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他国に売られた婚約者(1)

王女の輿入れ先となる予定の国から来た彼らは、入国してほどなく、基本的には国王や王太子たちが会議と称して設けた席についていた。

王女の輿入れだけではなく、国交に関する話し合いが行われる。

本来ならば自分のことも話し合われるし、今後の国に関することなのだから王女もその席に同席させるのが普通なのだろうが、彼らは話がこじれることを恐れて彼女を同席させなかった。

何より、王女本人が難しい退屈なところに同席はしたくないと拒否していたので、同席しないことに関して彼女がごねることはなかった。

王女はその間に自分を美しく飾ることに時間を使う。


「ねえ、ドレスはいいのだけれど、もう少しアクセサリーを多くしたいわ」


すでに準備を終えた王女は退屈そうに自分が呼ばれるのを待ちながら、時折鏡を眺めて注文を付ける。

その間に入って王女をなだめるのもミレニアの役目だ。


「夜会ではありませんし、それ以上つけますと品が損なわれてしまいます。何より、せっかくご自身が美しいのに、それを隠すまで宝石を付ける必要はございません」


ミレニアが王女を持ち上げながらそう言うと王女は少し考えてから言った。


「それはそうね。じゃあこれでいいわ」


そういう会話が繰り返されること数時間、そのたびにどうにかミレニアが王女をなだめて対応する。

他の者たちはあまりにも王女がうるさいので、もういっそゴテゴテに飾って置物のようにして連れていけばいいのではないかと思ったりもしているが、そんなことをすれば他の王族のひんしゅくを買う。

そしてミレニアが対応しているのだからどうにかするだろうと傍観しているのだ。

自分と同じ立場なのに何もしない彼女たちを見ながら、ミレニアには彼女たちを時折睨むことしかできない。

ここで働けと声を上げると王女が話をややこしくしかねないからだ。



そうして待つこと数時間、男性達の会議が終わったようで、ようやく王女の出番が来た。

まずは相手に好印象を与えること、それが王女の課題だ。

彼女が輿入れをすれば、今まで何度も戦になっていた彼の国とのつながりができる。

今までは物品で解決し、その結果、途中で決裂したり反故にされたりすることも多かったけれど、さすがに王女を輿入れさせ、親族として付き合いを始めれば、そのようなことにはならないだろう。

