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他国に売られた婚約者(2)

王女の調査結果は散々なものだった。

うっすら気づいていたとはいえ、まさかここまでとは思わぬ内容であり、結果をその場で出さずに正解だったと思わせるに充分なもので、ここまでくると、さすがに他国に持っていかれないために取り繕っているというレベルではないと判断するに足るものが数多くでてきたのだ。

ここまでくればもはや武勇伝で、こんな王女では、その振る舞いで国が滅ぼされてしまうかもしれない。

滅びなくとも、悪評やお天になるのは間違いない。

きっと過去何度もこのような話が出て、その度にこうして断られ、売れ残ってきたのだろう。

今まで不思議に思っていたが、自分たちに振りかかってみればその判断をした国は賢明な判断をした仲間のように感じられた。

自分が優位な立場だと思いこんでいる上、まだ若い彼女は気がついていないだろうが、たぶん貰い手もなく、国民に恨みを買って最期を遂げることになるだろう。

こんな国のために厄介事を増やす必要はない。

そう判断した彼らは、前もって決めていた内容で彼らに返事を出したのだった。



そうして客人が帰ってから数日後。

王の元に一通の手紙が届いた。

当然その手紙は王妃や皇太子にも回された。

そして彼らの言わんとすることの意味を何となく理解できた彼らは、それが王女に伝わらないよう話を持っていこうと顔を見合わせてお互いの意思を確認する。

甘いと言われるかもしれないが、身内であっても、王女が機嫌を損ねると癇癪を起す事もあり面倒だと感じているため、それを回避したいのだ。

とりあえず兄である自分が、王女をうまく言いくるめてくると、手紙を持って王女の元に向かうことになった。



ミレニアがいつも通り王女の近くであれこれと世話を焼いていると、彼女の兄である皇太子が尋ねてきた。

内側からドアを開けるなり、妹の方に向かって颯爽と歩いていき、すでに開封済みの手紙を差し出して言う。


「例の返事が来たよ」


皆が彼に頭を下げる中、王女だけは座ったまま差し出された手紙を受け取ることもせず、目上に当たる兄を見上げて小首を傾げている。


「どうでしたの?」


その質問で、兄は自分の行く末が決まるかもしれない手紙だというのに、自分で確認する気すらない妹に、ため息をつきたくなるのをどうにか抑えながら、悪い話ではないと彼は明るく振る舞う。


「お前に対してはどちらでもいいという返事が来ているよ」


少し棘のある言い方ではあるが、間違ったことは言っていない。

それにこの伝え方をしたところで、妹は常に自分に都合のいいように解釈をするにだから、まさか他国から自分が無能と言われている事に気付く可能性は低い。


「まあ。それじゃあどうなるのかしら?」


彼の声の明るさから、自分が心配する必要はなさそうだと察したのだろう。

それっぽく国の事を心配するようなそぶりを見せる。

なぜかこういうパフォーマンスはうまいのだ。

けれどそこに感心している場合ではない。

この流れで、最後まで内容を話しきってしまう必要があるのだ。


「それが相手が面白い条件を出してきていてね、代わりにミレニアを送ってくれても、今回の条件を飲むと言ってきているんだ」


これに驚いたのはミレニアだ。

なぜ自分が指名されたのかは分からないが、悪目立ちの絶えない王女の隣にいたせいでこちらまで目立ってしまったのかもしれない。




それを聞いて、当然行きたくなかった王女は喜んだ。

そして、今日も休むことなく王女の横で侍女として働いているミレニアに聞こえるよう、彼女は言った。


「あら、じゃあ、ミレニアでいいじゃない。私は正当な王族の血統だもの。欲しがるところはまだあるでしょう?それにあのような物騒な国に行くくらいなら、小さくても優雅に暮らせる国に嫁ぎたいものだわ」


さすが王女だ。

相手の都合など確認することすらしない。

当然彼女もミレニアに婚約者がいる事を知っている。

それなのに、すでにミレニアを差し出すことが決定事項扱いにし、しかも相手国は物騒だから行きたくなかったのだとまでのたまうのだ。

ミレニアの努力を認めてくれる人間の多い中、この主だけはミレニアを含め周りの人間を使い捨ての道具くらいにしか思っていないのが良くわかる。

さすがのミレニアも怒りがこみ上げてくるが、まさか皇太子まで同席している中でそれ尾をあらわにすることはできない。

他国に出される前に牢に入ることになってしまう。

どうにか怒りを収めようとしているミレニアに、皇太子は逃がすまいと声をかける。


「そんなわけだよ。ミレニア、おめでとう」


ミレニアにとっては何がおめでたいのか分からない。

それは王族ご一家にとって、妹を手元に置けるからおめでたい話というだけだ。

それにミレニアでも可という話ならば、王女が行っても問題ない。

それなのに、あくまでこちらにそれを強いるのは職務怠慢だろうとミレニアは思いながらも、その気持ちを押さえて微笑んだ。


「あの、私には婚約者がおりますし、何かの冗談では?」


ミレニアがそれとなく言うと、皇太子は鼻で笑った。


「そんなわけないじゃないか。まあ、仕方ないな。特別にこれを見せてあげよう」


彼はそう言うと、妹に見せるために持ってきた手紙をミレニアに差し出した。

ミレニアは失礼しますと言いながら、その内容を隅々まで読む。

そして彼の言っていることに間違いがないことを確認すると落胆した。

同時に皇太子の機嫌が微妙に悪いのも、妹より臣下が優秀だからそっちの方がましだと言われてのことらしいという事も理解した。

彼らは王女ではなくまともな人間が欲しいから、王女付きで真面目に職務に取り組んでいた侍女をくれと言ってきたのだ。

他の使用人や侍女たちは見ているだけでろくに働いていなかったし、担当外とはいえ、困っている人間に手を差し伸べることすらしなかったのだから、相手方からすれば、彼らの印象が良いわけがないのだ。

けれど思った通り、やはり自分でもいいというだけであって、誠意を示すのなら王女を差し出すのが正解だろう。


「これは相手に試されているのではありませんか?王女が来なければ見下しているとみなされたり、今回の決めごとを反故にされたり……」


この手紙の真意は計りかねる部分がある。

彼らにとっても賭けではあるのだが、もちろんこちら側が彼らの考えなど知っているわけがない。

これでもし、自分が本当に代わりに相手国へと行かされ、そのようなことが起こったら、自分はただの捨て駒にされ、運が悪かったと片付けられて終わってしまう。

しかもそうなったとしても何の保証もない。

現在この場において、ミレニアには味方が一人もいない状態だ。

周囲が全て敵ならば、保身のためと言われようとも、自分の将来のために、ここで引くわけにはいかない。

ミレニアはそう考えて気を引き締めると、次の皇太子の言葉を待つのだった。

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