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新しい家族と親交(9)

一度参加してからというもの、ミレニアはロイクールを頻繁に練習と称して音楽会へと誘うようになった。


「音楽というのは、こんなに種類があるのですか。毎回違う曲が多数含まれてますし、演奏が変われば印象が変わることは最初に来た時から感じていましたが、ここまで多彩とは思いませんでした」


誘われるがまま何度も足を運び、多くの音楽に触れた感想をロイクールがミレニアに述べると、ミレニアは笑顔でうなずいた。


「楽しんでもらえているなら嬉しいわ。音楽会を選ぶ時に、毎回違う団体を選ぶようにしているの。団体によって色が違うから」

「色ですか」


楽隊によって決まった色を身につけるようななにかがあっただろうか。

それとも違う意味で捉えればいいのか。

そんなところにまで注目はしていなかった。

客席で何かをするわけではなく、受け身の状態なので主観だけで見聞きしていたけれど、本当はもっと奥の深いものなのかもしれない。

ロイクールが素直によくわからないと伝えるとミレニアは説明を始めた。


「そう。楽団によって使う楽器とか、演奏のスピードとか違うのよ。でも今は色々聞いて、好きなところを見つけるといいと思うわ」


好きなものを見つける。

つまり主観で聞いていて問題ない。

そういうことらしい。

それならばと、ロイクールはミレニアに質問する。


「ミレニア様のお好きな楽団は?」

「そうね……。先入観を与えたくないし、私に気を使って楽団を選んでほしくはないから、有名な楽団を一通り聞き終わって、ロイクールのお気に入りを教えてもらってから答えることにするわ」

「わかりました」


食べ物や花の種類などはストレートに答えるが、音楽に関しては答えてもらえないらしい。

ミレニアの感性を知る手がかりになればと考えての質問だったが、残念ながら自分がミレニアの知る楽団をすべて聞いて、先に答えを出さなければ教えてもらえないらしい。

楽団がいくつ存在しているのかロイクールは知らない。

そうなると先は長そうだ。

ロイクールがため息をつくと、ミレニアは言った。


「それにこれは勉強の一環でもあるの。ダンスのためでもあるけれど、耳を鍛えるのが目的なのだから、自分の好みをきちんと把握しなきゃだめよ。音楽会に来ていると知られている以上、夜会でその話を振られる可能性は高いのだから」


音楽会に参加していることは周知の事実となった。

音楽会にいることを容認されたのであれば、そのうち誰かが交流しようと近付いてくるだろう。

その時、音楽会にただ座っていただけですでは、形だけの参加だったのかと見下されて終わってしまう。

そうならないためにも多くの音楽のことを少しずつでも知っておいてもらわなければならない。

好まないのなら、こういう理由で自分はこちらの方が好みだと答えるくらいのことはこなしていかなければならないのだ。


「恥をかかぬよう勉強、ということですね」

「そうよ。私も頑張るけれど、ロイクールにも頑張ってもらわなきゃいけないわ」


ミレニアが常に一緒にいるとは限らない。

貴族というのはどこで行動を起こすのかわからないのだ。



そもそもロイクールは魔術師だ。

それだけでエリート扱いされる人材である。

しかも彼の大魔術師最後の弟子なのだから、多くの者が、たとえ彼が平民であっても、繋がりが欲しいと密かに思っている。

それにロイクールの同僚だって多くは貴族なのだから、その中にだって噂を聞いて悪意なく話題として持ち出す者がいるかもしれない。

そしてその様子は他の貴族がきっと観察している。

ロイクールは、神と呼ばれるようになったイザークが師と仰ぎ、その姉であるミレニアの婚約者で、ミレニア自身も王女殿下付きの侍女として優秀な人物だ。

この二人とこれだけ繋がりの強いロイクールの注目度が低い訳がない。



最初は目新しい人物が来たと周囲の視線は冷たいものだったが、劇場に何度も足を運ぶうちに、その視線を感じることは減っていった。

頻繁に参加することで、周囲もロイクールがいるのを当たり前に感じるようになったのだ。


「そろそろ夜会の心配は少し減ったわね」


劇場で周囲の様子を見ながら、ミレニアは嬉しそうにロイクールに言った。


「どうしてでしょうか?」


ミレニアに習ってロイクールも周囲を見回すが、自分では判断できかねた。

確かに最初に比べて周囲から向けられる視線にトゲを感じなくなったように思うが、それが受け入れられたからなのか、単に害がないと判断されただけなのか、そのあたりはよくわからないのだ。

そう考え込んだロイクールに、ミレニアは自信たっぷりに言った。


「だって、音楽会に来ている貴族には顔が売れたもの。これでロイクールが夜会に出ても、あの人たちは何も言わないわ」


どうやらロイクールの考えのひとつと、ミレニアの意見が一緒らしい。

それを確認しようと、ロイクールはミレニアに尋ねた。


「味方が増えたというわけではなく、敵を減らしたということですか。確かに敵として相手にする数は少ない方がいいですね」

「そうでしょう?」


ミレニアは理解されて嬉しいと、にっこり笑った。

考えが当たったということは、貴族的思考をひとつ理解したということだが、これをあらゆる場面で行わなければならないと考えると、ため息がこぼれる。


「普段からこのような結果まで考えて動かなければならないなんて、貴族はやはり大変ですね」


平民として暮らしていればそのようなことは考えなくていい。

思ったことを素直に話し、時に揉めたとしても上下関係があるわけではないから、その場で解決をすれば後腐れもない。

けれど貴族社会は揉め事やマイナス出来事はずっとさらされ続けるし、よほどの事を起こさなければそれを覆すことはできない。

まさにそれをやってのけたのは、ドレンの力を借りたイザークだ。

神とまで呼ばれるようになった今、彼の引きこもりであった過去を持ち出してくる人はほとんどいない。

ただ本人は、神と呼ばれることを恐れ多く感じているし、それならロイクールは神の中の神ですよと、少し困惑している様子を見せている。


「そうね。こればかりは慣れるしかないわね」


ミレニアもこのようなやり取りはあまり好まない。

しかしできなければ困るからやっているのだとため息をつく。



そんな会話もありながら、ロイクールたちは音楽会だけではなく、他の娯楽にも足を運ぶようになった。

ロイクールのエスコートが上達してからは二人での外出も増えたが、時々、抜き打ちテストと称してイザークも同行して、三人で過ごす。

街の中だけではなく、自然の美しいところなどに遠出もする。

そうして仲を深める二人を、イザークをはじめ、彼らの家の者たちは好意的に見守っていた。

ロイクールも徐々に楽しみ方が身についたからか、そのような時間を有意義に過ごせるようになっていた。

こうして楽しみながらも特訓を続けたロイクールだったが、その後、ミレニアと二人で夜会に参加する日は、一度も訪れないのだった。

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