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仮想敵からの依頼と噛み合わない対話(3)

忠告を事前に受け取ってから数日後。

彼の言う通り、ドレンがギルドにやってきた。

記憶の糸を保管する管理人室にいたロイが出てくるのを待っていた受付の女性がロイを廊下で呼びとめる。


「ロイさん、あの」

「どうしました?」


呼びとめられたロイが立ち止まると、彼女はとても言いにくそうにその理由を口にした。


「実は例の騎士団長様が来てまして、追い返そうとしたんですけど、ギルドを閉めるまで待つから待たせてほしいってずっと受付の待合の椅子でお待ちになってるんです。大人しく待つから、必ずつないでほしいって」


いつも通りならそのまま放置しておけば勝手に帰ってくれる。

けれど今回はそうならず、受付のある入口近くの椅子に腰をおろして、ただ黙って居座っている。

そのおかげで、中に入ってくるなり、彼のただならぬ空気を感じて帰ってしまうひともいるほどだ。


「そう。他に、皆に何か言ってきたりしてる?妨害するような行動は?」


ロイが、彼本人が何か問題を起こしているのかと確認すると、彼女は気まずそうに首を横に振った。


「いえ、そういうのはないんですけど、そこだけ空気が重たいです。というか、皆が怖がってその周辺だけが空いてる感じです」


幸いにも、彼女たちに詰め寄ったりはしていないという。

もちろんそんなことをしようものなら、ロイが魔法を使用してでもその人物を追い払うのだが、ロイの姿が見えないからと言って、関係のない人間に理不尽な要求を突き付けたりはしていないらしい。

彼がどのくらいの時間そうしているのか、表に出ていないロイには分からないが、受付が困惑して報告に来るくらいなのだから、相当長い時間すでにいるということだろう。

彼は自分への取り次ぎは要求しているが、その代わりいくらでも待つらしい。

本当に急ぎであれば無理を通そうとしてくるだろうし、権力も実力もあるのだから、受付など通さずに押し入ってくることだってできるのにそれをしないのなら、ロイの手が空くまでそのままで問題ない。

ロイはそう判断して言った。


「とりあえず業務に支障がないのならそのままでいいよ。もし何か言われるようなら遠慮なく声をかけて。聞かれたら待っている人がいることは伝えておいたし、出て来ないのは私が忙しいからだと伝えて様子を見ておけばいいし、何も聞いてこないならそのまま放置してかまわない」

「わかりました」


とりあえずロイは対処法だけ伝えて受付の担当を仕事に戻すと、黙々と仕事に取り組むのだった。



そうして仕事がひと段落ついたところで、ロイはようやく表側に顔を出した。

すると確かにそこにはじっとしながらも神経をとがらせている男の姿がある。

鬼気迫る表情をしている彼は、気迫がありすぎるのか、周囲の視線を浴びながら距離を置かれている。

これではその存在をどうしたらいいのか悩んで、受付から報告が上がるのも仕方がない。

受付からも目に入るため、依頼者だけではなく彼らも怖いと感じていただろうし、できることなら早く対処してもらって、お帰り願いたかったことだろう。

相手が誰か事前に聞いたロイは、相手を始めたら時間がかかると思って後回しにしただけだったが、それを少し申し訳ないと思いながらも彼に声をかけることにした。


「受付から連絡をもらったのですが、本当にお待ちになっていたのですね」


ロイが声をかけると、彼はいつものような軽口も言わず立ち上がった。


「ああ。とりあえず話を聞いてもらえるか」


表情に余裕がなさそうであることから、よほど深刻な話なのかもしれないと察したロイは、とりあえず話だけなら聞こうと首を縦に振った。


「ここではなんでしょう。応接室にご案内します」


そうして中に案内しようとしたロイに受付からは不安そうな声が上がった。


「ロイさん……」

「あの、ロイさん、大丈夫ですか?」


彼がいつもの様子だったら皆で結託して、ロイの手を借りずに追い出そうと考えていたが、それはできなかった。

でも、もし自分たちがロイを頼ったせいで望まぬ要求をされたりするのなら、それは阻止したい。

受付の目の届くところで無理難題を突きつけられたら声くらいは上げようと決めていた彼らだったが、応接室に入られてしまったらさすがに助けることはできない。

受付から上がるいくつもの不安そうな声を聞いたロイは、心配するようなことはないと彼らに伝えた。


「大丈夫ですよ。皆さんはいつも通り業務を続けてください。応接室にいますので、困ったことがあったら応接室に来てください」

「ですが……」


対処できなかった自分たちが言うのはどうかと思うが、それでも心配だ。

そのため受付側が彼とロイを二人にする事を渋っていたのだが、時間は空くものの、まだロイが対応しなければならない依頼が残っているのに声を掛けられないことを不安に思っていると勘違いしたロイは、仕事は普通に行うから問題ないと伝えた。


「彼は客人ではないから、いないものと思ってもらっていいです。遠慮する必要もありません」

「わ、わかりました……」


とりあえずロイがそういうのなら問題ないのだろう。

依頼者が来たら声をかけていいという意味だとは理解したけれど、遠慮する必要のない客人と言うことなので、もし何かあったらその時は乗り込んで行こうと彼らは顔を見合わせて決心を固める。

そんな誤解があることに気がついていないロイは、威圧感のある騎士団長のドレンを連れて応接室へと引っ込んでいくのだった。



「どうぞお入りになってお座りください。ここまでお待ちになっていらしたのですから、本当に重要なことなのでしょう」


応接室で椅子を勧めてお茶の用意に取りかかったロイは、彼に背を向けたままそう言った。


「そうだよ。その通りだ」


椅子に座ってから、ロイの背をじっと見ながらドレンはそう答えるが、そこに弾んだ様子はない。

からかいに来た訳でも、勧誘に来た訳でもなく、深刻な話になりそうだ。

ロイが自分の背に受けた視線と彼の声色からそう察すると、小さくため息をついた。


「気乗りしない話ということですか」

「そうだが、持ち込まないわけにはいかない、王命だからな」


どうやら王命で厄介事を持ち込むことになったらしい。

冗談とも本気ともとれる勧誘にやってくる殿下ではなく、それよりはまだロイとまともに話せるだろうドレンを派遣したのは、王族の自分可愛さの表れに違いない。

もともと王宮内に不穏な話が流れていることは、先輩が事前に教えてくれていた。

おそらく聞いたら引き返せないものだろう。

知らない方がいいことに違いない。

けれどそうして回避することは難しそうだ。

とりあえずロイはその詳細を聞こうと、お茶の用意をしながら心を決めたのだった。

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