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仮想敵からの依頼と噛み合わない対話(9)

馬車を降りたロイは、ロイクールとしてイザークとドレンに挟まれる形で王宮の中を歩く。

さすがにこの二人に両脇を固められている状態なので、頭を下げられることはあっても声をかけられることはない。

そうして昔に見慣れた懐かしい廊下を歩いて到着したのは、魔術師長の部屋だった。

イザークとドレンは部屋に到着すると、ロイクールを中に案内してそのまま下がっていった。

ここからは二人で話した方がいいと、そういうことなのだろう。

てっきり一緒に話を聞いていくのかと思っていたロイクールは少し驚いたけれど、彼らは話せないけれど事情はすでに把握している様子だったし、そうであるならば、ここで同じ話を聞く必要はない。

二人ともすでに役職を持つ立場なので忙しいだろうし、ロイクールを魔術師長のところに連れて行くという任務を果たしたことを、本人達が報告しに行く必要があるのかもしれない。



二人が退出し、閉められたドアを黙って見ていると、魔術師長がロイクールに声をかけた。


「久しぶりだな」


その声にロイクールは振り返った。


「はい。ご無沙汰しております。それで早速用件を伺いたいのですが、よろしいでしょうか」


イザークやドレンの顔を立てて大人しく連れて来られたけれど長居をするつもりはない。

ここで雑談など始めたら、話好きの魔術師長との会話を延々と続けなければならなくなる。

それを回避すべくロイクールが内容を尋ねると、魔術師長は質問の意図を正しく組んだのか大きく一つ、ため息をついた。


「ああそうだな。しかし我々も詳細な説明は受けておらんのだよ」

「どういうことなのでしょう?ここまで厳重管理の状態で呼びだしておきながら、詳細が分からないのですか?」


呼び出しに応じたのは、詳細を知るためだ。

そしてその上でその要望に応じるかどうかを決めるつもりでいた。

少なくとも聞いた段階でなお、選択権を持つのが自分であると判断したからこそ、こうしてここまでやってきたのだ。

これでは無駄足ではないか。

憤慨したくなる気持ちを抑えながら、こうまでして自分を呼びだした意味を問うと、魔術師長は、真剣なまなざしでロイクールをじっと見て言った。


「ああ、そうだ。相手の要望や裏に秘めたものなどについては何もわからん。なのでとりあえずロイクール、そなたに依頼する内容を、あちらからの要望をまずそのまま伝えることになる。質問されても答えられぬからそこは了承してくれぬか」


取り合えず説明をする意思はある。

ただ不明点が多いだけだと魔術師長が強調するので、とりあえずロイクールは一旦了承して話を聞くことにした。


「そうですね。このまま話を聞かずにいても動きようがありませんし、判断もできかねますので、まずはお話を伺いたいと思います」



ロイクールに促されて、魔術師長は早速、これまでに分かる範囲でのいきさつを話し始めた。

その話によると、突然あちらの国から連絡が来て、ロイクールを指名をしてきたそうだ。

しかしロイクールは国の中でも重要人物として認識されている。

だからこそ本人を国外に出さないよう厳重に警備しているのだ。

もちろん強行突破しようと思えばできてしまうのだが、ロイクール本人にその意思がなかったため、今まで大きなト ラブルにはなっていなかった。

しかしそれを敵国となる可能性のある国に簡単に明かすわけにはいかない。

そのため、国として、なぜロイクールを指名してきたのかを問うことにしたのだという。

すると彼の国から思わぬ答えが返ってきた。

長い時を経た今になって、ミレニアには婚約者がいたが、嫁ぐ際、その婚約者に未練がないと言っていたし、本 人からも未練のあるそぶりが見られなかったからそれを信じた。

ところがそれが本当は操作された記憶で本心ではなかったらしいと疑われる情報が入ってきた。

そこで名前が挙がったのがロイクールであり、その情報源曰く、彼がすべてを知っているというので、その当人から話を聞きたいのだと、そういうことらしい。

国が間に入ると、どうにかロイクールを国外に出さないよう画策したが、残念なことにそれが裏目に出て、少々険悪な関係になってきてしまっている。

しかもやり取りの過程でミレニアにあらぬ疑いがかけられたり、この国が何か陰謀めいたことを画策しているように 見られたりといったことが起きているということだ。



「私があの国に行ってこちら側の立場を説明をしてくると、そういうことですか?」


婚約者がいたことまで突き止めているのならロイクールとミレニアのことで今さら話すことはない。

プライベートを秘匿する権利はあるはずだ。

ロイクールがそんなことを考えていると魔術師長は軽く首を横に振る。


「忘却魔法についての話をしたいと向こうが所望しているようでな」

「その説明だけならば別の者を送ればいいでしょう」


説明もできないというのなら、何のために国をあげて記憶管理ギルドなどを立ち上げさせ、細かい法律まで制定したのかわからない。

師匠に言われたからという理由で始めたことかもしれないけれど、師匠は国の責任を追及するためにこのようなことを国にさせたはずだ。

それに自分がここを離れてからも多くの記憶管理ギルドが立ち上がったと聞いている。

つまり自分以外にその認定を行えるだけの理解ある者が王宮魔術師の中にいるはずなのだ。

説明など中にいる人間にさせればいいのであって、退職している自分に頼むことではないだろう。

ロイクールが冷たくそう匂わせると、魔術師長はそれを否定した。


「向こうの要望が、忘却魔法の説明だけならばそうしただろう。だが、向こうはミレニアの記憶を持ってきてほしいと言ってきた。おそらくそれが向こうの真の狙いだ」


ミレニアの記憶を戻してどうしたいのかは分からない。

けれどそうなってミレニアに起きた感情の変化が、場合によっては国家間の軋轢を強める可能性がある。

しかしミレニアは賢い人間だ。

もし本人に思うところがあっても、その感情を表に出すことはないかもしれない。

しかしこればかりはやってみないと分からないことだ。


「今更ですか。それにあの記憶については本人の希望で預かったものです。あちらが何を思ったのか知りませんが、本人が希望したわけでもないのに戻すつもりはありません」


記憶の糸を持って来いというのは即ち記憶を戻せということだろう。

しかしそれは第三者に言われたからと聞き入れられるものではない。

ロイクールが強く否定すると、魔術師長はため息をつくのだった。


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