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新しい家族と親交(2)

ロイクールはもとより魔術師長からの依頼を断るつもりはない。

イザークの後、先輩にも少し教えるようになったけれど、自分の身の危険が少し回避できるようになっただけでとても喜んでいた。

魔力量が少ないので防御魔法を年中無休で使うことはできないかもしれないけれど、今まで力で勝てなかったのだから、この先はそれぞれが持っている知恵と、少しの魔力をうまく使って、自分を自分で守れるようになってほしいとは思っていた。

やり方さえ身につけば、あとは自分で練習を重ね、よりよく扱えるようになればいい。

あくまで自分にできるのは教えるところまで。

あとは努力次第という状態にしておけば、自分のペースで伸ばしていけるはずだ。

皆仕事をしているのだからその合間に、そして家族がいればその家族との交流の後にしか時間が取れないだろうし、使える時間は一律ではない。

ロイクールは幸い、かの大魔術師と一緒だったので四六時中そこに時間を使えていたようなものだったのだから、魔法を磨くという一点においては、相当恵まれた環境に自分は置かれていたのだと思う。

そうして一人でも多くがそれらを身につけてくれたのなら、今はロイクールやイザーク、そしてドレンの協力があって地位が確立されているような状態だが、地位を回復した魔術師たちは、訓練で身に付けたものを自信の根拠として、人前でもっと堂々としていられるはずだ。



今の魔術師たちは本人の弱いという思い込みと、人の良さが裏目に出ていて、騎士に何を言われても強気に出ない人が多い。

しかしこれから先、イザークが率いることになる団の魔術師なのだ。

是非個々人の能力を底上げしておきたい。

それでもイザークを超える逸材はおそらくいない。

だから彼らの底上げをしたところでイザークが次期魔術師長というのも揺るがないだろう。

全てがロイクールの望みと合致している。

だからこれは魔術師長だけが意図したことではなく、さらには魔術師長に誘導されたわけでもない。

自分の意思で決め、そうあってほしいと願ったのは自分なのだ。



「つまり魔術師長からすると、すでに私が彼らを指導するという言質は取ってある、という扱いですか」


別に問題はないけれどとロイクールがそれとなく匂わせると、ミレニアはうなずいた。


「そういうことになるわね。でも、仕事の範囲ならいいのではないかしら?かえって個人でそういう仕事を取るとトラブルになった時に厄介でしょうし、もし魔術師団内でトラブルが起きたら全部彼に被ってもらえばいいのよ」


先輩の個人的な頼みから発展して、イザークには魔法を個別に指導したし、先輩にもその流れで魔法を教えたりした。

だから頼まれれば少しくらい、他の魔術師たちにも同じようにアドバイスしてもいいだろう。

ロイクールはそう考えていたのだが、ミレニアからすると、それは危険だという。

ロイクールのやり方では、個人の繋がりで行われたも指導として扱われるため、何かあれば責任は当事者にかかる。

それがたとえ善意でも、内容によっては責任を問われかねない。

貴族社会、特に王宮内では足の引っ張り合いも多い。

この先もロイクールが王宮魔術師を続けていくつもりなら、慎重に動くべきだと指摘する。

しかし同じ内容をロイクールが魔術師たちの訓練を仕事のひとつとして受けるなら、そこで起きたすべてのことは仕事上のものとして処理できる。

処理されるものの中には当然トラブルも含まれる。

つまり個人で責任を負う必要はなくなる。

その上、給料ももらえるのだ。

魔術師長が魔術師たちをよろしくというのなら、指導するよう命じてくれと言えばいい。


「今回、騎士団長の件も一緒に被っているのにですか?」


ミレニアの言い分も分からなくはないが、 さすがに自分の指導の責任をすべて負わせるのはどうなのか。

ロイクールからすれば多少は恩のある人物になるし、現役なので自身の上司でもある。

何よりイザークの件でも訓練場を夜中に使えるようにしてくれたのは魔術師長なのに、ミレニアは感謝をするどころか、そのくらいは平気だと言ってのける。


「確かにイザークのことは配慮してくれたかもしれないけれど、元々責任者として騎士たちの増長を食い止められなかったのが原因じゃない。結局あの子を外に出られるようにしてくれたのはロイクールだし。それにね、あんなのパフォーマンスよ?もういい年なんだから、引退を考えていなかったわけがないわ。でもイザークはあんな事になっちゃったし、他に任せられる人間がいなくて、引退の機会を逃していただけよ。だからいいの。あの人はいるうちに利用しておかなきゃ」


王宮で仕事をしている中でも最高クラスにある魔術師長を最後はあの人呼ばわりだ。

もしかしたらイザークの件を解決できなかったことをよほど不満に思っているのか、それ以前に何か別のトラブルがあってのことなのか。

もしかしたらこの家で魔術師長の話をしない方がいいのかもしれない。

出さないほうがいい話題なのか、それを確認しておこうとロイクールは言いにくそうに口を開いた。


「失礼ですが、こちらの家は、前に魔術師長と何かあったんですか?」


ロイクールがそう尋ねると、ミレニアはキョトンとした表情を見せてから、楽しそうに笑った。


「特に何もないわ。むしろ仲がいいくらいよ。だから向こうの考えがよく理解できるのよ。特に父とはよく一緒にいたし、うちにも来ていたもの」


ミレニアが幼い頃から魔術視聴はこの家に出入りしていたのだという。

だから父親とも親しいし、自分もよく会っていた。

もちろんその中にはイザークも含まれていて、甥や姪を可愛がるように接してもらっていた。

イザークの件は残念な部分も大きいけれど、だからこそ、イザークが解雇されないよう情をかけてくれた部分もあったようだ。

ただ、元々イザークは魔力量が多くて、優秀な人材なので、それを利用した部分も大きいし、これで王宮への対応に恩を感じてもらえたら、ずっとここで働いてくれるだろうという王宮側の思惑も透けて見えている。

貴重な人材だから優遇して恩を売っておけばいい。

その辺の彼らの思惑の背をそれとなく押し、他の駆け引きもうまく使って、魔術師長はイザークの立場を維持するよう努めたのだ。


「そういうことですか」


裏での駆け引きについてはよくわからない。

自分がいない時期のことも多く含まれているのだからなおさらだ。

けれど、これが貴族というもので、これからは自分もこのような駆け引きができなければならないのだなと、当たり前のように話すミレニアの話を聞きながら、ロイクールは思うのだった。

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