殿下はため息交じりに言った。


「それで構わない。しかしそうなると、久々にミレニアの姿を拝めるのだから喜ばしいことではないか?」


ロイクールがミレニアに気持ちを残していることは周知の事実だ。

しかし知っていながら、それを引き剥がしたのが目の前の人間である。

不敬にあろうとどうでもいい。

ロイクールは殿下を睨みつけて口を開いた。


「本来であれば一緒に生活していた人間を強制的に引き離して、おいてよくそのような言葉が出てきますね。軽蔑します。ああ、すでにしていますか」


淡々と述べたロイクールの言葉を聞いた殿下は、鼻で笑ってから、面白いものを見たと言わんばかりに口元を緩めた。


「本当にロイクールは私たちが嫌いだよね。まあいいや。ギルドはトラブルが起きないように魔術師団から監視を出すようにするよ。イザークからそうすると提案があったんだ」

「イザーク様からですか?」


自分がいない間にギルドで何かするつもりなのだろうか。

できる事ならば今までと変わらず、何もしないでもらうのが一番安泰のはずだ。

それをなぜ、魔術師団が出て来て監視することになるのか。

しかもそれを言い出したのはイザークだという。

自分の味方ではいる事は、イザークの置かれている環境が許さないと理解していたが、それでも極力敵対しないようにしてくれていたはずだ。

なのになぜ、そのような提案をしたのか。

これまでイザークに対して思うところのなかったロイクールだったが、結局彼も、この環境に染まってしまったのかもしれない。

ロイクールはそんな残念な思いを抱えて、隣に立つイザークを見たのだった。

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