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記憶喪失の旅人(6)

ギルドを閉めて一人になったロイは、先ほどの彼について考えていた。

彼の場合、記憶は執拗に狙われているのに、命はとられない。

あれはどう考えても事件に巻き込まれている。

本来、表沙汰にできないことを知られた際、それを理由に記憶を奪いたいのなら、一番手っ取り早いのは当人を殺害することだ。

生かしておかなければ、その口から情報が漏れることはないし、例え記憶の糸を取りだし保管していたとしても、それらは命がなくなれば魂と共に天に還っていく。

その結果、周囲は真相から遠のくことになるのだ。

しかし相手はそれをしていない。

理由は分からないけれど、彼に関しては、記憶を奪われなければならない理由と、命を奪えない理由が両方存在する稀有な存在ということになる。

とりあえず記憶管理ギルドとして彼にかかわってしまった以上、この話を国にしないわけにはいかない。

記憶を扱うものには報告義務が発生する。

当然規定を策定した自分にもそれはあるし、例外はない。

そのためロイは、あまり関わりたくないと思っている王宮に、自ら足を運ばなければならないのかとため息をつくのだった。



その日の翌朝、ギルド関連の申請があると先ぶれを出して、返事と共に出かけられるよう準備をしていると、偶然ロイからの連絡が入ったことを知った先輩が、 ここには来たくないだろうから自分が事情を聴きに行くと申し出てくれたらしく、ギルドの応接室で話を聞くか、空きがないのなら自分の屋敷の応接室を提供すると申し出てくれていると、連絡が入った。

先輩に連絡をしたというより、記憶管理ギルドを管轄している王宮魔術師団に連絡をしたのだが、偶然にもそれを見たのが先輩だったらしい。

ロイはそれでいいのならとギルドで待つことを選んだ。



本当なら平民が貴族でしかも現役の王宮魔術師を呼びつけるなど不敬なのだろうが、本人が言っているのだから問題ないはずだ。

何よりロイは、用事があろうとも王宮に向かうのが苦痛でならない。

それがなくなるのなら、不敬を謝罪するほうが気が楽だ。

何より彼は、ロイの気持ちを察して申し出てくれているのだろう。

それもあってロイはその言葉に甘えさせてもらうことにした。

そして都合の良い時間に来てほしいと頼むと、彼は勤務時間外にもかかわらず、すぐにやってきたのだった。


「ロイクールさん、あ、えっとロイさん、でしたね。ギルドから申請があるということでしたので、参りました」


業務で来ているので彼はそうしっかりと挨拶をした。

先日自分の件で尋ねて来ていた時を知っていると見違えたように思われるかもしれないが、こちらが本来の彼の姿である事をロイは知っている。

そしてロイも、ギルドの受付でこちらの様子を伺っている他の客人の見ている前では何もないかのように振る舞って見せた。


「ご足労いただだき感謝いたします。早速ですが応接室でお願いします」

「はい」


早く本題に入りたい。

ロイはそう考えて、あらかじめ開けておいた応接室に案内をするのだった。



「一体何があったのだ?そっちからこちらに連絡をしてくるからには、よほどのことなのだろう?」


応接室に案なされて腰を下ろした彼は、ドアが閉まったのを確認するなりそう切り出した。

このギルドの運営が開始されてから、ロイが対処に困って王宮に助けを求めるようなことが今までなかったからだ。

そんなロイが連絡してきたのだから余程の事に違いない。

彼が事前に用意した複数の契約書を素早く取りだせるよう確認しながら言うと、ロイは首を横に振った。


「連絡をするのがルールだから、それを守ろうというだけです。昨日、私のところに訪ねてきた旅人が、事件に巻き込まれているようだったので、できるならば保護をと思いまして」


国から正式に承認されている記憶管理ギルドは依頼主に対して守秘義務を課せられるが、記憶や依頼主が事件などに関与している場合はその対象外となり、事件について報告を上げることが優先とされている。

だから対処に困って対応を依頼したいわけではなく、報告義務を果たすため、王宮に連絡を入れたのだ。

もちろんこれが事件性のあるものかどうかは、調査をしなければ分からないので、ギルドが報告をあげれば、彼らはその調査に時間を割かなければならなくなる。

さらにロイは、その被害者と思しき人物を、今回の依頼主を保護してほしいと依頼した。

こちらは被害者が得られる正当な権利なので、記憶管理ギルドとは関係ないものではあるが、当然申し出があれば対応はされる。

調査以外に彼を守るためにも人が割かれることになるけれど、忘却魔法に絡んだ事件なので無碍に扱われることはないし、現時点で多くの被害を受けていると思われるので、彼らの監視下にあった方が当人は安全に過ごせるはずだ。

本当はロイが見守っていられればいいのだろうが、残念なことに彼にばかり構っている余裕はないし、彼を近くに置いて調査を行うことはできない。


「保護の依頼か。それならば納得だ。それで詳細なんだが……」

「詳細がわからないからこその、保護依頼になりますね」


何せ彼にはほとんどの記憶がないのだ。

そして気がついたら知らない場所に放り出されていて、しばらく生活をすると、また同じようなことが起こる。

その間に巻き込まれているトラブルについて、詳細は分からないが、記憶が失われているのは間違いない。

その時点で彼に対して忘却魔法を使った人間は、この国内にいるのであれば法によって罰せられなければならない。

この国の中だけですむ話かどうかは不明だが、確実に忘却魔法を使った事件が起きている。

それだけは間違いないとロイが先輩に伝えると、頭を整理しているのか彼は眉間にしわを寄せてなにやら考え込む様子を見せた。

少ししてから先輩は現状確認のため口を開く。


「ロイさんを尋ねてきた者はほとんど記憶がなく、ギルドで確認をした結果、何かしらの事件に巻き込まれている可能性が高いと、そういうことで間違いないだろうか」


とりあえず自分はそう理解したと先輩が言うので、とりあえず認識としては間違っていないと、ロイは肯定した。

その認識を前提とした上で、通常の犯罪との相違点を伝えると、今度はロイが説明を始めることになるのだった。

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