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他国に売られた婚約者(5)

ここで話をしても状況が変わらないことは分かっている。

けれど何かと焦りを覚える一方で、考えが行き詰まっていく。

そんな中、イザークはそれでも何とかしたいと、それを口に出す。


「何か方法はないのですか?姉さんがロイクールさんと幸せになるためにできることは……」


やりたくない事を押し付けることができたという意味で得をしている王女だが、そのような内容を知らされれば、プライドの高い彼女がミレニアを貶めようとするのは目に見えている。

きっと王女がどこかへ嫁に出されるまで、王宮内でミレニアの居場所はない状態にされてしまうだろう。

こうなってしまった以上、例えミレニアがこの国に残れたとしても希望していた通り仕事を続けるのは難しい。

では望まれた国に嫁に出されることがミレニアの幸せかと言えばそれは違う。

敏い娘に育ってはいるが、知らない土地に一人離され、そこで基盤を築いていくのは並大抵の努力でできることではない。

幸せな婚姻ではない上に、そのような苦労を背負わされるのは理不尽だ。

この国に残ることさえできれば、家族として手を貸すことも、ロイクールとの婚姻関係を成立させることもできるはずなのに、その未来の全てを手放すことを強制され、今まで献身的に仕えてきた姉一人が背負って犠牲にならなければならないのか。

せめて仕事を続けることができなくても、せめてロイクールと添い遂げさせることはできないのか。

どんなに考えても盾に取られている王家に忠誠を使うためにサインした魔法契約が重い。


「残念だが、今の状態ではどうしようもならぬ」


イザークはあがく術を求めて父親に問うが、彼はただ首を横に振るばかりだ。



「ロイクールさんもやっとギルド設立の申請が落ち着いて時間ができるところだったのに。これから姉さんはロイクールさんともっと親交を深めていけるはずだったのに、随分な嫌がらせですね。私はこれでも、あの無能な人間が上に立つこのような国に尽くさなければなりませんか?」


元々の能力の高さだけではなく、ドレンに持ち上げられたこともあって今の地位にあるけれど、別にこの地位を捨てても構わないとイザークは思っている。

今回の件でイザークの王家に対する信頼は地についている。

もともと騎士と魔術師は平等と言いながらも、自分たちが力でねじ伏せられないよう騎士を忖度していたような者たちなのだ。

彼らのために動きたいなどとは思わない。

それならいっそ、職を辞してしまうのが手っ取り早いだろう。

ただ、貴族として、その地位を自ら手放すことに抵抗があった。

理由はひとつ。

その選択が家全体の価値を下げる大きな問題だからだ。


「イザーク、お前の気持ちはわかるが、そもそも我々貴族には国と国民のために尽くす義務がある。その義務を背負っているからこそ、税金でこうした暮らしをすることが許されているのだ。それは王家も同じだが、彼らは国民のためと言いながら、我々を慮っているわけではない。国のために表には立っているが、あそこは腐敗の温床でもある。特にあの姫殿下の周りがだ。だから姫殿下は今回の話がなくとも、全ての王族の汚名を着せられていずれ別の国に出されるだろう。そうして腐敗を払拭したことにするつもりであれをのさばられている。彼らからすればそれが延期になっただけの話だ。そして我々の目が届かなくなれば腐敗はより早く進行するだろう。おそらく、この腐敗が表に出る前に彼も王女を外に出すつもりだと考えていたのだが、そもそもなぜこのようなことになったのか……」


全ての腐敗を王女のせいにして、自分たちはクリーンだと国民を納得させる。

王女のあの性格や振る舞いを普段から知っている者たちなら、それで納得するだろうし、恩恵を受けてきた者たちも、自分たちのしてきた事を隠蔽したいと考えているのだから口裏合わせに協力するはずだ。

そろそろリセットしなければ自分たちの腐敗の方が先に露呈する可能性があるのだから、本当ならこの辺が潮時と考えるべきなのだが、もう少し利用してからでもいいと判断したのだろう。

まさか他国から暗に強い拒否を示され、自国が上手く誘導されたことが理由とは考えてもいない彼らは、その対応に対して王家への不満を深めた。


「延期の仕方が他人の人生を踏みにじるものというのはいかがなものかと思いますが」

「そうだが、それを言っても仕方がないのだ。」


今回の件、全ては相手国の思惑と、皇太子が保身のために周囲の犠牲を選択したことによるものだ。

こんな余計な話がなければ王女は嫁がされると、内情を知っている者は皆思っていた。

何より王女に振り回されて疲れている皆が、そこに期待を寄せていたのだ。

もちろん、王女の兄である皇太子もその一人だったのは間違いない。

妹のわがままで自分の治世で国が崩壊しては困る。

だから彼自身もこの辺が潮時だと思っていたのだ。

しかしそれはなされなかった。

相手国から別の人間を指名してくるとは思わなかったのだ。

ただどちらでもいいと言っている以上、この国が下に見られないためには下の者を送りこむしかないし、指名を受けたミレニアは優秀な人材だが皇太子の手駒としては使いにくいと思われていた。

そうなれば答えは一つだった。

ただそれを辞令として言い渡すより、王女のプライドを刺激して追い込んだ方が出しやすいし自分の傷が浅くすむ。

だから皇太子はわざわざその内容の手紙を妹に見せて、事が思い通りに動くよう利用したのだ。

皇太子の行動は、やっと王女から解放されると、ぬか喜びさせられた者達から反感を買うものではあったけれど、王女側はこちらに非はなく、相手が率先して王女ではない者を選んだのだから、自分のせいではないと広めていくことになるので、現状維持が成立することになる。

しかし相手国が、あんな人格の王女を引きとりたくないから、あの場で働き王女をサポートする姿を見て、一番まともそうだからという理由で選ばれ、こじつけとして指名されたとは知らない彼らは、なぜこのタイミングなのか、なぜミレニアなのかと頭を抱えることしかできない。

せめて婚約ではなく、婚姻の関係にあれば、相手にもそう返すだけで収めることができたかもしれないが、不幸にもミレニアは未婚だった。

こればかりはどうすることもできない。

今から婚姻届を出そうとしても、国外へ行かなくて済むようにするための保身と取られるだろうし、彼らが受理させないよう手を回しているに違いない

目の前にいる相手が悪い訳ではないにもかかわらず、話をしている二人は眉間にしわを寄せて深刻な表情で互いを見合うことしかできないのだった。

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