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新しい家族と親交(4)

イザークが夜会で水魔法を放った時あの夜、他の家族たちはイザークと距離を置いてた。

もちろん、イザークを煙たがってのことではない。

ドレンの計画実行の妨げにならないようにだ。

事前に話を聞いていた彼らは、極力彼らの邪魔にならないよう、でも久々の夜会に参加するイザークを心配しながら、見守っていた。

イザークに騎士が絡んできたのはそう促したものだからいい。

でもまさかドレンが、あのような形でイザークを持ち上げるとは思っていなかった。

双璧という言葉を真に受けてはいなかった家族側からすれば、嬉しい誤算だ。

そして彼は、自分が道化の案内役のようになりながら、イザークに花を持たせてくれた。

しかも最後の水魔法で、詳細を知らされていなかった自分たちまで、あの力に驚かされることになった。

生まれつき魔力が多く、強い魔法が出がちだから、相手を傷つけたりものを壊してはいけないからと、いつの間にか控えめにしか力を発揮しなくなっていた彼だったけれど、あの時出した魔法は違った。

もしかしたらもっと強いものが出せたのかもしれないが、あの威力でも周囲を脅かすには充分だった。

同時に、今までイザークの力を抑制する方向でしかコントロールを促すことができなかった自分たちが、能力の高い彼の才能を殺し続けてしまったのではないかと恥じた。

強すぎるものであっても、自分たちがそれを活かす案を提示できていたのなら、あのようなことはそもそも起こらなかったし、イザークに引きこもりの汚名が付くことはなかったのではないか、あれはイザークの問題ではなく、対応を誤った自分たちの問題ではないのかと、夜会の後、三人は話したのだという。



「ねぇ、イザークの見せたあの魔法、ロイクールもできるのかしら?」


ミレニアが思いつきでロイクールに尋ねると、ロイクールは天井を見上げて、自分が使った場合をイメージしてから言った。


「試したことはありませんが、おそらくは」


初期の頃から師匠からコントロールすることを重点的に学んだロイクールは、大きな魔力を出し過ぎて発散する機会はなかった。

ただ、どのくらいまでできるのかを見るために、人のいないところで何度か師匠にやるよう指示された方法が、イザークの役に立っただけだ。

そしてあの時、師匠に言われ、自分が放った魔法はどうだったか。

ロイクールがそんなことを思い出していると、同じように夜会の事を考えていたミレニアが言った。


「前回思ったの。もっとよく見たかったって。父も悔しがっていたわ」


魔術師の家系ということもあり、今まで見たことのなかったイザークの魔法への興味は大きいようだ。


「よく見える位置ではなかったということですか?」


彼らはわざわざイザークから距離を置いていたらしいので、見るタイミングを逃したか、室内の窓側に寄ることができず、人垣の隙間から見ることになってしまったのか。

そもそも貴族の夜会にも詳しくないし、状況がよくわからないけれど、家族としては、どんなものかきちんと見ておきたかったということらしい。

ロイクールが曖昧なイメージのまま尋ねると、ミレニアは微笑んだ。


「全く見えなかったわけじゃないの。心配だからイザークが見えるように、会場の窓側にいたのよ。でもあんなに面白いことをするって知っていたら、間違いなく外の特等席を取ったのにって思ったわ」

「あの魔法に特等席はないように思いますが」


あの魔法を空に放てば、広域に水が降る。

その範囲ならどこにいても見られるし、イザークの魔法に関してはきれいに水が散るので、局地的な大雨になることもない。

室内の窓から見た方が濡れないし安全で、それこそ特等席といえるのではないか。

ロイクールが訓練場で見た彼の魔法を思い出して言うと、ミレニアはそれを否定した。


「やっぱり、ドレン様や殿下の位置は、準備から打ち上げの瞬間まで見られるいいところだったと思うの。もちろん、彼らを差し置いて前に出ようなんて思わないけれど、それでも羨ましいとは思ったし、ドレン様が興奮してあの子を連れて歩いていく理由もなんとなくわかった気がしたのよ」


ミレニアたちは魔法を発動するところからつぶさに観察したかったらしい。

当主は職業柄そんなイメージはあるけれど、ミレニア本人も同じように考えているあたりに、ロイクールは父娘の繋がり感じた。


「それで同じことのできる可能性のある私にどういう仕組みなのかを見せて欲しいと。仕組みは理解できていますが、イザーク様と同じようになるかはやってみないとわかりません。それでも良ければ、になります」


ロイクールが確認すると、ミレニアは目を輝かせた。

「もし見せてくれるのなら父も呼んでくるわ。きっと喜んで飛んでくるわね。逆に声を掛けなかったら恨まれるかもしれないわ」

立ち上がって今にも当主を呼びに行こうとしているミレニアを止めるように、ロイクールは声をかけた。


「それは今ここでやっていいものでしょうか?」


それを聞いたミレニアは、動きを止めると腰を下ろした。


「広範囲が一時雨になってしまうのだったわね。こんなにいい天気の日中に突然雨に降られたら困る人も多いわよね。夜ならいいと思うけれど、どうかしら?」


夜なら当主も仕事を終えている。

今声を掛けて仕事を途中で抜けてくるより、後回しにしたほうが問題は少ない。

ミレニアがロイクールの案をそう捉えて言うと、ロイクールは苦笑いを浮かべた。


「私は構いませんが、夜にはイザーク様がこちらにお越しになるのでありませんか?」


魔法を見ることに気を取られていたからか、夜ならば当主だけではなくイザークも家に戻ることを失念していたとミレニアが笑った。


「確かにそうだわ。それなら本人のやっているところを見せてもらったほうがいいわね」


ロイクールの再現より、本人のものがみたい。

それを頼めるのは家族の特権だろう。



そうして話が落ち着くと、ミレニアは微笑んだ。


「所作に関してはとりあえず、エスコートとダンスだけれど、まずはエスコートだけでいい気がしてきたわ。夜会に出ることはないけれど、一緒に外出はするのだもの。その時にエスコートされないと私が困ってしまうから。きりがいいし、イザークが戻る前におさらいしましょうか」

「わかりました。お願いします」


そうして交流の練習と休憩を兼ねた雑談を終えると、せっかく自分がいるのだからとミレニアはエスコートを要求するのだった。

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