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新しい家族と親交(11)

そうしていよいよ、王女殿下の輿入れ先となる国の者たちが入国する当日となった。

プライドの高い王女は見た目だけは抜かりなく整えたけれど、中身はいつものままなので、周囲からはため息しか出ない。

けれど、我儘王女のために何かしようとは誰も思わなかった。

普段からこちらが注意すれば癇癪を起こすが、流石に他国の要人の前でそのような行動には出ないだろう。

恥でもなんでもかけばいい。

そうすれば行動を改めて、少しはマシになるかもしれない。

そんな中、ミレニアだけは彼女をサポートできるよう、万全な形で挑んだ。

王女だけが恥をかいて済む問題なら皆と同じように見捨ててしまってもいいけれど、彼女の失敗のせいで戦争が始まるようなことになっては困る。

それに万全といっても、自分の身を守る最低限のマナーであって、王女を守るほどのものではない。

できる準備をできる範囲で行っただけ。

少なくともミレニアは思っている。

それに何だかんだいってもメインは王族たちの交流だ。

だから準備をしてあるミレニアを含め、それぞれの侍女や使用人たちは黙ってそれぞれの主の後ろに控えているだけでいい。

主が困ったり不手際があった際に出られるよう構えておくだけで、彼らが円滑に進めてくれたら何もすることはないのだ。



騎士たちは建前上、警備に出払っているが、魔術師たちはいつも通り働いていた。

書類仕事は、片付けても片付けてもなくなることはない。

それに魔術師が警備に出ていったところで有事になれば足手まといだ。

ロイクールやイザークは役に立つかもしれないが、他のものは戦うことができない。

それなら最初からじゃまにならないところで仕事を進めておくのがいい。

だからこの日も、魔術師長以外は今日も一部屋に集まって、いつも通り魔法契約の書類を作っていた。

他国の王族の訪問など滅多にない機会なのだから、貴族としては立ち会いたいところだが、その代償として面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。

遠くから見ていられるのなら良いけれど、参加するとなればそうはいかない。

あの王女がいて何も起こらないわけがないのだ。

何より、騎士たちが出払っていていない分、静かで作業がはかどる。

貯まった仕事を集中して減らす絶好の機会だ。

現に片手間でしか作業のできなかった魔術師たちの作成スピードがいつもより早い。



「あちらはどうなっていますかね」


作業に一区切りついた一人がそう口にすると、別の魔術師も体を伸ばしながらそれに答えた。


「ああ、例の客人ですよね」

「早くあの王女にはお輿入れしていただきたい」


次々と本日の作業量を終えたらしい魔術師たちが会話に参加していく。

きっと普段から雑用を持ちこまれなければ、このスピードで作業ができるのだろう。

ただ、スピードが上がったからといってずっと作業を続けられるわけではない。

魔力切れを起こしたらそれまでなので、彼らも少し余力を残した状態で手を休めて回復を待つ必要がある。

その回復を待つ間、普段なら持ち込まれる雑務を片付けるのだが、今日は依頼がないため、こうして話をすることができるのだ。


「あの、イザーク様、ミレニア様は王女の付き添いで立ち会われているんですよね」


実はイザークとロイクールは魔力にまだまだ余裕がある。

けれど皆が休憩し声をかけてくれているのにそれをあしらうのもおかしな話だ。

だからイザークもきりのいいところで手を止めて彼らの雑談に加わることにした。


「そうですね。一応、色々と準備して出ていきましたけど、何もないことを願うばかりです」

「円滑に行くのがこの国のためですからね」


イザークの意見に皆がもっともだと同意する。


「何より、私達のためです」


最後にそう言った魔術師の言葉を聞いて、イザークは微笑みながらふとロイクールの方を見た。

ロイクールは会話に加わりにくいのか、集中しているのかよくわからないが、顔を上げる様子はない。

けれどせっかくに機会なのだ。

彼には騎士のいない穏やかな空間で魔術師たちと交流してもらいたい。


「そうですね。これが終わったら、ようやく一歩進みそうですしね、ロイクールさん」


彼に答えながら最後にイザークがロイクールに投げかけると、反射的にロイクールは顔を上げてイザークの方を見た。


「え?私ですか?」


表面的な部分だけ話は聞いていた。

確かにミレニアにも苦労をかけている王女がこの国からいなくなれば、それだけで平穏になるし、今回は戦争をしないという友好条約と引き換えの輿入れだと言われているのだから、少なくとも王女が無事に輿入れしてくれたら敵国が減って国民の肩の荷も少しは降りるだろう。

けれどその話を自分に振られても答えられることはない。

ロイクールが無言になると、イザークは分かりやすく言葉を変えた。


「客人がお帰りになったら姉さんと新居を見に行くんでしょう?」

「そうですね。その予定です」


そう言われてもピンとこない様子のロイクールが素直にその問いに答えると、初耳だと周囲の魔術師は驚き、そして自分の事のように喜んだ。


「そうですか、いよいよ」

「お二人にはぜひ幸せになってもらいたいです。ロイクールさんは私達の恩人ですから、できることはお手伝いします。もっといい物件を探すのでも、お引越しでも、何でも言ってください。できることは少ないですが」


イザークの口にした一歩進む、それが、自分たちが婚約から結婚に進むという意味だとようやく気付いたロイクールは、喜んでくれている彼らに遅れながらも頭を下げた。


「ありがとうございます。喜んでくださるお気持ちを嬉しく思います」


二人は時期がくれば結婚はする。

時々音楽会に出かけているようだが、目立った交流はそのくらい。

正直結婚は形ばかりのもので、今までと何も変わらないのではないか。

周囲は何食わぬ顔で、いつも通り仕事を続けている二人を周囲はもどかしく思っていたのだ。

でもイザークは今、二人は新居を探していると言っていた。

いつそのような話があったかまでは分からないが、遅くとも婚姻のタイミングでミレニアは家を、ロイクールは寮を出ることになるかもしれない。

ロイクールの場合、もしかしたら寮の部屋はそのままに、新居と行き来しながらの生活を選ぶかもしれないが、そんなことはどちらでもいい。

ロイクールが寮からいなくなる可能性が高いことに不安がないと言えば嘘になるが、それよりも、恩人であるロイクールが幸せを掴んでくれた喜びの方が上回る。

その後の彼らは、王女の輿入れよりロイクール達の話しで盛り上がったのだった。

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