何より王女を介して彼の国を監視することもできる。

王女自身が役に立つとは考えにくいが、それならば彼女に付ける付き人に優秀な間者をつければいいだけだ。

だから国としては、この縁談をどうにか前向きに持ち帰ってもらいたいと思っていたのだった。



しかし会食の席でも王女はいつも通りだった。

むしろ諌められることはないと知ってか、自分が優位であることを見せつけたいのか、目的は不明だが周囲にささいなことで注文を入れる。

国王や王妃、王太子は少々苦笑いをしながらも、特に何も言わない。


「うちのものがいたらなくてごめんなさいね。何でしたら、そちらのお茶も新しくするよう言うわ」

「いや、結構だ」


彼らはこのようなやり取りを幾度となく繰り返すことになったが、それでも国王と皇太子は苦笑いをし、本来諌める立場の王妃も注意をする様子を見せなかった。

そして誰もミレニアに手を貸すよう自分の使用人を動かすようなことはしない。

これについてはさすがに諦めていたミレニアは、そんな王女の要望に表情を変えることなく応えていった。

時には先読みし、準備を進めてできる限り相手にも不快にならないよう努める。

この場を乗り越えることさえできたなら、ロイクールとの明るい未来が待っている。

王女付きから外してもらえるよう頼むことも可能だし、王女が他国に行くのなら自分がついていく必要はないのだ。

今回のために相手国の事をいろいろ勉強したけれど、その知識を使うような会話は出てきそうにない。

王女の行動がそれ以前の問題だし、相手国の要人とは会話をしていないのだから、アドバイスをする必要がないのだ。

さすがに他国の要人の前で大声を上げたりはしないけれど、基本的にわがままな気質はそのまま披露することになった。

しかし王女もさすがにそれ以上の失礼をすることはなく、会食の後、この場は解散となった。



解散後、用意された部屋に案内された彼らは、一つの部屋に集まり話し始めた。

本当なら会議の後、色々すり合わせたい事もあったのだが、会議からそのまま会食という流れになってしまったため、そのタイミングを逃していたのだ。

おかげであの会食ではどう話をするか悩み、意に添わない事を発言しないため黙っていることしかできなかった。

しかし、そのおかげで見えたものもある。


「あちらの姫君は随分と教養が不足していると見える」


嫁として迎える予定の彼の一言で別の者も意見を口にする。


「わざとでは?嫁の貰い手として選ばれぬよう」

「どうかな。それにしても足りぬだろうし、本当に賢い者なら他にやりようもあろうと思うが」


自分を馬鹿に見せる王族はたまに見る。

けれどそういう馬鹿は計算している様子が所々に見え隠れするのだ。

しかし彼女は違う。

あれはただの権力を盾に我儘を通す王女といった感じだ。


「あそこまでされますと、本当のところがどうなのか分からない、正にそこが狙いという可能性も」


国王も皇太子も会議で話した限りでは切れ者といった感じだ。

意見もしっかりしていた。

だから同じところで育った王女がそこまでおかしなことになるのかという疑念が生まれるのだ。


「彼らはそこまでするだろうか?そもそも、この先、我が国とうまくやっていきたいが故にあちらは王女を差し出すことにしたのだろう?」

「そうとは思いますが……」

「あの王女、まだ若いようだが、本当に中身がないのではないか?」


本当に輿入れさせるつもりなら、王女があのような態度を取るのはおかしい。

本人が引き受けたくないにもかかわらず、無理矢理決定されたという線も考えられるが、向こうが差し出してもいいと考えた理由が、見た目はそれなりだけど中身が使い物にならないからと言われたら納得もできる。


「それは分かりかねますが……」


少しひどいいい分ではないかと思いながら彼がやんわりとそう口にすると、そこで彼らは思わぬつぶやきを聞いた。


「王女についていた侍女は優秀そうだったな」

「侍女ですか?」


王女を思い出しているうちに、近くを動き回って対応していた侍女の事が頭に浮かんだ彼だが、それを思わず口にしていたらしい。

とりあえず聞き返されて我に返った彼は、話を王女に戻す。


「いや、それはいい。とりあえず一度調べた方がいいだろう。確かに見た目は王女だったが、あの教養のなさでは使いものにならないし、もし今回、あれで猫を被っていてマシな状態で、普段はもっとひどいということであれば、来られても邪魔にしかならない。何より王女を迎えたら、しばらくは伴侶として連れて歩かねばならないのだろう?あんなものは国の恥にしかならない」


さすがに伴侶として自国に迎えた他国の王女を、公の場に全く伴わないというわけにはいかない。

けれどあのような態度では恥ずかしくて表に出せないし、あのようなものを手元に置いていることによって自分の名誉が著しく傷つく可能性がある


「わかりました。一旦お調べします。それでもし、その予想が当たっていたのなら、その時はどうするおつもりですか?」


そう、王女の頭の中身が足りないというのは、あくまで彼女を伴侶として迎える彼の持った印象だ。

実際のところはどうなのか分からない。

けれどその嫌な予感は、彼と話しているうちに当たっているように思えてくる。

だから当たった時の事も決めておかなければならない。

一人が切り出すと彼はすでに頭の中で纏めていた案を提示する。


「ああ、そうだな。こちらとしてもこれ以上の戦争は得策ではないと考えている。ただ、何もなくこちらが先ほどの条件を容認するわけにはいかないから……。その時は王女付きの侍女を指名すればいい。会議での条件は、あの侍女を差し出せば変更しないと言えば、あれらは喜んで侍女の方を差し出すだろう。それならあの王女がこちらに来ることはない。仮にこちらに来るのが侍女ならば、連れて歩く必要もないだろう。戦に巻き込まれることの少ない安全な土地で、怯えることなく心安らかに過ごしてもらえばいい。扱いには困らないな」


本音を言えば、別に王女より格下の者が来ても問題ない。

本当ならばこちらも戦はしたくないのだ。

今度戦を起こせば、もう引退したとはいえあの大魔術師だって協力をするだろうし、噂に聞く彼の弟子という人物も出てくるだろう。

そんなものを相手にしていては国がもたない。

だから王女を差し出すので、停戦などではなく、今後は親戚として仲良くやろうと言ってきたのを、そこまでしてくれるのならと、渋る様子を見せながらも飲んだのだ。

けれどいくら王女とはいえ、扱いに困るものに入ってこられる方がよっぽど困る。


「確かにその通りです。それでは調査の上、そのように計らいましょう」


もちろん彼らは王女の事だけを調べることはしない。

調査対象にはミレニアも含まれた。

彼らからすれば、仮に見た目通りならあの我儘そうな王女よりマシであれば誰でもよかったのだが、さすがに素性の知れない者を迎えることはできない。

そうして彼らは短い期間で情報をかき集め、戻ってから結果を出し、その内容を改めて伝えることに決めた。

今回の訪問で婚約を確定する必要はないのだ。

すべては戻って落ち着いてからでいい。

あとは、相手が必要以上に自分たちを気にいったと言いだして、話がこじれないようにするだけだ。

とりあえずこの国を出るまで、彼らは目立たないよう、大人しくしていることにしたのだった。

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